古い写真を訪ね歩く 2 〜宮川邦夫さん(94)を訪問〜
川久保の、比較的川に近いエリアに建つ宮川邦夫さんの自宅に入ると、まず印象的だったのが吹き抜けの部屋にある大黒柱だった。
いくつかの写真を紹介してもらう中で、近くの石合橋の建て替え時に撮った集合写真に出会う。
この地域は抜井川のうねりが強く、昭和30年代にコンクリートの橋となる頃までは、大雨で増水するたびに橋が流されたと邦夫さんは語る。当時、大きな丸太はとても貴重だった。橋が流されたとしても、大きな丸太は下流まで流れていかないようにと、片方の端を針金でしっかりと繋げておいた。そうすると、丸太は激流に沿って縦になり、流されずにとどまった。水が引いてからそれを引き上げて、橋を作り直す時に再利用したと教えてくれた。
「この柱は、石合橋を掛け替えた時の橋桁の丸太をゆずってもらって、橋だったからほとんどヒビがはいっちゃって使えなくてさ、これだけ使えたんだ。この木は、100年は経ってるな。」と、立派な大黒柱を指して見上げた。驚いて写真と見比べてみると、そのくらいの長さの丸太であることが確認できた。
次に、小さな写真になにか小屋のような窓のない建物が写っていた。
「これは、家から近くの所にあった水車小屋でさ。10人でお金を集めて建ててもらったんだが、3日ずつ誰の家、次は誰の家って決まってて順番に使ってたんだよな。その時の水車(の歯車)がここにあるだよな。」と玄関の正面にある飾り棚を案内してくれた。
よく見ると直径90cmほどの大きな歯車だった。近くに寄って思わず触れてみると、釘を使わずに組み立てられた貴重なものだとわかった。
そして、雪か氷の上に座って写っている少年と男性の写真が気になった。「これはどちらの写真ですか?」と尋ねると、「それは、坂を下って川が曲がった所に、昔は水を堰き止めている所があって、冬になると凍るんでそこで遊んでた写真だな。叔父が撮ってくれたやつだ。」
板橋の凸版印刷に勤めていた邦夫さんの叔父がカメラを持っており、こちらに来た時に撮ってくれたため、写真がたくさんあると教えてくれた。
邦夫さんが用意してくれた写真の多くは、抜井川とその風景がたくさん写っていた。水車もまた川から引いた水を利用した大切な暮らしの道具だった。
川と橋、水と水車小屋。暮らしの中にいつもあった風景が写真に残されており、今は邦夫さんの自宅の一部となって存在し続けていることに心を打たれた。
邦夫さんに見せていただいた写真は他にもありますが、3月の写真展では教えていただいたエピソードを少し添えて展示させていただきたいと思います。その際は、珍しく貴重な写真をお楽しみください。
文:鈴木
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