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きゅうしゅうをめぐる旅「爆速くじゅう編」

前回の話はこちら!

さて、前回はなんやかんやあり、2日目に予定していた登山を1日目に強行することにしたのだった。

なんやかんやというか、ただ単に2日目の天候がすこぶる悪い予報であったからだ。それ以上でも以下でもない。

小雨なんてレベルではなかったので、最悪登れないかもと思った時に、たまたま1日目は天候が耐えており、たまたまカーシェアの空きがあったのである。

おれはまだ運に見放されていないぞ。

とにかく空港からでて、別府行きのバスのチケットをとりながら旅の始まりを振り返る。

別府駅から多少歩く場所にカーシェアの場所はあった。
まだ昼飯もたべていないので、本来ならば別府市内でうまいものを食いながらその日の予定を考える時間を設けるはずだった。

しかしこのままいけば、とにかくカーシェアの場所まで爆速で行くのがよさそうだ。

空の上で一旦諦めてしまった「島原大変」を別府行のバスに乗りながら再度開き、そんなことを考えていた。しかしおれの腹の虫は抗議の声をあげている。

なかなか文字が読めず、相変わらず文字の上を目線が滑るようにして「島原大変」を進めていた。徐々にペースをつかんではいたが、結局別府につくまでに20ページも読めなかった。旅の終わりまでに読み終わるだろうか。

別府市内について、バスから降りた。

ちょうど目の前にコンビニがあったのでテキトーに水とくいものを買い込む。そいつらをもって通勤ラッシュのサラリーマンくらいの忙しさでカーシェアへと向かった。

車はマツダ2を借りた。初めて乗る車だったが、なかなかかっこよく運転もしやすい車だった。筆者はまったく車に詳しくないので特にこだわりもないが、いわゆる「MTモード付AT」は好きである。マニュアルは面倒だが、かっこつけ運転がしたいので、山道なんかでレバーをかちゃりながら運転できるこの手の車はなんとなく好きだ。

まだ自分の車をもっていないが、そろそろ車を買おうと考えていた。そんな車がいいかもな。

別府からくじゅう連山の登山口まではざっと1時間程度の道のりだ。徐々に民家がまばらとなり、本格的に田舎道に入る。

そしてしばらく車を走らせて見えてきたのがこの景色だ。

くじゅう連山

まっすぐな道の向こうにそびえるごつい山。
天候は最高じゃないが、だからどうした。こんなに最高な景色があるか。

やはり外から見てもかっこいい山だ。早く登りてえぞ。

さらに車を走らせてようやく登山口についた時には既に14時を回っていた。

到着したおれは内心迷っていた。どうするべきだろうか。本来登山というものは時間に余裕をもって行うべきものだ。また、慣れていない山のためなるべく暗くなる前に下山するのが望ましい。

普通ならギリギリアウトな時間だ。最低でも往復5時間を見込んでいたので、今から登ったら7時を過ぎてしまうだろう。

しかし。しかしだ。

ここまできて逃すのはもっと嫌である。

幸い色々と装備は入っているので、最悪の想定もしつつ荷造りをおこなった。食料もあるしヘッドライトもある。難易度の低いコースもYAMAPで登録済み。

よし、行っちゃいましょう。(皆さんはマネなさらず。)

入り口には「午後からの入山はやめましょう」とのカバンがあり良心が痛むが、それなりに夜間の山行には慣れているので許してたもう。

さっそく爆速ペースでスタートした。4時までにいけるとこまで行ってそこから折り返す予定だ。そうすれば想定外のことが起きても日没までには降りてこれると踏んでの計画だった。

15分ほど登り、最初のチェックポイントについた。ここは沓掛山 (くつかけやま)である。


沓掛山

この時点ですでに1503mである。登山口が高い山はすぐに標高を稼げて、「いやあ良く登ったなァ」という気持ちにさせてくれる。まだ15分である。

こういうチェックポイントには少し開けた場所がある。そこでゆっくりとお茶をしている品行方正そうなハイカーたちをチラ見しつつ、ペースを落とさず目的地である久住山に向かう。おれには時間がない。

このペースでいけば1時間でつくはずだ。

ガシガシ上り、ガシガシ登った。

天候は晴れたり曇ったり、ガスったりを繰り返す。
晴れたりガスったり晴れたり曇ったり晴れたり。

突然霧に覆われて視界がなくなることもある。


こんな感じで雲が降ってきて


こんな感じの視界になる。これはこれで雰囲気あって好きだが、先が見えないだけでチョット不安になる。

そんな時に、はじめておれの前を行く登山者の背中をとらえた。
同じような時間帯から登り始める登山者がいないのですこしさみしい思いをしていたが、やっぱりおれみたいな無計画ものは、他にもいるみたいだ。

こんにちは、と一声かけて先を譲らせていただいた。
すこしおしゃべりしたかったが、その時間の余裕もないのである。なんだか少しもったいない登山をしている気持ちにもなった。

