
有機か、地産地消か?
みなさん、こんにちは。坂ノ途中・研究員の小松光です。
この数回、かなり複雑なお話をしてきました。とくに、有機農業の話を始めてからは、近代史や自然観など、いろいろなことについて考えました。
今回は、もう少しシンプルなお話をしようと思います。
連載の第一回を覚えていらっしゃいますか? 第一回で、私はこんなことを書いていました。スーパーで人参を買おうとしたとき、「遠くから輸送された有機栽培の人参」と「近くでとれた有機栽培でない人参」がありました。有機と地産地消、どちらのほうが環境のためにいいのだろう? 私はわかりませんでした。こういう場面で役に立つ知識をお伝えするのが、この連載の目的の一つでした。
これまでしてきた話をもとにして、この人参の問題に答えを出せそうです。また、そのことを通じて、連載を振り返ることもできます。考えてみましょう。

これまでの話をもとに考えると、この問題への私の答えは、「もっとも重要なのはそこではない」というものです。環境負荷を低くする観点からは、肉(とくに、牛肉や豚肉などの赤い肉)や加温栽培の野菜を控えめにすることが決定的に重要です。それに比べると、人参の環境負荷は非常に小さいのです。
ですから問うべきなのは、どちらの人参を買うかよりも、食事のメニューなのです。人参を使って何を作るのでしょうか? たとえば、豚汁などの鍋料理はよさそうです。鍋料理にはしばしば肉を使いますが、使用量はかなり限られます。ですから、一般的に環境負荷が低いのです。
鍋料理に限らず、日本の食事は環境負荷が低い傾向にあります。日本で肉の消費量が増えたのは、高度経済成長によって家計に余裕が出てくる1960年頃から1980年頃にかけてです。それ以前から食べられてきたメニューは、肉の使用量が限られます。
こういうメニューが今も存在するので、日本の肉の消費量はかなり少ないのです。実際、日本の肉の消費量(1人あたり)は、OECD諸国(西側高所得国のグループ)や東アジア諸国の中で最低レベルです。
下図は、赤い肉の消費量の国際比較です。日本の消費量は、トルコに次いで2番目に低い値です。トルコで肉の消費量がとくに低いのは、イスラム教の影響です。日本は、肉だけでなく、食物油脂や砂糖の消費量もOECD諸国、東アジア諸国の中で最低レベルです。さらに言うと、日本の肥満人口の割合も、これらの国の中で最低です。

日本の環境政策は、国際的に遅れているとよく言われます。ですが、食習慣については、世界で最高レベルです。ですから、日本らしい食事をすることで、環境負荷を低減し、健康も保つことができます。
お肉の次に考えるべきは、加温栽培の野菜を控えることです。加温栽培の野菜というのは、温室や植物工場などで、化石燃料を焚いて育てられたもののことです。
問題は、スーパーなどにある野菜が、加温栽培されたものかどうか、判断が難しいことです。見ても食べても、簡単にわかるものではありません。ですので私は、それぞれの野菜の大まかな季節を把握するようにしています。そして、季節から明らかに外れている野菜は控えるようにしています(たとえば、冬のトマトやきゅうりなど)。
肉や加温栽培の野菜を控えたうえで、ようやく有機か地産地消かを考える段階になります。ただ、有機と地産地消で、どちらのほうが環境負荷が低いかは、一般的な答えがなさそうです。私も得られるデータを使って計算してみましたが、仮定の置き方によって、有機がよくなったり、地産地消がよくなったりしました。しかも、両者の差も相当小さいのです。ですので、現段階ではどちらを選んでもよい、というのが私の考えです。
ただし、一つだけ注意点があります。空輸されたものは避けた方がよいということです。空輸には多くのエネルギーが必要で、温室効果ガス排出量も多くなります。空輸の場合、同じ距離を船で運ぶ場合に比べて、だいたい40倍のエネルギーが必要です。空輸については、食品に明記されていることが多いので、控えることはできそうですね。
以上、有機か地産地消はどちらでもよいと言いましたが、だからといって、有機や地産地消に意味がないわけではありません。理念としてはとても大事です。有機や地産地消には、「他の生き物たちと共生したい」「資源枯渇や汚染を軽減したい」「自分の地域を盛り上げたい」などの願いが込められています。ですので、私の場合、お野菜の包装などに書いてある農家さんの願いを読んで、購入を決めることがよくあります。
前数回と異なり、今回はとても実用的なお話でした。次回ももう一回、実用的な話をさせてください。プラスチック包装の話です。それでは、また。
