【読書感想文】家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった(岸田奈美)

作者の岸田奈美さんに読んでもらえることがわかっていて、こうを書くのは失礼かもしれない。この本にすごく感動した、というのはちがう。誰かに薦めたい、とも思わない。
でも、読んでいるとこみ上げてくるものがあって、涙が出てしまった。

この理由を考えて、読書感想文にします。

最初にじわりときたのは「赤べこ」のところ。
たぶん、助けられてばかりの良太くんは、補ってくれている地域の人たちをすでに助け返してくれている。誰かを喜ばせることができたら、喜ばせた側の方が幸せなんじゃないかと思う。「こちらこそうれしかった」と。
でも、良太君はそのことに気づかないんだろうな。自分が、どん兵衛を買ってきたから、車いすを押したから、喜ばれたと思うんだろうな。この気持ちが全然伝わってないのに、よかったな!みたいなドヤ顔の良太くんが目に浮かんでくる。伝えきれないもどかしさと共に、そして相手から感謝されているかどうかなどお構いなしにハッピーをふりまく良太くんに胸がいっぱいになる。

次にうっときたのは、「輪廻転生には、障害者は前世で悪いことをした人っていう考え方もあるんです」の一文。
自分が言われたかのように、ぐさっときた。
物事に対して自分が思いもしない受け取り方をする人が少なからずいることに、ショックを受けたことが何度もある。そんなつもりじゃなかった、まさかそんな風に受け取っていたなんて、と。
そして、「だからこそ、どの国の対応がよいかなんて、それぞれ違う。一言聞くだけでいいんだ。」と言い切る岸田さんに潔さを感じる。
私だったら、聞くこと自体が傷つけてしまうこともあるから、聞くことすら躊躇してしまう。でも岸田さんは、それで傷ついてもいいから聞けるようになったんだろうな、と思う。

3つ目は、「どこかで、このお話が届きますように」。
私にも届けられなかった思いがたくさんある。今からでも届けようと思えばいくらでも届けられるのに。きっと届けたら、「そんなことあったっけ?」って笑われるんじゃないかな。
でも、当たり前に私を喜ばせてくれた人たちに、お返しができますように。

ぐっときたところを書き出して、わかったことは、私が良くも悪くも言えなかった気持ちを引き出されていたということ。岸田さんほどではないにせよ、私の言葉にできなかったり、伝わらなかった気持ちがあって、それを岸田さんの言葉で増幅させて思い出すから心に響いたんじゃないか、ということ。

憧れだった仕事を辞めて地元に帰り、なんとなくみんなに合わせる顔がないなと思っていた時に、また一緒に遊べるようになってうれしい!と言ってもらえたこと。ずっとチームのお荷物だと思っていたバスケで後輩から頼られるようになったこと。
たぶん本人たちが喜んでくれた何倍も、私はうれしくて力をもらった。でも、それは言えなかったし、言ってもきっと伝わらなかった。

夢に向かってがんばった証だと思っていた学歴や、身長の高さを生かしてかっこよくいようとしていたことが、実は敬遠されていたこと。
今でもしっかりしていないと、自分の芯をぐらぐらさせられる。この気持ちを口に出すことはないと思う。

自分のまわりにがんばっている人がいる。日の目を見なくても黙々と自分の使命を全うしようとしている人は、その存在だけで、ぐらつく自分を支えてくれる。この気持ちを伝えたとしても、相手にはきっと関係ない。でも、伝えたら喜んでくれるかもしれないから、機会があったら伝えよう。

涙の理由は、自分が届けたいけど伝わらない、そんな気持ちを増幅させられたからだったようです。

最後に、私には重ね合わせる経験はないけど、岸田さんに伝えたいことがあったので、書かせていただきます。

「いちばん大好きな父との、最期の会話が、いちばん伝えたくなかった言葉になった。」

「死んでしまえ」は、きっと多くの人が一度だけ言ってみて、もう二度と言わない言葉なのではないかと思う。
最期にならなくても、泣いて謝ることはできなかったんじゃないかと。
そして、どっちにせよパパ上もなにもいわなかったんじゃないかと。

きっと反抗期にしか言えない言葉。心から信頼できる甘えられる人にしか言えない言葉。
奈美さんにとっては「いちばん伝えたくなかった言葉」でも、パパにとっては「奈美ちゃんは大丈夫や」な言葉だったんじゃないかと。
いろんな気持ちがわかる奈美さんだから、もう気づいているかもしれないけれど、もしかしたらまだ気づいていないかもしれないので。

#キナリ読書フェス


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