見出し画像

旅をするようなイタリアの郷土料理

サカエヤに隣接するレストラン『セジール』もコロナの影響でキャンセルが相次いだ。それでも営業し続けた。もちろん3密とソーシャルディスタンスを保ちつつの時短営業だ。3月~5月の3か月間でランチゼロ、ディナー2組とか、ランチ1組、ディナーゼロという日は3日ほどあったものの、1日通してゼロという日はなかった。空いた時間は掃除と通販用の仕込みに費やした。テイクアウトに関してはセジールとしてやる意味が見いだせなかった。これは通販というチャンネルがあったからなのかも知らない。それよりも、取引先でテイクアウトやっているところを積極的に応援し続けた。これからも継続するのであれば、品質、価格面でも協力していきたい。

余ってる肉があれば、テイクアウトで使うので言ってください。そう言って何人ものシェフが声をかけてくれた。自分たちのほうが厳しいと言うのに。涙こそでないが泣けてきた。うちの取引先のシェフたちは本当に凄い。誇りに思う。

セジール単体でみると、売り上げは激減したがシェフやスタッフはいつも以上に気合が入った仕事をしてくれていた。それには理由がある。僕の予定がすべてなくなったので、賄を一緒に食べながら、今後の展開を話し続けた。そのなかには、7月に某所で行うポップアップストアの話や、新店の話、僕と交流がある料理人の話など、「それをするために今何をすべきか」というような内容だ。

一方、サカエヤは店頭販売と通販が忙しく、セジールのスタッフも駆り出されて、コロナ前より忙しいじゃないか、という状況が何日も続いた。おかげで5月に臨時ボーナスを支給することができた。普段、社長らしいことは何もしていないので面目躍如といったところだ。

6月に入ると、3月4月にキャンセルされた大半のお客様が再予約してくださった。なんともありがたいことだ。

2日前のこと。コロナ前にマッキー牧元さんが予約をくださっていたので、久しぶりに一緒に食事しましょうかということで、この日は僕も客として席に着いた。溝口シェフにはメニューにないものでイタリアで修行していた時に習ったものや旅の途中で出会った料理を作ってほしいとリクエストしておいた。まず一品目から・・・

その前に、マッキー牧元さんがスリムになっていたので驚いた。自粛生活の賜物なのか。すぐに元に戻るとは思うが、ひと時でも羨ましい。僕は痩せる気配すら感じない。

画像1

ズッパ ディ ビーノ
白ワインと卵黄、ナツメグとシナモンのスープ

画像2

タルタルは溝口シェフではなく、スーシェフの石井くんが作っているので、この日のメニューには入っていなかったのだが、味見を兼ねて急遽作ってもらった。というのも、石井くんにタルタルを任せるまで、それはひどいものだった。毎日毎日、2回も3回も作らせるのだが、100点満点で10点の日もあれば60点の日もあったりで、結局、味が安定するまで3か月かかったのだ。肉の切り方、混ぜ方、手の温度、レシピ通り同じようにやっていても別物になってしまうのが料理でありレベルだと思う。センスや感性を言い出すとキリがないのだが、例えば、僕とうちの若い子が同じ条件で同じ肉を切っても味が違う。料理人のレシピ本を見ながら作っても同じように作れないのと同じだ。似た料理は作れるけどね。

画像3

ガルムージャ
ルッカの春の郷土料理
パンチェッタとカルチョフィ、アスパラ、空豆やウスイエンドウ豆などなどの春野菜のスープ

画像4

パンコット
パン、水、塩、オイルだけのズッパ。
風邪をひいた時などに作ってくれるお粥ポジション。野菜やチーズを入れるバリエーションもあります。おそらく南イタリアの料理とのこと。シェフ、覚えてないんか(笑)

画像12

アクアサーレ
南イタリア料理 (トスカーナ州よりも南側,カンパーニャ州やバジリカータ州など貧しい、貧しかった地域)、基本は水、きゅうり、トマト、赤玉葱が材料になります。水を完全パンに吸わせ液体がない物も多い。水ときゅうりとパンだけの物もある(が、シェフ曰く不味いらしい)

今回は赤玉葱は使わずにトマト、きゅうり、水、塩、オイル、バジル、グリルしたパン使用。

画像5

カーネデルリ イン ブロード
アルトアディジェ 州の郷土料理
カーネデルリ(パン、スペック、牛乳、玉ねぎ、卵黄で作ったパン団子)をスープに浮かべた物。パン団子は前菜や煮込み料理の付け合わせに使う事もあります。

画像6

画像7

ソパコアダ
問題の脾臓(チレ)だ。近江牛の内臓のなかには使えないものがある。そのひとつが脾臓です。好きな人もいるみたいですが僕は臭いがダメなんです。レバーの臭いは大丈夫なのですが脾臓はダメ。溝口シェフにペーストにしてもらったり、いろいろ試しはしたのですが、ようやく納得できる料理が完成しました。

ヴェネト州の山側の郷土料理で、本来は鳩の肉、内臓、スープを使いますが、今回はコンソメ、脾臓、牛ラグーを使用した近江牛バージョン。

画像8

スッパヴァルヴッタ
キリスト教、ヴァルド派を代表する料理(ピエモンテ)
グリッシーニ、しなびたキャベツ香辛料、チーズ、豚のスープを器に流し込み、オーブンに出し入れして液体をグリッシーニに吸わせる様に焼き上げる。ズッパではなく、スッパなのは方言、なまり。

画像14

ズッパディノンナ
ピエモンテに住んでいた時におばあちゃんが作ってくれていたスープ。
材料に決まりは無くて、ザク切りにしたものを2、3時間にてドロドロのスープ。今回の材料は牛千本、ジャガイモ、パン、ズッキーニ、玉ねぎ、ニンジン、セロリ、トマトピューレ

画像10

レンズ豆と豚のスープ
サルデーニャで働いていた時にシェフが市場に行った時に豚の皮の良い物があったら作っていた賄い料理。レンズ豆、サルシッチャー、パンチェッタ、豚肉、豚皮、にんじん玉ねぎセロリ、トマトピューレを使っています。

画像11

近江牛ランプ
2週間程度、水分調整をしながら枯らしたもの。文句なしのうまさ。

画像13

イチゴのリゾット
50年ほど前にイタリアのレストランで流行った、イチゴとパンチェッタのリゾット。日本のイチゴは甘過ぎるのでスプマンテのリゾット(酸っぱい)にイチゴを入れました。

画像12

トルタディタリオリーニ
エミリアロマーニャ州ボローニャ近辺の郷土料理。タリオリーニ、リコッタ、アーモンド、レモン、アマレット(お酒)を使ったタルト

僕はリゾットまでたどり着けませんでした。自粛中に胃袋が小さくなってしまって、たくさん食べれなくなってしまったのです。少しづつ元に戻るとは思いますが・・・

今回のメニュー構成は、まるでイタリアを旅しているようでした。かなりマニアックな料理ばかりなので、どれだけの人に受け入れてもらえるのか。本当はこういうメニューをやりたいのですが、一般的ではないのでもう少し先ですね。




ありがとうございます!