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【ミステリーレビュー】ミステリー・アリーナ/深水黎一郎(2015)

ミステリー・アリーナ/深水黎一郎

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2016年の「本格ミステリベスト10」にて第1位に輝いた"多重解決の極北"的な1冊。

舞台は近未来。
国民的番組となった「推理闘技場(ミステリー・アリーナ)」において、ミステリー読みのプロたちが、読み上げられる推理小説の犯人当てクイズを行う、という設定だ。
そのため、メインの謎解きは劇中劇として展開されるのだけれど、収録現場でも少しきな臭い動きが見え隠れするという二重構造で進行していく。

本作の特徴は、何と言っても15通りの"多重解決"が示されるということである。
劇中劇が展開されるたびに訪れるチェックポイントにて、回答者がミステリーのお約束的な見地から犯人を指摘する。
事件が何も起こっていない最初のブロックから、視点人物の"名前"が明かされないことをもって"視点人物犯人説"を論じたり、性別誤認に二人一役等、"ミステリーあるある"によって犯人の目星をつけていく読書スタイルは、まさにミステリー読みのそれであり、メタ視点も大いに含んでいると言えよう。
これは間違いなく、ミステリー読みが物語ではなくパターンで読んでいることへの皮肉が込められており、ゲーム性の高い新本格ミステリーの限界の示唆であり、挑戦であった。

わかりやすく垂れ下がった伏線へのツッコミだけでなく、そういうミステリーへの評価や感想も含めて代弁してくれる回答者たち。
やたら尊大な態度をとるため、ミステリー初心者にとっては嫌悪感が先立つ部分もあるだろうが、読み慣れている人であれば、それも含めて滑稽に映るはずだ。
ミステリーは好きだが、どうもマンネリを感じている。
そういう層には、まんまと刺さる作品ではなかろうか。


【注意】ここから、ネタバレ強め。


結末としては、このぐらいバカミス方向にぶっ飛ぶのもやむなし。
というのも、読者の思考をミスリードさせる伏線を作っては回収、作っては回収と合計14の回答を繰り返す構成だ。
ある種の"まっとうな"回答を用意しておいたとしたら、その前の14通りに入ってこないことに作為性を感じてしまう。
消去法で真相がわかってしまうのはあまりにつまらないわけで、ギリギリ、フェアと言い逃れできるアンフェアに逃げるしかないだろう。

もうひとつの結末である推理闘技場の摘発については、黒幕へのヘイトを徐々に募らせていく描写が上手かったのも手伝って、大団円的な流れになった。
冷静に考えれば、回答者たちの作戦は綱渡りすぎるし、ご都合主義的でもあるのだが、この辺りまでくると、劇中劇の強引な展開によってエンターテインメント性に全振りするマインドが出来上がっているので、あまり気にならない。
そもそも、ここまで緊張感なく、ぬるっとデスゲームに移行する作品も珍しいのでは。

万人受けする作品ではないことは確かだが、面白かったの一言。
アイディアの勝利。
いや、思いついても常人であれば書こうとする段階で挫折したであろうし、実行力の勝利か。
15個目の解決策に客観的な納得感があれば、もっと広く薦めることができる作品になっていたとも思うので、そこは惜しまれるが、コミカルなノリも特徴。
重苦しくなく読めるミステリーとして重宝したい1冊である。

#読書感想文

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