ミュトスの雨<神へ捧げるソネット>#100
佐佐木 政治
ゴビの夕月、マドリードの夕月、アンデスの夕月、そしてアルザスの夕月よ
それらは同じ月でありながら あなたの異域の言葉が洗う
冠へとせり上がる夕闇の衣裳は 星屑の砂金を散りばめ
死に祝福された 高みの中のなんというはるかさ
ぼくらの言葉の外で 輝けるものよ
それぞれにうがたれている 物語の中の神話よ
その足もとには とびちった鏡のような湖を浮かべ
地平線は 別離に輝く 光帯にくまどられている
おゝ なんという神話が流星となって ぼくらの骸骨に穴をあけることか
ぼくらの安全地帯を 不安の縞で彩ろうとするか
コップに並々とそそぐ 酒の輝きを襲うことか
あれらの神話がつながることの絶望をこそ
そのままぼくらは あなたに返盃しなければならない
あなたがそれほどまでに ぼくらの可能性を高めたことに対して
父・佐佐木政治
昭和6年長野県飯田市に生まれる。飯田高松高校卒業後、大学で仏文学を学ぶことを断念、木曽にて印刷業を営む。生涯、詩を詠み、本を作る。亡くなる二年前に脳梗塞で麻痺や認識障害を患うものの、動かない手を駆使して最後の詩集「神へ捧げるソネット」を手作りした。
>>>>>>>いつもフォトギャラリーから素敵な写真を使用させていただいています。感謝してます。ありがとうございます。<<<<<
亡父の詩集を改めて本にしてあげたいと思って色々やっています。楽しみながら、でも、私の活動が誰かの役に立つものでありたいと願って日々、奮闘しています。