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【シロクマ文芸部】寒空と言う極上スパイス
お題:寒い日に
寒い日には特別おいしくなるものがある。
陽も沈み、真っ黒な空と相対して、電飾の眩しい繁華街の地上。酒で上機嫌な人が行き交う夜の街で、寒い日に特別おいしくなるものと言えばひとつしかない。そう、屋台のラーメンである。
「大将、とんこつラーメン二つ!」
「あいよ!」
風よけのシートを潜りながら、外気温との差で曇る眼鏡を外しつつ隣の彼と二人で空いている椅子に座る。そして至極単純な注文をひとつ。それが耳に届くや否や屋台の大将は笑顔の掛け声と共に、すぐさま麺をぐつぐつと煮えたぎる熱湯に投入した。
熟練の手捌きでどんぶりがふたつ、こつんこつんと作業台に置かれる。しっかりと味のつけられた色の濃い返しがさらりと注がれ、白い湯気を勢い良く立たせる熱々の出汁が覆い被さった。茹であがった大将こだわりの少し硬めの麺も合流し、どんぶりの中で返しと出汁と麺が調和する。冷めないうちに伸びないうちにと手早く、されど丁寧に盛り付けられるチャーシュー・もやし・ねぎ・メンマ・煮卵。最後にそっとレンゲを添えれば出来上がったとんこつラーメンが提供される。
テーブルの上に置いてある割り箸を手に取れば、あとは手を合わせてから啜るのみ。
「ん~! おいし~!」
「やっぱここのラーメンが一番うめぇよな!」
「寒い日はこれに限る~!」
レンゲでスープを一口飲めば、寒さで冷えた体はラーメン一色に染まった。鼻の奥から喉を通って胃にまで到達する、濃厚なとんこつの香り。啜った細麺は啜り始めると止まらない。トッピングされた具材はどれもラーメンを引き立てる。箸の止め方さえ忘れてしまったような錯覚を覚える、ラーメン完食までの短い時間。
どんぶりの底が見えるまでスープを飲み干せば、まるでようやく現実世界に帰ってきた感覚。冷えた体はラーメンのように湯気が出るのではないかと思う程温まり、満足感と幸福感が全身を満たす。
財布から二人分のラーメン代をおつりなしで出し、テーブルに置く。ごちそうさまでしたと大将に挨拶をしてシートを潜った。相変わらず外は冷たい風が吹いている。だがラーメンで温まった私達は、いわば無敵状態。風など怖くはない。
「よーし、三軒目行くか~!」
「冷えないうちに行きますか~!」
「じゃあそこの店まで走るか?」
「乗った! 先に着いた方が一杯奢りね!」
「あっ! ずりぃぞ! フライングじゃねぇか!」
「世の中甘くはないのです!」
走ると風が肌に余計に突き刺さる。無敵状態のまま次の店に急がねば。
週2くらいで屋台のラーメンが食べたい。
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