ミュトスの雨<神へ捧げるソネット>#86
佐佐木 政治
たった一つの目標に奉仕するために
無数の異文がある
異文はまた主文の謂れでもあるが
主文は永遠にくもがくれしたままだ
異文はこの世に満ちあふれている
一匹の猪は 一つの異文であり
一本の栗の樹も一つの異文である
たぶん 異文ばかりがこの世の存在の掟でもある
異文はそこで己の不成熟を恥じる
そして又 異文は努力することにより
かえって主文からますます遠のくのだ
おゝ 欠点だけが異文を支えるというのか
一つの異文の代わりに出発する異文
その動機は涙ぐましい
異文の出発は序列をなさない
おそらく同時に異文は
異文のためにすでに存在するのだ
異文は欠落してゆく部分によって
その存在を問われるだろう
異文はたえず目標から遠ざかる
出発と同時に目標を失う
異文が目覚めるためには
たえず出発点に引き返さねばならない
出発点でしか太陽(ターゲット)は輝きはしない
あらゆる異文が太陽を目指している
同時に しかも複数の場所で
価値ある異文は傷ついている
傷口の赤い花びらが
主文の中を横切る証拠(あかし)となる
異文はたえず 白紙の中に引揚げねばならない
白紙が写し出す あの錯乱の鏡に
己を映し出さねばならない
白紙が拒否する
すべての映像の力を試さねばならない
或る朝異文は 蛾となって死んでいる
そのおびただしい数の渦で
翼を硬直させ
夜明けの舗道のちりとなる
>>>>>>>いつもフォトギャラリーから素敵な写真を使用させていただいています。感謝してます。ありがとうございます。<<<<<<
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亡父の詩集を改めて本にしてあげたいと思って色々やっています。楽しみながら、でも、私の活動が誰かの役に立つものでありたいと願って日々、奮闘しています。