戦後の女性達に夢を与えた「見立ての美学」
平安時代から続く日本人の美意識『見立て』は心の豊かさには欠くべからざるレトリックだ。
中原淳一さんのファッション雑誌「それいゆ」に掲載された記事(昭和28年)に風呂敷の活用法ページがあった。
タイトルは、「ふろしきを胸に飾る」だ。
私は、はじめてこのタイトルを見たとき「ふろしきを・・・」に一瞬違和感を覚え、そしてその後とても感動したのを覚えている。
普通なら「スカーフを胸に飾る」と、するところだろうが、戦後の物のない時代、日本人なら誰もが使っていた風呂敷をスカーフに見立てて、少しでも当時の女性達に夢を与えようとしていることがうかがえるからだ。
彼のイラストは当時の女性達の日常とはあまりにもかけ離れているのだが、夢の現実化という意味ではまさにこのイラストこそが「与祝」そのものだったと言える。
その後、日本人は世界中が驚くほどのスピードで復興と高度成長を成し遂げたのだった。
利休も侘茶で用いた「見立て」の美学。
利休の侘茶の心がここに活かされている。
「物の価値は、使う人の心と使い方で決まる」
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第二次世界大戦敗戦後、彼は「真の平和は、女性達が夢と希望に満ちて、美を追求できる世の中になることだ」と、理想に燃え、終戦翌年の昭和21年、ファッション雑誌「それいゆ」を自ら創刊している。
どんな状況にあっても、身なりは汚くても、心を汚すな。
「泥中の蓮であれ」と女性達へのメッセージを込めた。
戦後の混乱期、お腹を空かし、バラック小屋を住まいとする人が多い中、批判を恐れず、女性達に夢を与えようとした彼の強い信念を私は尊敬している。
彼は、雑誌の中でお金をかけなくても、物がなくても、美しく、心豊かに暮らす工夫の数々を提案している。
現在は物が有り余る時代だ。
私達は、豊かになったのだろうか?
●中原淳一
ファッションデザイナー・挿絵画家・スタイリスト・インテリアデザイナー・人形作家