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【ショートショート】手元のチーズ、向こうのあさり

 ちびちびと晩酌をしながらテレビを見ていた時。画面の向こうで着物を着た女性が、出演する芸能人の俳句にダメ出しをすると同時に、隣の彼がぽろりと言葉をこぼす。

「あさりってあんな字で書くんだー」

 その、今見ていたテレビの内容も一切無視な程に俳句のはの字もなく、あまりにも間抜けな言葉に缶ビールを傾けていた手を止めた。彼は時々こうやって驚く程間抜けな言葉をこぼすのだ。

「でも何で『浅利』なんだろ」
「浅瀬で採れるからじゃない?」
「あー、なるほど」

 更には私が適当に放った言葉に彼は存外納得してしまったらしい。「確かに沖で取れるあさりとか聞いた事ないもんな」と呟いては、スナック菓子をひとつまみ。ぽりぽりとチーズ味・チーズの形をしたそれが口の中で砕かれて堪能されていく。
 画面の向こうでは大御所芸能人の俳句が無情にもシュレッダーにかけられていた。軽快な音楽に合わせて紙吹雪が舞っている。

「てかあさりって春の季語なんだ」
「そりゃそうでしょ。旬は春だよ」
「あさりに旬とかないと思ってた。あー、でも確かに!春限定で丸亀製麺にあさりうどん出るもんな!」
「知識あっさ!」

 そもそもあさりの旬は秋もなのだが、面倒なのでそれは黙っておこう。そう頭の中で会話の終止符を打ち、スナック菓子を口に放り込んだ。チーズの濃厚な味が広がった。


あのうどん、馬鹿みたいにあさりが入っていて好き。


下記に今まで書いた小説をまとめてますので、お暇な時にでも是非。


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藤堂佑
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