【第二十七話】ヒントは意外なところから|しがない勤め人、国立文楽劇場で藤娘を舞う
本番まであとひと月ちょっと、2021年7月のある日。
平日の日中しか開いていないお店に行かなければならない所用が発生。
なんちゃら事態宣言下、フルリモート在宅勤務中の私は呪文を唱えた。
フヨウフキュウ?ヒツヨウシキュウ?
必要・不急を寝かせておいたら必要・至急になってしまっていた。
うーん、これはしかたがありませんなぁ。
しがない勤め人のわたくし、ありがたく労働者の権利を行使。
有給休暇(午後休)をとり、いそいそと恵比寿へ。
いやー、しかしまあなんですね、
お城の西側へ行くのはキンチョウするなぁ。
(お城=皇居)
東京の東側にひっそりと暮らしている拙宅では、
「お城の西側は魔境」
という設定になっている。
オシャレすぎて身の丈に合わないから近づくな、という戒めですな。
さて、用事はあっけなく終了。
(有休使わんでも中抜けでよかったな・・・)
ほぼまるっと空いた平日の午後。
うーむ、この後どうしたもんか。
なんちゃら事態宣言中やからほんまはすぐ帰宅するべきなんだろうけど、
(時は第5波の初期、東京オリンピック開催目前であった)
帰っちゃったら家事するかダラダラしちゃうかだもんなぁ、もったいない。
せっかくの外出、貴重な自由時間。
有意義に過ごしたいぞ。
そうだ、美術館に行こう!
ひとりだし、口角泡飛ばしてしゃべらない(=飛沫飛ばさない)からええやろ、ゆるして〜<誰に許しを乞うているんだ?
恵比寿で美術館といえば・・・
えーと、今日は何が見られるのかな?
なになに・・・
むつかしいことはわからんけど、
いろいろ見られそうやな。
ええやんええやん、よろしいなぁ〜
大人一枚、お願いしまーす。
(え、きもの着てくると200円引きなの?次からそうするわ〜)
まずは東海道五十三次の展示であった。
順路通りに見ていく。
こ、これは・・・
永谷園のお茶づけの素についてきた、ちっさいカードのやつやな!
さーて、日本橋を起点に、西へくだるぞ、ニンニキニキニキニン♪
お、掛川まできたぞ、もうすぐおらがふるさと遠江(とおとうみ、今の浜松市)や〜
と思ったらなんだか様子が?
石山、瀬田、唐崎・・・
おお!
これはもしや・・・あの、近江八景じゃないですか!
藤娘のクドキ(心情を切々と語る見せ場)に出てくるやつ!
なるほどこれか〜
とじっくり拝見。
同じ作者(歌川広重)でも東海道五十三次と比べると、
近江八景はなんだかちょっと暗くてさみしい感じだなぁ。
と思って解説を読んだところ、
近江八景は中国のなんちゃら八景が下敷きなので水墨画風なのだとか。
近江(滋賀、琵琶湖)は夕暮れでほの暗く雨模様・・・
対して東海道の遠江(浜松、浜名湖)、
明るくて広い空、青い海、大きな松の木がドーン!
ふーむ、遠江産のおおざっぱな私に、
近江のしっとり風情をかもしだすことができるのだろうか
(一抹の不安)
まあでも、偶然とはいえ見られてよかったわぁ〜
Google画像検索で見て、知識としては頭の中に入っていたけど、
実物を見るという経験は違うもんやのう。
そういえばちょっとだけかじったポルトガル語。
知っている、という動詞を2つ習ったっけ。
saber(サベール)=知識として知っている
conhecer(コニェセール)=経験して知っている
私は今、近江八景についてサベールからコニェセールになったんやな!
(現地に行かないと経験したことにならないのでは・・・?)
さて、ええもん見た後のお楽しみはミュージアムカフェ。
ここでは毎回展示作品にちなんだオリジナル和菓子をいただけるのだ。
五種類もあるよ!
どれにしようかな〜
うん、北斎の赤富士にしよう。
富士・・・ふじ・・・藤娘。
藤娘、くまモンなみにどこにでもおるな。