映画の感想を通して、母との関係を修復した話
映画が好きだ、一人で映画を観に行くのが好きだ、と再三書いている。
が、実のところ、映画鑑賞は比較的新しい趣味だ。
今回は、私の趣味に映画鑑賞が加わった経緯と、映画を通して母との仲が改善した話を書いていこうと思う。
もちろん、
私と母の関係は映画がなくとも改善したかもしれないし、
映画ではない他のきっかけでも良かったのかもしれない。
それでも、私は映画のおかげだと思いたいのだ。
母は映画好き、私は小説好き
思い返せば、昔から母は映画好きだった。青春時代に宇宙戦艦ヤマトやスター・ウォーズを劇場で観たらしい。(羨ましい)
専業主婦だった母は、よく家事をしながらWOWOWで映画を流し見ていた。
私はといえば、小さい時から読書が趣味で、
例えばハリーポッターシリーズは
映画よりも本の方が優れているとまで思っていた。
過激な原作厨ってやつだ。
そんな私を映画好きにさせたのは、母ではなく一冊の本だった。
原田マハ氏の「キネマの神様」である。
なぜだか分からないが、この本がめちゃくちゃ心に刺さった。
あまりに刺さるので何度も読み返したが、その度鼻水垂らして泣いた。
なぜこんな好きな話なのか分からなくて、読み返して、また泣いた。
歩と父の関係が羨ましかった。
当時の私と母の距離
名画座へ行ってみたいなぁと思い、近くのミニシアターを検索した。
電車に乗れば行けるミニシアターが6か所ほど見つかった。
違いが全くわからず、一生懸命口コミを読んで2箇所に絞った。
なんだかこだわりがめちゃくちゃ詰まっていそうで、わくわくした。
本当は、映画好きの母に聞けば、
近くにあるおすすめミニシアターなんて一瞬で分かったに違いない。
設備、客層、椅子の座り心地など、
ネットで分からない情報も教えてくれただろう。
そう分かっていながら聞けないのが、当時の私と母の距離だった。
過保護な母に育てられた私は、とても真面目で良い子に育ったのだが、
真面目で良い子すぎて、反抗期を迎えてもうまく反抗することができず、
20歳を過ぎてもモヤモヤした気持ちをずっと抱えながら過ごしていた。
うまく反抗した方が、自立できていたのかなぁ、なんて思っていた。
母はいつまでも私のことを子供だと思っていたし、
私も母のことを同じ人間で同じ女だとは思えないでいた。
ミニシアターに行ってみた
そんななか、ある夏、私は抑うつ症状で会社へ行けなくなってしまった。
(この経緯はここでは書かない)
這うようにして病院に通い続け、
冬を過ぎる頃には復職へ向けた第一歩を踏み出せる位には回復した。
そこで思い出したのが、ミニシアターだった。
こだわりの詰まった宝箱のような場所で映画を観るなんて、
楽しそうだと思った。
見かけるだけで気分を悪くしていた「スーツ姿の人たち」も、
平日のミニシアターにはいないだろう。
初日は薬の影響もあってか、映画を観ながらぐっすり眠ってしまった。
正直、何の映画を観たのかもよく覚えていない。
でもなんとなく楽しかったので、
ミニシアターへ立ち寄ることが増えていった。
併設の庭やカフェの雰囲気も好きで、
映画を観終わった後、ぼんやりと過ごすのが至福の時だった。
映画の感想を母と共有してみたら
ミニシアターに通い始めて少しした後。
キネマの神様に登場する歩と父の関係に憧れながら、
ポツリポツリと、母に映画の感想を伝え始めた。
母は私の感想を否定することなく聞いてくれた。
いつもなんでも否定して、
娘の言動を自分の思い通りにしたがる母も、
大好きな映画の感想だからこそ、そのまま受け入れられたのだろう。
気になった映画は自分でも観にいってくれ、感想を伝えてくれた。
私も母の感想を、素直に受け取れた。
映画の感想という1点では、
私たちは親子でも、母と娘でもなく、
対等な大人として、話をすることができたのだ。
それに、私と母は、
映画の趣味は似ているようで、
映画友達としては不思議と馬があった。
そして、
初めて母のことを、
自分と同じ人間で、ただの年上の女だと思えた。
休職中で時間だけはあった私は、
その後もミニシアターに通い続けた。
帰宅後は必ず、母から映画の感想を聞かれ、私はそれに答えた。
映画を観に行く機会が増えれば増えるほど、
私と母の「対等な」会話も増えていった。
そして現在
私は結婚し、実家のあった大阪から静岡県に引っ越した。
以前の私なら、自分から母と連絡を取ることはなく、
母からの連絡を疎ましく思いながら、
良い子でい続けるため、
義務感でLINEや電話を返していたに違いない。
でも今の私たちには映画がある。
良い映画を観れば、必ず一文でも良いから感想を母に送っている。
酷い映画だったとしても「ありゃないわ」と母に愚痴る。
母も、私がオススメした映画を観た時は必ず感想を送ってくれる。
今はまだ映画に関してだけだが、
これからも時間をかけて、
母との関係を、より良いものにしていきたいと思っている。
しょーもないことを、しょーもないと言える関係を目指して。