今日も、あの日々と生きている。
日々はいつだって、同じように流れていくのに、時空が歪むほど引き伸ばされた濃い時間だけが、私たちの記憶に残る。流れる時間は平等なのに、記憶はそうじゃない。圧倒的に偏ったウェイトで私たちは、過去を自分の中にしまっている。
それを思い出して、引っ張り出して、それを味わうことが人生の目的の一つだと思う。
今回、新卒で働いていた同期と数日の旅をした。仲間の1人が10年経営した会社をバイアウトしたことと、また違う1人がハワイ島にしばらく暮らすということ、そして同期であり私がCRAZYを一緒に立ち上げたりえのCRAZY10周年の節目に、このメンバーと旅をすることになった。もちろん、それはいつもの人生のごとく、ほんのささいな盛り上がりから。
10年前の同じ6月に、りえちゃん以外の3人でオアフ島に来ていた。あの頃、27歳で会社を辞めて起業の直前にいた私は、多分今回と同じようなささいな盛り上がりに、ぐっと焦点を合わせてハワイにたどり着いていた。「10年前の今日」というFacebookのお知らせは、その日々を写真付きで数回教えてくれた。
誰1人同じ日に入国して帰国しない、今回と同じような感じの旅。オアフに滞在していた私たちは、ヒッチハイクして、車に乗せてくれた母娘と一緒に海で泳いで、その後お姉ちゃん迎えにハワイ大学に行ったり。私は1人でホステルに滞在し、サーフィン中に荷物ほとんど盗まれて、たまたま部屋に残したPCにカメラがあってよかったと報告したり、と忙しそうだった。
思い出して、笑い転げられるほどの引き伸ばされた、はちゃめちゃな日々が人一倍自分の人生にあることを気に入っている。多分、今回の旅も未来から見たら、引き伸ばされた濃い記憶になるだろうと思いながら、私は1人成田を発った。
オアフで数日プールサイドでぽやぽやと過ごした後、ハワイ島で皆が合流した。濃い緑が迫り来る島。高低差がすごくて耳が痛くなりながら、ボルケーノ(火山)やhot pod(温泉)に行き、MAKOAという天国のような山奥の宿で、1年以上ぶりの(なんなら数年ぶりくらいの)仲間たちと数日を過ごした。
1人は変わらず自由でヤンチャで、1人は変わらず優しくて突っ込まれまくってて、1人は変わらず女神のように私たちの全てを受け止めてくれて。私は変わらず、気まぐれで感性のままに意思を放つ。彼らと突然に過ごす、でも当たり前のような時間が、15年以上を経て私をふわりと抱きしめてくれた。
車のパンクから始まった数日間の滞在。毎朝朝日が見える部屋にだらりと集い、ベットに横になっても見える朝日をゆるゆると見てテラスでコーヒーを飲み、ブランチがてら外へでかける。1人が緻密に立てくれた計画を他の誰かがいい感じで壊しながら、毎回1時間を超えるドライブを3列シートで、適当に適度にずっと話をしていた。居心地が良くて、圧倒的な自分の居場所を再発見したような気がした。
創業23年の20名程度だった会社が、新卒を採用して2年目のタイミングで16名の同期で入社した私たち。「人生生まれ変わっても、またこの会社に入って、この仲間に出会いたい。」それは、私以外も皆が入社当時からずっと言葉にするほどで。久しぶりにそのフレーズを思いだした。
私の人生の原点に強烈に、この場所と、この仲間と、そして駆け抜けた日々があるのだ、と。
信じるものに向かって、いや会社とかを信じていたというよりも正確には、「こんなにも懸命な自分の未来」を信じて、無心で駆け抜けた日々とも言えるかもしれない。当時は忙しくて、一緒に仕事終わりに飲んだこともなかった。今になっても、頻繁に会ったりしないけれど、私たち同期はあの無心で駆け抜けた純粋な日々で繋がっているんだ、と熱い日差しの中で思った。
私はハワイ島に行って、死ぬほど笑った。最近笑ってなかったわけでもない。親しい人たちがいなかったわけでもない。でも、どこか寂しかったのかもしれない。話は通じても、全ては通じていない感覚、とでも言うのだろうか。同期の彼らと、私たちを突き抜ける「あの日々」という全体が、慣れない場所で挑戦をしてきた私を、優しくぎゅっと包んでくれた。
16年前、明け方に自転車を漕いで会社から帰って、シャワーを浴びて、2時間くらい仮眠をとってすぐまた会社に通ったあの新卒の日々。10年前のオアフで、ヒッチハイクをしたり、どこまでも歩いて笑い転げて、サーフィン中に全てを盗まれた数日間。
私の中にあのまっすぐな日々が確かにあること。すぐ隣で共に、生きていた仲間がいること。ほとんど全てを忘れていくこの人生において、濃く、ぽっかりとそれらが存在している人生を嬉しく思う。そして、その事実が不思議なほどに、私の背中を押してくれるのだ。
ハワイに来てよかった。何一つ現実は変わらないのに、なんか強くなった気がする帰り道。あの日々を味方にして、私はまた未来へ歩いていくんだ。やっぱり帰りもそれぞれの単独の飛行機の機内で、静かにそう思った。