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陸上養殖---持続可能な漁業のために

◇漁業は、未だ大半を"狩猟採取"に頼っている

魚介類に対する世界の需要は、年々増え続けています。

近年、日本では「食べるのが面倒だ」と魚離れが進んでいますが、海外では経済成長と共にヘルシーフードとして人気が高まっています。特に大陸国家であり、伝統的に食生活が淡水魚中心だった中国が、海水魚の美味しさに目覚めた影響は大きいです。

現在の漁業は、持続可能とはほど遠い状況にあります。
養殖の割合は年々増えていますが、それでも全体の約半分に過ぎません。残り半分は漁業=自然からに狩猟採取に頼っています。

水産庁・令和元年度 水産白書

https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/r01_h/trend/1/img/f3-01.gif

漁業が農業や畜産とは決定的に違うところは、種を取り、育て、収穫し、次の世代を育てる、という「循環」プロセスが確立していないことです。魚の多くは、未だその生態が良く分からないまま、自然の力を頼りに獲り続けています。

漁業を持続可能にし、将来にわたって安定供給するためには、狩猟採取型から循環型へと転換する必要があります。
これからは養殖中心、それも自然に頼らない「完全陸上養殖」の確立が強く求められるようになっていく、と私は考えます。

◇「好適環境水」とは?


先日、モンゴルで海水魚の養殖に成功しているというニュースが出ました。モンゴルには海がありません。史上初、ハタ科の魚が大きく育ってます。
岡山理科大学・山本先生の「好適環境水」という技術です。

淡水魚である金魚と海水魚であるタイが一緒に泳ぐニュース映像。
過去何度か取り上げられていますので、ご存じの方も少なくないと思います。日本が誇るべき素晴らしい技術であり、長年私は注目しています。

「好適環境水」というのは、淡水に魚に必要なミネラル分を幾つか混ぜたものです。この特別な水を使うことで、いろんな種類の海水魚を育てることができます。

好適環境水には、様々なメリットがあります。
1)低コスト---人工海水の数分の一程度。
2)場所を選ばない---真水さえ確保できれば、どこでも育てることができる。
3)成長速度が速い----魚に余計な浸透圧が掛からないので、成長が早い。
4)安心・安全----閉鎖環境である上に、淡水でも海水でも無い=自然界には無い環境なので、細菌や寄生虫の発生リスクがほとんど無い。

◇魚を生きたまま流通させる


海水魚を育てることも重要ですが、これからは海水魚を生きたまま流通させるニーズが高まってくる、と私は予想しています。

中国の盒馬鮮生(フーマーシェンセン)などで、生きたままの魚介類の流通が実際に行われています。魚介類を"究極の新鮮さ"で提供できるのですから、その価値は高く評価されています。

スーパーなどでは、夕方になると海鮮類はなぜ値引き販売が当たり前なのでしょうか? 売れ残ったら鮮度が落ちて、翌日売れなくなってしまうからですよね。

逆に言えば、商品を殺さなければ良いのです。
生きたまま店頭で流通すれば、売れ残りによる廃棄ロスはほとんど無くすことができるはず。陸上養殖は漁業を持続可能にするものであり、時代の要請にも応えるものです。

現在、日常的な買い物は、ナショナルブランドの規格品がほとんどです。
どこで買っても同じ。違うのは価格だけ。

でも魚や野菜など、生鮮食品は違います。だからこそ自分の目で商品を確かめて買いたい。お店に買い物に出かける必然性が生まれます。

日常的な買い物であれば、近所のスーパーの切り身で十分。
生きたままの生鮮食品は、デパ地下のような「ちょっとイイもの」を求める売り場にこそふさわしいと思います。

店頭流通では、コストが安く手軽に扱えることが重要です。
そして店頭では魚介類を育てなくても、元気な状態をキープさえできれば十分。
好適環境水のような技術は、生産だけではなく流通でこそ役立つのでは?と私は期待しています。

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