23/11/2020:『California』
親近感が湧くのは僕の父親世代のドラマよりも、やっぱり僕自身が観ていたドラマだった。時差が20時間もあるような国のティーンエイジャーたちの色恋やら、友情やら、成長やら、別れやら。
舞台は瀟洒な街の高校だったが、主人公たちはどう控えめに見ても当時大学生だった僕よりも大人びていたし、そして当時高校を卒業したばかりだった僕は、その辺の高校生よりも高校生みたいだった気がする。
当時、つまり田舎から出てきて3週間が過ぎた頃、ってそんなもんだろう。違ったかしら。
「おいおい、大体な、人生は気持ちよく生きなきゃいけないんだよ。」
と、主人公は言った。
僕は夜中に1人でノートパソコンの画面を見つめていた。
青く乾いた空、広いハイウェイにヤシの木。
桟橋を駆けるBMXとスケートボード。
6畳半のアパートから一番遠いところに広がっている景色だった。
気持ちよく生きようとする主人公だったが、なぜかいつもなんらかのトラブルに巻き込まれていて、それは自分から首を突っ込んだものもあれば、勝手に巻き込まれてしまったが故の場合もあった。
でも、今思い出してみると、結局そのどちらにも大差はないように思う。
そしてそれから12年ほどが過ぎた今日、僕は連休のついでに一日多く休みを取っていた。
朝ゆっくり起きるとカーテンを開けて、わざと寒い空気を部屋に取り入れた。一気に目が覚めて、冬の香りが血液と一緒に循環する。
「あー、寒い寒い。」
1人で家にいると、独り言が多い。そのままシャワーを浴びてコーヒーを淹れた。
バスタオルを頭に乗せたまま動画サイトを開く。いつもはニュースをチェックしてからだけど、今日は連休ということで世の中のことを知る気にはなれなかった。
適当に動画を選んで再生する。聞いたことのあるようなリフが流れる。僕は部屋を回りながらタオルで頭をゴシゴシした。そろそろ髪を切ったほうがいいかもしれない。
「さて、朝ごはんどうしようか。」
また独り言が出た。キッチンへ出て冷蔵庫を開ける。
卵、ウィンナー、ミニトマト。適当に炒めよう。
その時、パソコンからピアノのリフが流れてきた。それはあの時僕が見ていたドラマのオープニングソングだった。
青く乾いた空、広いハイウェイにヤシの木。
桟橋を駆けるBMXとスケートボード。
「うわー。」
それ以上の言葉は出てこなかった。
僕は思わずリビングの方に戻って、ベッドに腰を下ろす。
画面の中、彼らは当時の姿のまま躍動的に動いている。当時のスタイルは照れてしまうくらいに時代の変化を感じさせ、でも今流行のどれよりも親近感を感じさせた。
「おいおい、大体な、人生は気持ちよく生きなきゃいけないんだよ。」
何話だったか、そんなこと覚えているわけない。
ただ僕は12年の時を経て、色々な経験をした。今も画面の中の彼らは高校生のままだったが、僕は当時大学生で、そして今は何とか生きている社会人だ。嬉しいことよりも悲しいことや寂しいことの方が多い気もするけれど、まぁ、それでもこうして連休に1日追加できるくらいの人生を送ることはできている。
冬の香りはもう十分に取り込んだから、窓を閉めた。半乾きの頭のまま、カーディガンを羽織る。
「まずは朝ごはんだ。気持ちよくやらないと。」
再び独り言をかました後、僕はキッチンへと向かった。
そして次に口をついて出てきたのは独り言ではなくて、12年前に口ずさんでいた歌詞の方だった。
・・・
今日も等しく夜が来ました。
Phantom Planetで『California』。
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