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黄金の荒野を拓く@宇宙ビジョン作家人響三九楽(ヒビキサクラ)
2021年4月1日 22:41
江戸城を開け渡す四日前、ようやく新しい家が決まった。大奥で働いていたたくさんの女達は、実家に戻るか、新しい居場所を見つけ出て行った。滝川を始め、ほんの数名だけが最後まで私と共に大奥に残った。静寛院宮様とは別々の屋敷で暮らすことが決まり、大奥の終焉はすぐそこまで近づいていた。静寛院宮様は江戸城明け渡しの前に引っ越すことになった。荷造りが終わり、お迎えを待つばかりの静寛院宮様を部屋に招いた。これま
2020年10月11日 13:02
愛は態度だけでなく、言葉でも伝えたいこの時から、私は心から望んだものができた。家定様とのお子だ。私と家定様とのお子が産まれ、その子が男子であれば将軍の跡継ぎについて何の問題もなくなる。もし私にお子ができれば、家定様も未来に希望が持てるのではないか、と思った。「のう、幾島。もし私と上様の間にお子ができたのなら、義父上様も一橋慶喜様を推さず、私達の子を時期将軍へと推して下さるのではない
2020年10月8日 17:47
神様が用意した束の間のドルチェヴィータあれ以来、私と家定様の距離は縮まっていった。家定様は少しずつ、私に笑顔を見せてくれるようになった。阿呆を装った家定様は実はスィーツ男子で、趣味はお菓子作りだった。ある日、自分専用のキッチンに私を呼んでくれた。ドキドキして行った私の目の前にホカホカ湯気の立つ、黄色くて四角いものが出された。甘くていい匂いがキッチンの中に漂っていた。生まれて初めて見たお菓
2020年10月6日 18:34
私達は、運命という龍に選ばれここに来たその夜、私は寝所でふかふかの絹の布団に正座し、家定様を待った。胸のドキドキ鳴る音が聞こえそうなほど、緊張していた。部屋に入ってきた家定様はいつものように無表情だった。家定様も私と同じように布団に座ったが私と目を合わせない。それでも私は思い切って口を開いた。「今日、お母さまの本寿院様にご挨拶してまいりました」「ふん」家定様は、あごを上げ見下ろすように私