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【ミステリーレビュー】掟上今日子の退職願/西尾維新(2015)
掟上今日子の退職願/西尾維新
![](https://assets.st-note.com/img/1734689485-N8APcnCvJWOamUbgsTxji20f.jpg?width=1200)
"忘却探偵"シリーズ5作目となる連作短編集。
内容紹介
退職願を胸ポケットに忍ばせ、波止場警部は揺れていた。
彼女の最後の事件は、公園の噴水に浮かび上がった水死体。
しかしその不可解さゆえ、名高い忘却探偵・掟上今日子と協力捜査することになり……。
辞めたがりの刑事と仕事中毒の名探偵。
奇妙なタッグが謎に挑む!
解説/感想(ネタバレなし)
コンセプトに沿った短編集、ということになるのだろうか。
1日ごとに記憶がリセットされる今日子の性質上、ストーリーが複雑に絡み合うという展開は望めないのだが、副題と登場人物に共通項を見出し、パッケージとしての個性を作っている印象。
本作では、女性警部と挑む殺人事件が共通テーマになっているようだ。
当の女警部は、今日子に憧れていたり、反発していたり、スタンスは様々。
バディが変われば、読み味も変わるといったところで、飽きずにすらすら読めるのはメリットである。
また、本作ではこれまで以上に"最速の探偵"というフレーズにスポットを当てていて、即時解決のイメージを定着させることに寄与しているのかと。
同じ1日の中で起こった出来事、とはわかっていても、長編ではじっくり事件を吟味した風になってしまい、最速感は薄れてしまう。
その意味で、短編でポンポンと解決させていくことは、彼女のキャラクター維持のためには必須なのかもしれない。
強いて言うなら、物語を大きく動かすキャラクターが不在ということでもあり、淡々と事件をこなすだけになりがち。
過去を掘り下げるでも、新たな一面が垣間見えるでもなく、消化試合的になってしまった感がないわけでもない。
ただし、上述のとおり、まだイメージ定着を図っていてもおかしくはないタイミング。
バディが固定されないことが強み、ということがわかってきたので、しばらくこの空気感を楽しめれば良いか。
総評(ネタバレ注意)
シリーズもの、かつ短編集となると、所与の事項をどこまで書き込むか、というのは悩ましいところ。
律儀に1作目から読む人ばかりではなく、平積みになった新刊から入る人もいるだろう。
忘却探偵という設定は、そのジレンマを解消するフォーマットとも言える。
毎回「初めまして」なのだから、どの回も自己紹介から入るのが必然。
またかよ、という感覚はだいぶ薄れてしまうのだ。
「掟上今日子のバラバラ死体」
佐和沢警部を相棒に、容疑者全員にアリバイがあるバラバラ殺人の犯人に挑む。
バラバラにした理由と、アリバイ崩し。
話の流れ的にフーダニットにはならなそうだったので、メタ的思考ではあるものの推理しやすかったかな。
ある意味、「オリエント急行殺人事件」のオマージュだったりするのだろうか。
「掟上今日子の飛び降り死体」
鬼庭警部とともに、マウンドの中央に出現した飛び降り死体の謎を暴こうとする今日子。
途中で気絶して記憶を失うギミックを挟むなど、行動派であることを示した形だ。
やや強引かな、と思わないでもないが、レジェンド選手が"死ぬときはマウンドで"を実現。
しかも、高い建物があるわけではないのに飛び降り死体である、という不可思議な状況はあまりに魅力的だったと言わざるを得ない。
「掟上今日子の絞殺死体」
寝たきり老人が絞殺されるという事件に、山野辺警部と挑戦。
93歳で死期が迫っている老人を、わざわざ絞殺した理由とは。
行動派だ、という評価を早速に覆しにかかる今日子。
この回では、ほぼベッドの上から動くことなく解決してしまう。
トリックについては納得ではあるが、死生観については共感しにくいといったところかな。
まぁ、これは人それぞれの感性だから仕方がない。
「掟上今日子の水死体」
ようやく、タイトルになった"退職願"が登場。
結婚退職を決めた波止場警部の最後の事件は、犯人が死体を人目につきやすい公園の池に沈めた理由を探ることだった。
現場を再現するために死体役になる名探偵は数多くあれ、池に飛び込む今日子の度胸には感服。
波止場の結婚退職は、タイトルのためにとってつけたような設定ではあったが、この締め方は読後感が良い。