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昨日も、今日も、これからも

 目を閉じると、今までのいろいろなことが脳裏に浮かぶ。

真っ白なウエディングドレスを着て、永遠を誓った日。
酷い嵐で、夫と連絡が取れず不安なまま、小さな猫のぬいぐるみを抱きかかえて安否を心配した日。
目に染みるような青空が見えた日。
小さなもふもふを抱えて途方にくれた日。

 学生時代から交際していた彼と、私は25歳で結婚した。
 子どもが二人。猫が一匹。

 私たちが結婚した日は、同時に私を可愛がってくれた祖母の亡くなった日でもあり、下の娘の産まれた日でもある。
 そして、猫を拾ってきた日でもある。

偶然に偶然が重なって、忘れられない日になった。

 今日は、私たちの結婚記念日。
 下の娘の20歳の誕生日。
 うちの猫が初めてやってきた日。

「ママ、リクのごはんあげた?」
「ユイがあげたんじゃないの?…あら、空っぽ」
「リク、おなかすいてるって」

黒白のハチ割れ猫が私を見上げる。

「パパ、今日何の日か知ってる?」
「ん?なんだろうな」

 わざととぼける夫に、私は耳打ちする。

「そうか、カナ、誕生日だったか。…ハタチか。大きくなったな」

 本当はもうひとつあるんだけど。気づいてるかな。

「もう一つあったな、大事な日だ」

 彼は私の背中に、そっと囁いた。

「結婚記念日だったな」

 娘たちも、猫も、見ていないところで、彼は私を背中から抱きしめて囁く。

 ”お前をもらった日だから、忘れちゃいけないと思ってな”

 彼の顔には皺が刻み込まれ、剃り残した髭にも最近、白いものが混じるようになった。私が初めてあげたペンをまだ使っているのが驚くほどだ。
 私も目じりの皺が隠せなくなってきた。昔もらったローズクォーツのブレスレットは、チェーンが切れてから箱にしまわれたままだ。

 不意に彼の唇が私の唇に重なる。こんな風に甘いキスをすることも、忘れてしまったと思っていた。家族なんだからそんなものなくても一緒にいられるってずっと思っていた。

 だけど。

 やっぱり彼のキスは特別だった。
甘くて、苦くて、とろけるようで。


”ほら、言っただろ?ずっと大切にするって”

”その顔、狡い”

”もともとこういう顔だ。お前の好きな顔だろ”

”そうだったわ”

”最も、俺もそれなりに年を取ったがな”

”私だって”

”お前は…いつでも綺麗だし、可愛いよ”

 初めて私に”好きだ”と告げた時のように、少し顔を赤くして。
彼は私を自分の方に向かせて、もう一度強く抱きしめた。
 昨日も、今日も。そしてきっとこれからも。人生の最後、その扉を閉じるまで。

「愛してる」

私たちは、お互いに微笑んだ。

BGM:Superfly「愛をこめて花束を」


 


 


 

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