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Poem|ちいさな魂
米を研ぐ音
波の音
料理に塩をつかい
血液は血潮
とじた皮膚のすきまから
汗がこぼれてく
海があり陸があり
空へも行けるとおもった
海外旅行のトランク。
観葉植物に水やり。
世界はひらかれてゆく
ちいさな魂ひとつで
ちいさな魂/佐藤 咲生
Poem|まぎれもなく
厚切りの光が差し込む部屋
はちみつ色にとろける
ひらいた小説の見返しは
ざらざらした手触りの紅掛空色
いまある体だけで過ごす
いまある体だけで生きる
なんて貧相で
なんて贅沢な、
みずみずしい時間。
生きるのは上手じゃない
けれど
ひらいた掌の上でぬくもっている、
これは
まぎれもなくいのち。
まぎれもなく/佐藤 咲生
詩 今日しかない私を
旅先の街で聞く
朝が降りてくるときの
しずかな気配。
閉じたカーテンの向こう
広がる光と
ホテルの真っ白なふとんから抜け出した
私のたましい。
ほんとうは毎日
目が覚めると生まれ変わる。
しゃらしゃらと音を立て
冷たさとあたたかさに分類され
昨日が形になる。
その半ばで毎朝の私は
ぬるい生身のからだを起こす。
いつか死んでゆく人である不思議よ。
今日も私であることの軽妙さよ。
ホテルの朝食はなんだ
詩「風にゆれる空色」
買ったばかりの新しい
空色のブラジャーを
だれの視線も気にかけず
風に干す
わたしが流されて
わたしに辿り着く
どうでもいいことに
心悩ませるしあわせが
ここにあってもいい
心も体も思っているよりは
ひとまわりほどちいさい
風にゆれる空色。
わたしがほどけてゆく。
詩「祝祭の日を待ちわびて。」
生きると死ぬのあいだに
いつだって暮らしがあり
生きてさえいればなんて、とても嘘だった。
「じゃあ元気でね」
それからの日々を数えるために
わたしは指を水に浸し、鼻をすんと伸ばし、
かかとを真っすぐ地面に降ろす。
華やいだテレビを消し
冷え切った布団にからだを潜り込ませる。
眠りたいのに浮ついた気分が
目の裏から剥がれずに眠れず、
さっきまで見ていた世界の色が
暗闇でくりかえす。
「寂しい」と口