チューペット
「ケツの穴がおかしい。」
遠慮がちに私に向けられたケツの割れ目の中央にひっそりと佇む門は固く閉ざされ、その向こう側は見えなかった。
まあ、見えたところで私はケツの穴には詳しくないし、傷にはマキロンくらいの医療知識しか心得ていない。
その道の匠に所見を伺うため、うちの豪州人パートナーを連れ日本の肛門科の敷居をまたいだ。
宅飲みでぶっ飛ばしすぎて最初に潰れた人の運命を暗示しているようなこちらのイラストが、正しい受診体勢でして。
完全なる偏見やけど、このイラストに指示を仰がれるのは圧倒的に成人患者が多そうやのに、マグネットに貼られたシールが小児科感もあり、甘いお薬出してもらえそう。
「チョト ハズカシッ」と頬を赤らめるうちの豪州人のもとに早速匠が現れた。
なんというか、漏斗みたいなやつをぶっ刺され、固く閉ざされた門が力ずくでこじ開けられる。武力行使。
瓶に漏斗を刺すイメージまんまそのままで、ギャラリー側のほうが穴が大きいから光もよく取り込めるし、門の向こうがよく見える。
「奥さんもどうぞご覧ください。」
ケツの穴には詳しくないけど、勧められたので見といた。
もしこれが漏斗形じゃなくて筒状やったなら、万華鏡みたいに近づいて覗く羽目になってたかもしらん。
軽い痔かもしれませんねぇくらいの査定結果も頂きまして、めでたしめでたし…と思ったその時だった。
看護師さんが冷凍庫?からチューペットみたいなのを出してきて、匠に手渡し、それを匠がうちの豪州人の肛門にぶっ刺したのだ。
「ヒャーーーー!!! サムイサムイ!!」と裏返った声が響き渡る。
冷たい、と言いたかったのだろう。
よくわからんが、患部のトリートメントやったのだと思う。打撲を冷やす要領で、ケツの穴の違和感も取り敢えず冷やす的な。
「そうだ、チューペットを買って帰ろうか。」
肛門界隈を垣間見ることができた遠い夏の日。
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