吉田うどんの人柄
山梨県富士吉田市の名物に「吉田うどん」というものがあります。
「地元の人しか知らない」というほどマイナーではないと思いますが、かといって讃岐うどんのように「全国的に知られている」わけでもない。知名度としては実に微妙なラインにある名物です。
最初に言っておくと、僕は吉田うどんが大好きです。「食べ物として好物である」というだけでなく、その立ち位置、例えるなら「人柄」に好感を持っています。
その理由はまた後ほど書くして、まずは吉田うどんの特徴から紹介していきましょう。
吉田うどんの最大の特徴は、その歯ごたえにあると思います。
吉田うどんは「硬いうどん」としても知られているのですが、この「硬い」というのは、食べてみないとなかなか伝わらない種類の硬さなのです。
讃岐うどんのように、歯を押し返してくるような「コシ」とは違います。強いて言えば、ブツン、ブツンと噛み切るようなイメージでしょうか(あまりおいしそうな表現ではないかもしれませんが…)
また「なめらかな舌触りやのど越しを楽しむ」というタイプでもありません。麺をすすったら「もぐもぐ」と噛みしめて食べます。
汁は醤油と味噌がベースとなっているのですが、どっちの方が強いともいえません(ただダシ感は強く感じます)。具は「馬肉もしくは牛肉」と、キャベツ。
知らない人からすれば「え…何それ? おいしいの…?」という感じがするでしょう。
その「おいしいの…?」と怪しむ感覚は、ある意味正しくて。実際に食べてみても、そういう感じなのです。
おそらく、吉田うどんを初めて食べてみたときの感想は、以下のようになる人が多い気がします。
「うん…。いや、まぁ、マズくはないし、おいしいっちゃおいしいけど…。
別にそんな感動はないよね…。これなら讃岐うどんの方が好きだな」
と。
実際、僕もそうだったのです。
「ふーん、これが名物なんだ。へーえ」と。
しかし…。これを何度か食べていると、吉田うどんの良さがわかってくるのです。あの醤油とも味噌ともいえぬダシの効いた汁をずずっとすすって、あの不思議な硬さの麺を、もぐもぐ噛みしめながら食べたい。
讃岐うどんじゃないんだ、吉田うどんが食べたいんだ。
そんな感覚を覚えるようになります。
例えるなら、何度か会ううちにだんだんと惹かれていく人のような感じでしょうか。惹かれるといっても、「惚れる」とか「大ファンになる」というわけでもない。しかしなんとなく「この人、好きだなぁ」と思うような、そんな人柄なのです。
吉田うどん本人も、素直で実直なんですよね(あくまでイメージとして)。
讃岐うどんのようにメジャーになれないからって、ひねくれるわけでもないし、「おれはワルだから」とアウトローを気取るわけでもない。
初めて食べる人にはことごとく「ふーん…。まぁ別にまずくはないけど…」「これなら讃岐うどんの方が好きかなぁ」などと言われて、少し悲しそうな顔をしながら、それでも自分のスタイルは変えない。
そんな人柄なのです。
…というわけで。
今後、富士吉田周辺に出かける機会があり、初めて吉田うどんを食べるときは、彼の人柄に注目してほしいなと思います。
おそらく、初めて食べたときは「ふーん。こんなもんか」という感想しかないでしょう。
ただ、それが彼の魅力のすべてではないのです。ぜひ人柄を見てやってくださいと、なぜか親心のような気持ちが湧くのです。