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黄金の荒野を拓く@宇宙ビジョン作家人響三九楽(ヒビキサクラ)
2020年9月11日 17:08
すべては光と影の表裏一体その後、私は東慶寺をよりよい寺にしたいと考えた。そこで目をつけたのが東慶寺の伽藍だった。東慶寺の伽藍は古びて、腐りかけていたの。伽藍とは、皆が集まり仏の道を説きながら修行する場所。言わば、東慶寺の「顔」となるメインスペース。そこが汚く古びていたら、東慶寺のイメージが悪い。だからこそ加藤明成にも見下され、攻め入る隙を与えてしまったのね。私はこの伽藍を女性の救済の役に
2020年9月10日 14:35
愛してくれてありがとう、愛させてくれてありがとう扉の開いた二十メートル先に先に、弟で現将軍の家光がいた。私はずらりと並ぶ家臣達を観客に見立て、ランウェイでウォーキングするモデルのように優雅に、そして凛として歩いた。家光の前まで進むと座って頭を下げ、いきなり口火を切った。「家光殿、お尋ねしたいことがあります。東慶寺は幕府公認の縁切寺で、間違いなかったですね?」「確かに、東慶寺は幕府公認の
2020年9月9日 14:51
神様は後からちゃんと、答えを用意している当時、幕府から縁切りが認められた駆け込み寺は、天秀尼のいる東慶寺と私が豊臣とのご縁を切った満徳寺だけだった。この時代の離婚制度というのは、きわめて女性に不利な仕組みなの。離縁したくてもできない妻が、夫から逃れこの縁切寺に駆け込む。縁切寺は妻から離婚請求を聞き妻を保護したのち、寺は夫に、離縁の示談を薦める。それでうまくいけば離縁が成立するけど、夫がご
2020年9月6日 14:14
自分の人生を輝かせる者それから何年も私は、自分のできることがわからずにいたの。その間適当に生きる、とは言い方が悪いけれど三十八歳から四十六歳までの私は暇つぶしのように生きていた。勝姫のことを心配することもなく、生活に何不自由もなく、傍から見たら「幸せ」と言える状態だったと思うわ。だけどね「幸せ」とは誰が決めると思う?周りではないのよ。自分自身よ。いくら生活が満たされていても、自分自身
2020年9月5日 18:00
この世に生まれ、生かされている意味は何?江戸に来て二年後、娘勝姫の結婚が決まった。十一歳の勝姫はパパの養女という形を取り、池田光政様に嫁いだ。片親だけど娘をちゃんとお嫁入りさせ、さみしさもあったけれど母親としての責務も果たし、肩の荷を下ろした安心感もあった。勝姫の嫁入り先はなかなか難しかった。片親と言っても、あの子は二代目将軍の孫で現将軍の姪でもあるから、下手な所には嫁入りさせられない。
2020年9月3日 18:50
今の自分を超えたい!忠刻ダーリンを失った本多家は、跡取りを弟の政朝様が継ぐことに決まった。私は勝姫を連れ、政朝様にお祝いの挨拶に行った。おめでとうございます、と頭を下げた私に政朝様は恐縮し、笑顔で言った。「義姉上、いつまでもこの姫路城に留まり下さい」政朝様も忠刻ダーリンに似て心優しい方なの。政朝様のすぐ横に座っていた義父上は、最愛の妻熊ママを失いげっそりとやつれていた。そして勝姫を手招
2020年9月1日 17:49
涙は明日への力になる「千姫様、あなたは亡くなった秀頼公のお恨みをかっております」その言葉を聴いた時、背中がゾッと泡立った。この人の言うことを聞いてはいけない、という思いと、すがりたい、という思いが強烈に交差した。本能は「近寄ってはいけない!」と赤信号を出し続けた。でも、私は彼女の前に座ってしまった。すぐそばには、ピタリと刑部卿局が張り付いていた。私の中で、ワイルドフラワーは確かに咲
2020年8月16日 14:48
生きているだけで、もうけもの刑部卿局に支えられ城を出たわたしは、五十代くらいのおじさんに迎えられた。「おお、おお、千姫様!よくぞ、ご無事で!!ささっ、こちらに。家康様も秀忠様も、千姫様を案じてお待ちになっています」あとで知った坂崎直盛、というおじさん、このどさくさに紛れ、嬉しそうに私の手を取ろうとした。その手を、厳しい顔をした刑部卿局がピシャリ!とはたいた。わたしはこの時呆然自失とし
2020年8月15日 15:32
切ない最後のキス砂漠に散った花びらの残骸を懐に抱え、わたしは大阪城に帰った。万策尽き城に戻ったわたしを、秀くんが笑顔で迎えてくれた。何の役にも立たなかったわたしは、泣きながら秀くんに抱きついた。秀くんはすべてをわかっていたように、わたしの背中を優しく撫でてくれた。その時決めた。秀くんと一緒にここで命を断とう、と。わたしはようやく顔を上げ、秀くんを見た。彼はわたしの瞳の中にある決意を掬い
2020年8月14日 20:32
自分がゴールを決めたら、運命が勝手にわたしを運ぶはず徳川との和睦が終わり、条件通り大阪城の外堀を埋める工事が終わった。「外はワイワイガヤガヤ賑やかね」そう刑部卿局に話しかけたが、彼女はわたしの言葉が聞こえていないように何かを一心に考えている。わたしが彼女の目の前で手を振って、ハッ!と我に返り「どうかいたしましたか?」なんて言うの。最近の彼女はどこか、おかしい。沈んだ顔をして無口かと思うと、
2020年8月13日 20:34
運命は自分の思いで、変えられるその年の十一月、ついに徳川と豊臣の戦いが始まった。初めは徳川が有利だったけど、真田丸で豊臣はよく踏ん張った。わたしはもちろん豊臣の応援をしながらも、心のどこかでおじいちゃまやパパやママ、弟達のことを考えていた。わたしは城の中でオロオロしながら、自分の身体が二つあれば、いいのに!わたしが二人いれば、いいのに!そうしたら心置きなくわたしの思いを分け、そこにい