【ライブレポ】カラビンカ ワンマン公演「狂い咲きオレンジロード」2024.5.10
ワンマンには必ず行こう、と決めているバンドがいくつかあって、そのうちひとつがカラビンカである。
もっとも、最後に開催されたワンマンが2014年の「きまぐれサンダーロード」。
実に10年ぶりの開催となった「狂い咲きオレンジロード」は、サポートにBa.松島 ティル、Dr.悠介を迎えた現体制での初ワンマンとなる。
フルアルバム「晩年」を引っ提げて、ようやくと言うべきか、満を持してと言うべきか、遂にその時が来てしまったのだ。
会場となる池袋手刀は、ほぼ満員と言って差し支えないだろう。
開演時間となり、Vo&Gt.工藤 鬼六は和服、松島、悠介は学ランといういつものスタイルで、ぬらりと登場。
「遺歌」でスタートすると、その音圧に驚かされる。
バンドのライブが久しぶりだったため、体が順応していなかっただけなのかもしれないが、スリーピースバンドから放たれるサウンドは、こうも分厚く、重苦しく、禍々しいものだったかと背筋がゾッとした。
シューゲイザー風の轟音に、日本固有の土着的なメロディが重なる異質な音像。
歌詞はまるで怨念が込められた呪詛のようである。
曲の終盤で、その表現のギアをもう一段階踏み込む場面があるのだが、白塗りの工藤氏の顔がぐんにゃりと歪んだ気がして、本当に憑きものが降りてきたような感覚に。
霊的なものまで世界観の演出になってもおかしくない、それぐらいの鬼気迫る表現力を1曲目から見せつけてきたのだ。
「鉄風雷火」から「与太郎哀歌」までは、彼ら流のハードな楽曲を立て続けに演奏。
アンコールも合わせて20曲以上を演奏するつもりのバンドとは思えない、余力など考えない全力のパフォーマンスを見せ、スタートダッシュに成功。
アルバムの流れを踏襲しつつ、「通り魔行進曲」を差し込んだのが見事で、世界観も相まってピリピリしがちなオーディエンスの緊張を和らげて、突き放す劇場型のステージから、参加型のライブへ切り替えていく。
MCで更に流れを変えてからの「蝶に古疵」は、ムード歌謡ライクな大人びた歌モノ。
感情をあえて抑え込むような歌い方は、彼らには新鮮である。
その抑え込んだ上っ面を剥がしてこそ真骨頂、と言わんばかりの「思春期」が同じパートにあるのも対比として興味深い。
おどろおどろしく因習めいた楽曲のインパクトが強い一方で、音楽的アプローチも、表現の方法も、実は横にも縦にも深いカラビンカ。
斜に構えるばかりではなく、ストレートな言葉で哀悼の意を伝える「潮騒と春雪」には、同じ時代を生きた東北出身者として心を揺さぶられないはずがなく、ただその場にいるだけで、喜怒哀楽、すべての感情から殴りつけられる気分になっていた。
余談になるが、カラビンカのライブ会場はパワースポットだと思っている。
呪われそうな楽曲ばかりで、実際に霊障が発生している節もあるようだが、少なくとも客側でカラビンカのライブで運気が落ちたという話は聞いたことがなく、むしろその逆のエピソードばかり聞こえてくる。
毒をもって毒を制す。
呪詛をもって呪詛を制す。
4,000円のチケット代に厄払いまで期待したらいけないのだろうが、"のろい"と"まじない"は表裏一体で、彼らの呪い歌は、腹の底に溜まっていたどす黒い感情ごと悪い気を落としてくれる気がしてしまう。
その分、負のオーラがすべて工藤氏に集まっているのでは、なんて心配もしていたが、MCになるたびに楽しそうに話す彼を見ていると、さすがに無粋だったなと。
比較的、長めにとられたラストスパートは「ナナシの唄」から。
いかにも彼ららしいダウナーチューンから、「太陽の牙」、「童貞ですこ」とダンサブルな楽曲を立て続けに披露。
更には「六月の通り雨」、「風船音頭」、「畜生の理」と、アクセルを踏み切るセットリストを展開していき、いつ終わったとしてもカラビンカらしい幕切れだと言い切れる全力投球っぷりだ。
そりゃ、「春を逝く人」で締めくくることはわかっているのだけれど、これで終わりだろうな→まだあった!を繰り返すテンションの無限増殖。
そして、それを経るからこそ「春を逝く人」のエモーショナルでセンチメンタルな疾走感が古傷を抉るのだろう。
さて、宴はまだまだ終わらない。
アンコールが残っているではないか。
場繋ぎMCを経て、残りのふたりと同じく学ランで登場した工藤 鬼六。
演奏されたのは、こういうときにしか演奏されないのがもったいない、隠れた名曲「雨ニモ負ケズ」だ。
素直に感謝の言葉を述べることが多かったこの日のライブ。
これで大団円、と誰もが思ったところで暗く暗く響いたのは、悠介によるリムショット。
そう、不気味さ、おどろおどろしさ、変態性、どれをとってもバンド随一であろう「天井裏発電機」をここに持って来たのである。
会場の空気がまんまと瞬間冷却されたのを見て、演奏する側は気分良かっただろうな。
なんだかんだで、これぞカラビンカ。
やってくれたな、と思いつつ、納得感は十分だった。
それでも止まない手拍子に、二度目の「畜生の理」をセカンドアンコールとして。
その場で曲を決めてしまうあたりに、10年近く待たせておいて、もうとっくに仕上がっていたんじゃないか、と確信。
最後は暴れ倒して、長丁場のライブは無事完了となったのだが、果たして、運気は向上してくれるだろうか。
遺歌
鉄風雷火
通り魔行進曲
与太郎哀歌
蝶に古疵
華に傷痕
思春期
赫い花
潮騒と春雪
寄生虫
不浄
彼岸花
ナナシの唄
太陽の牙
童貞ですこ
六月の通り雨
風船音頭
畜生の理
春を逝く人
en1. 雨ニモ負ケズ
en2. 天井裏発電機
en3.畜生の理