【ミステリーレビュー】虚構推理 鋼人七瀬/城平京(2011)
虚構推理 鋼人七瀬/城平京
2012年に第12回本格ミステリ大賞を小説部門で受賞した作品。
知恵の神として、怪異たちの間で起こったトラブルを解決する役割を担う岩永琴子は、地方都市の真倉坂市に住む怪異たちから、「"鋼人七瀬"と呼ばれる怪異が暴れているので対処してほしい」との依頼を受ける。
琴子は、恋人の桜川九郎や女警察官の弓原紗季らと協力しながら、大衆から都市伝説"鋼人七瀬"への興味を失わせ、最終的には彼女を消滅させるために、"虚構"による推理を組み立てていく。
以上が大まかなあらすじであるが、この怪異の存在を左右する"虚構"こそが本作の肝であり、発明的な要素になっている。
といっても読んでない人には伝わりにくいので少し解説を入れると、本作では、妖怪や幽霊がいることが前提になっていて、殺人事件の犯人は"鋼人七瀬"という怪異であることは主人公にとって自明の事実。
ただし、それを警察に認めさせることは不可能であり、また、犯人がわかったからといって怪異の脅威を防ぐことはできない。
怪異の正体は、言ってしまえば人々の妄想が具現化したものなので、人々が持つ"鋼人七瀬"像を曖昧にできれば、怪異の力は急激に弱り、最終的には消滅する。
要は、表向きのそれっぽい真実をでっちあげ、幽霊"鋼人七瀬"が犯人だ、という噂話の信頼性を失墜させることが、本作においては真相の究明以上に重要なタスクなのである。
主人公が自分の推理をネットの掲示板に投稿することで結果を分岐させていく、というスタイルは、フーダニットやハウダニットを基本とする従来の本格ミステリーとは一線を画しており、どちらかといえば、ノベルゲームのシナリオ向きの設定かもしれない。
出し惜しみなく情報を出してくれるのでフェアと言えばフェアなのだが、自分も謎を解いてやろう、という野心よりも、岩永琴子はどうやってこの困難を乗り越えるのだろうか、と冒険小説の続きを読むような気持ちが先立ってしまうので、謎解きメインでミステリーを読みたい人には向かないかと。
総括として、斬新なアイディアで押し切った側面はあるも、続編を読みたいくらいには面白かった。
一方で、複雑な設定を説明するために相応の文量を割かざるを得ず、読みにくさが助長されてしまった点はもったいなかったか。
【注意】ここから、ネタバレ強め。
そもそも、これをミステリーと呼ぶかファンタジーと呼ぶかは議論がありそうだが、一旦横に置いておく。
殺人事件の犯人は幽霊でした、という反則技を真相として置いたのは、ミステリーのセオリーを逆手にとった発想だったな、と。
あえて真相を闇に葬るため、探偵役が意図的に虚構の推理を行う作品は、これまでもなくはなかっただろう。
だが、その理由付けにまさかタブーである怪異を持ってくるとは。
しかも、騙す相手が、山荘に閉じ込められた特定のグループではなく、ネット民の複合体。
理屈が通っていれば必ずしも多数派になるわけではなく、実に4つもの虚構推理をぶつける必要があったという結果は、なるほど、目から鱗であった。
真相を求めるのが主眼ではないので、結局、かりんが死に至るまでの謎は謎のまま残り続けるのだけれど、物語としては矛盾していないのだから、気持ち悪さは残らない。
何なら、推理の内容に破綻があったとしても、それで大衆が納得してしまったのであれば、何の問題もないのである。
琴子と九郎の関係性については、少し説明不足な気がしないでもないが、紗季と同じ目線で感じ取っていくのを狙ったのだろう。
続編で語られる部分もあろうと思われるので、もう1、2冊ぐらい、読んでみようかという気になっている。
新しい発想だけに、シリーズ化するにあたり、どのように広げていくかは未知数だが、まずは基本形。
はやく、続編を探しに行かなければ。