アザレアが香る
天使がいなくなってから2日が経った。
あれ以降何かがあるわけでもなく、ただ普通にいつもの日常が戻ってきた。
天使が元いたところにちゃんと帰れたのか、結局あのあとどうなったのかわからないけど、戻ってこないって事はなんとかなったのだと思う。
ぼろぼろの羽を羽ばたかせて飛んだ天使の背中が酷く綺麗に見えて、振り向いたあの時にどんな顔をしていたのかよく見えなかったことだけが心残り、というかちょっと悔しい気持ちだった。
天使がいたのはほんの数日なのに、なんだかんだ濃い時間をすごしたせいか、もっと長く感じる。
あいつのせいで狭く感じていた部屋も、なんだか前より広くなった気分だ。
羽の生えた大きな赤ん坊とでも言うべきか、手のかかる天使といるのは、楽しかった。
俺には食べ慣れたカップラーメンを珍しがって食べる姿とか、不貞腐れて布団にめり込んだらどんな声をかけても出てこないくせに、テレビをつけた瞬間に食いついてできたり、スマホを怖がって近づけたら怒ったり、いちいち大変で、全部が楽しかった。
広くなった部屋でひとり、カップラーメンをすする。
なんとなく物足りなくて、でも家には何にもなくて、仕方ないので買い物に行こうかと玄関に向かうと、ブリキの缶が置きっぱなしになってるのに気づいた。
そういや、天使が降って来たあの日、アザレアを缶に入れてみたんだっけ。
はてさて、何に変わったか。
僅かに胸を鳴らしながら蓋をそっとあけると、そこには、ただ綺麗なままのアザレアが入っていた。
普通、空から降ってくる花は、放置しておくと消えてしまう。それで箱なんかに詰めてしばらく置いておくと他の何かに形を変える。
今まで、少なくとも俺の知る限り、ただの一つも花として残ることはないのだ。
そのアザレアは、まるで今さっきまで地面から生えていたと言わんばかりに鮮やかで新しい花だった。
きっとこれは、天使のせいだ。
アイツがいたからなのか、アイツ自身が何かをしたのか分からないけど、だってこんなの、みたことも聞いた事がないのだから。
アザレアの花を持って、公園に行く。
滑り台の上に登っててっぺんで仁王立ちする。
真上を向いた、眩しいくらいにいい天気だ。
俺は手に持っていたブリキの缶詰の、中身だけを頭の上から、高く、高く、放り投げた。
あの日もちょうど、こんな風に
ピンクのアザレアが降って来た。
落ちてくる花びらを顔で受け止める。
きっともう二度と会うことのない天使。
いつか顔も忘れてしまうだろう天使。
忘れられない思い出をくれた、天使。
『ねえ、なにしてんの?』
聞き覚えのある声に振り向くと
そこには、
天使がいた。
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