そしてまた一人の時間になり、無心に登り続ける。

相変わらず霧で視界が悪かったが、少しずつ視界が開けてきたその時、俺は圧倒された。

何も見えないと思っていた視界の先に巨大な壁が現れたのだ。
しばらく呆けて待っていると徐々にその曖昧な輪郭が現実味を帯びてきた。

あれが久住山、今回の目的地だ。

するってえとなんだい。あの急坂を最後駆け上がるってぇのかい。

「島原大変」に影響された無言の文句を言いつつも内心やっぱりわくわくしてしまう。
速いペースで登ってきたため息を切らしているものの、距離自体は大した距離でもなくまだ1時間も歩いていなかったので体力はほぼ満タンだった。

まだ往路ではあるが、骨のある道で辛い思いをするべきだと思っていたところだったのさ。

一層ペースを速めて、久住山山頂に達するために足を前に繰り出す。

最後の登り道はかなり歩きにくい道だった。岩がゴロゴロしているし、道なのかどうかもよくわからない。砂利に足をとられることも多い。

何回か滑りそうになって、落ち着いてを繰り返して、ようやくおれは山頂にたどり着いた。

久住山

うーん、曇り!!!!

そして結構寒い。風がビュンビュンである。

登った達成感をも吹き飛ばす冷たい風が、どうせなら雲を吹き飛ばしてくれたらよいのにな、と思ってしばらく待ってみることにした。

・・・うん。無理だね。

20分くらい、昼飯(?)を食いながら待っていたおれはついに音を上げる。

まあなんだ。晴れた山頂からの景色はついに見れなかった。見れなかったが、雨が降っていないのだ。それだけでかなり運が良い。

時間を確認すると、まだ16時であった。休憩を含めてもかなり速いペースで駆け上がったものだ。

まだ少し時間的な余裕はありそうだったので、少しだけ回り道をしつつ下山をすることにした。

特にコースは考えていなかったが、この近くには池があるということは調べていた。写真はみないできたのでどの規模の物かわからないがとにかく行ってみることにしよう。

靴紐を結びなおしリュックを背負って、遅刻しそうな高校生くらいのペースで山を下り始めた。何回か転びそうになりながら、次の目的地である「御池」にたどり着いた。

池はそれなりに大きく、それなりにきれいに見える水を湛えていた。池のほとりにルートがあった。人が通れそうには見えなかったが、目印があるので、人が通ることを想定したものであることは明らかだった。池に落ちないように気を使いながらそのルートをたどると、別の登山道にたどり着いた。

知らないルートだが、少し歩いてみることにした。するとすぐに人工物が見えてきた。人工物といっても、コンクリートの建物ではなく、石積みの粗野な建物だ。

近づいてみると、それが避難小屋であることが分かった。
避難小屋の中には中心を囲むようにして椅子があり、いくつかブルーシートに覆われた備品のようなものが転がっていた。

外に看板が設置されていることに気が付いた。
そこには、くじゅう連山で始めての遭難による死亡事故についての記述がかいてあった。

昭和五年八月のことだったらしい。
明日は我が身である。登山をする以上、常に遭難の危険はついて回るし、どんなアクシデントが起こるか、それは起こらないと分からない。

一層気を引き締めながら、現在地を帰りのルートを確認した。

ここから登山口に帰るルートはいくつかあったが、せっかくなので、この「御池」を一望できるピークを経由して帰ることにした。

距離としては近かったが、これもまたかなりの急登だった。
息を盛大に切らしながら、「天狗ケ城」の頂に上った。

いい眺めじゃあないか。
しばらくここでぼーっとしたい気持ちになった。急ぎの登山であることを忘れて10分ほど景色を眺めて座り込んでいた。

…危ない危ない。俺にそんな余裕はないのだった。

思い出すように立ち上がって、登山口を目指す。

帰りはさすがに複数の登山者と出会った。とりわけ外国人が多いように感じる。

くじゅう連山はたしかに良い山で、百名山で、美しい山だ。
しかし一方で、海外からわざわざ日本に来て登りたいと考えるというのはどういう思考なのだろう。いや、批判ではないぞ。うらやましく思ったのだ。

普段筆者が登る丹沢にも外国人観光客が増えている。

純粋にうれしい。富士山はオーバーツーリズムでカオスの限りを極めている。確かに日本で山、といったら富士山なのだが、個人的にフジヤマは登るより眺めるほうが楽しい。

その中でも丹沢・塔ノ岳から見るフジヤマは格別なのだ。
以前登った時にオーサムと叫んでいた外国人観光客を思い出した。

海外で山に登った経験はおれには無い。
ましてや、塔ノ岳やくじゅう連山などは、海外からみたらかなりマイナーな観光地に違いないのである。そんな山を一つの目的地として楽しんでいる観光客がいることが、純粋にうれしい。

さて、大変長くなってしまったが無事に日の入り前に登山口まで駆け下り、長い長い1日目が終わりを迎えようとしている。

一旦このあたりで今回の話を切ろう。

次は、待ちに待った、温泉である。

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