ふたりで観覧車
彼との観覧車デートが実現したのは、私がひとりで観覧車に乗ってから実に、半年後になった。冷房がかかっているのに暑かった夏から、待つのが寒い冬のはじめに。
「向かい合わないとひっくり返るぞ」
「あ、そうか」
係員に観覧車のドアを閉められ、観覧車はゆっくり、ゆっくり上っていく。
色とりどりの観覧車の、私たちの色は緑色。
私と、彼の瞳の色。
色は選べないからきっと偶然だけど、何だかちょっと嬉しかった。
「話には聞いていたが、さすがに見る価値はあるな」
「綺麗ね。イルミネーションが輝いている」
「お前は綺麗なものが好きだから、きっと喜ぶと思ってな」
「ありがとう。あなたと一緒に観覧車に乗れて、嬉しい」
「なあ」
「ん?」
私が首を傾げると、彼は早口で言った。
「いっそもう、結婚しちまうか」
「へ?!」
「まだ、早いと思ってるか」
16歳で彼と出会って、お付き合いを始めたのは18歳。私が大学に入った年だ。それから、もう6年。
仕事は、これからだ。でも、仕事にのめり込んで結婚のタイミングを逃してしまうのも違う気がした。ひょっとして彼と家庭を作ることが出来たら、そこが基盤になって二人とも頑張れるのかな。そんなふうに考えてみたけど、それが現実になるのか。
観覧車はゆっくりゆっくり、てっぺんにたどり着いた。
「俺と、結婚してほしい」
すぐに、「はい」と答えるつもりが、一瞬間があいた。
「私で、いいの?」
暖房が入っているはずなのに寒くて、観覧車の中で震えながら尋ねた私に、彼は告げた。
「お前が、いいんだ」
向かい合わせの彼が立ち上がり、私を抱きしめた。観覧車が揺れ、私は彼の腕の中で彼に唇を塞がれた。キスなんてもう何度もしてるはずなのに、いつまでも慣れない私は、やっぱり今日も慣れなかった。
予想していなかったときに、予想していなかった場所でのプロポーズ。
彼が私のことを、そんな風に考えていてくれていたことを知って、心の中がほっと暖かくなった。
止まっていた観覧車がまたゆっくり、ゆっくり、回りだした。私を強く抱きしめたまま、彼は囁いた。
「指輪は、また、別の日に買いに行こう」
私が彼の顔を見ると、珍しくとても赤くなっていた。
「さ、サイズも、わ、分からんし、お前は…アクセサリの好みがうるさいから、変なものをやるわけにはいかないと思った」
いつも堂々としてるのになんでこういうとこだけどもるのかな。
そういうとこだよ。
「ありがとう。嬉しい」
自然に、笑みがこぼれた。彼はまだ赤くなったまま、私に言った。
「お前を、一生大事にするから」
ゆっくり降りてくる観覧車の中で、私と彼はまたキスをした。一回りして地上にたどり着くころ、私たちはまた向かい合った。
観覧車を降りると、木枯らしが吹いた。彼は私の手を取り、しっかりと繋いだ。暖房の入っている観覧車にいたのに、彼の手は冷たかった。指を絡めると、その指先が燃えるように熱い気がした。この手を離さない。きっと。
BGM:fine 天祥院英智(緑川光)日々樹渉(江口拓也)
姫宮桃李(村瀬歩) 伏見弓弦(橋本晃太朗)
「終わらないシンフォニア」