#065.おとんとパターと、ときどきおかん。
親孝行をしてきた(と思う)話。
きのう、娘を連れて実家に行った。お米や野菜をもらいにいくのと、古希祝いで贈ったGoogle nest hubの設定のためだ。
車で1.5時間ほどの、ほどよい距離感の田舎に両親は住んでいる。父は定年退職後にそば屋を始め、何気に繁盛店になっているから驚きだ。
娘は、生まれたての頃に2年ほど同居していたので、かわいさもひとしおの様子。連れていくと言ったら大喜びしていた。
昼、町の老舗洋食店を予約してくれていて、ステーキやらビーフシチューやらをごちそうになった。驚くほどうまかった。
午前中に村の寄り合いで草刈りをしていた父は、ランチを終えて戻るとほどなくソファで寝息をたてはじめた。
デジタルフォトフレームの目的で購入したgoogle nest hub。無事設定も終わり、ランダムに家族の写真が写しだされた。母は、幼いころの孫たちを懐かしそうに眺めていた。
「OK Googleって言って、音楽でもかけてみてよ」
母は中島みゆきの歌をオーダーした。「地上の星」のイントロが思いのほか大音量で流れて父は目を覚ました。寝ぼけ眼の父は、小林旭の歌をオーダーしたが、なぜか吉幾三の「酒よ」が流れた。
たわいもない会話をしたのち、父がおもむろに奥の部屋でパットの練習をし始めた。
「お前も打ってみるか」と父。「おお、やってみよか」と私。
幼いころ、父に野球を仕込まれた際の苦い経験から、父から何かを教わるのが苦手だった。
一生懸命、父の教えに応えようとするのだが、どうしてもうまく出来ない。だんだん父はイライラし始め、私はやる気を失う。そんな悪循環が続き、私は父から何かを教わるのを避けるようになった。
カーペットの上で父が何度かパットを打つ。「ん」と言って手渡されたパターを受け取る。
カーペットの対角線上に父が位置どる。狙いは父の足先だ。
一打目、右へそれる。二打目も同様。何か、いろいろとアドバイスをくれているが、右から左だ。
ふと、手と肩にぐっと力が入っていることに気づく。このシチュエーション、どうやら無意識にカラダが固くなってしまうようだ。
合気道の稽古を思い出し、ふっとカラダを緩める。パターの重みを両手に感じ、自然に前に押し出す。
コロコロコロ…とまっすぐ転がったボールは、父の足先1㎝手前でピタッと止まった。成功だ。その後何度か打ったが、いずれもナイスパットだった。
父は、何とも言えない顔をしていた。
ほんとはあれこれと指導したかったのに、思いのほか上手くいったので言う事が無くなった、そんなところか。それでもどこか満足げな表情に見えた。
いつしか父は年をとり、私も大人になったのだ。
帰り際、母は段ボール一杯のじゃがいもとキュウリを持たせてくれた。前日の営業で余った蕎麦も、夕飯にと保冷バックに詰めてくれた。
子どもを連れての里帰りも、あと何回できるだろうか。帰り際、車に手を振る父と母の姿が、ずいぶん小さく見えた。
最近は、元気な顔を見せるだけで立派な親孝行と思えるようになりました。
みなさんは、いかがですか?
ほな、また。