一年に一度しか着なかった特別な着物?
写真は永幡雄哉さんのアンティーク着物コレクションの1枚です。
特徴的なのは上前に描かれた二人の人物ですね。
これは、日本の伝統芸能の一つである『萬歳(まんざい)を描いたものです。
新年の言祝ぎの話芸として全国で興り(三河萬歳、加賀萬歳など)、現代の演芸「漫才」の元になったと云われています。
古典的な萬歳は太夫(たゆう)と才蔵(さいぞう)の2人が1組となるものが基本となり(例外も有る)、いわゆる「ボケとツッコミ」を演じます。
多くの場合、正月松の内に商家の『玄関先』などで『門付け』として演じ、商家を次々に巡っては祝儀を稼いでいました。
ところで、この着物は大正時代に作られた芸者の黒紋付で、特に正月限定で着用されました。
柄にはお正月らしい「梅」と「若松」と「万両」が描かれ、「萬歳」とともに正月のめでたさを寿いでいます。
基本的にはお正月の「松の内」に着ることを目的に作った衣装だったと思いますが、もしかしたら、着用は年に一度だけ、特別なお客様が来られた日だけに着用したものかもしれません。
江戸、明治、大正時代の商人は私達の想像以上に「験担ぎ」や「縁起物」に拘りました。
そのため、当時の花街のお茶屋は「験(げん)」をとても需要と考え、例えば馴染客にとって特別な日には、わざと茶柱を立てたお茶を出したり、客を上機嫌にさせることがそもそものホスピタリティーの基本でした。
その逆に、客に「験が悪い」と思わせり、怒らせたりしたら大変なことになったのです。
当然、芸者が着ていた着物の図柄の意味もとても重要だったということです。
さて、この図柄を着て、お座敷に出たら、贔屓客はもちろん大喜び。
当然、粋な客はいつもより多めに芸妓へのご祝儀をはずんだことでしょう。
感動価値の作り方講座 講師
成願 義夫
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