神へ捧げるソネット #64
佐佐木 政治
二万年に一度という とてつもない周期を背負い込んだものがこよいの空に現れるという
おお 何という遠来の珍客 その昔ネアンデルタールやクロマニヨン人たちの頭上を掠め去って以来の
神よ いかにあなたの内懐とはいえ この神話の軌跡を抽き出した一素人天文学者の栄えある孤独をも讃えよう
おそらくぼくらは全く無抵抗な瞳をあげ 天の一角にそれを見送るしかないだろう
まだ肌寒い季節の宵の口から明け方にかけて わがヴェランダのうえを真北に向かうものよ
双眼鏡の中では仰角が激しく乱れあい 北極星にまつわりながら
あるいは不在のわが夜の太陽にささげる花束もうすれがちに
わたしは見た 檻の筋もたえだえな蛍籠ほどのものを
ぼくらの現実にはない高みで 観念のようにさびしく笑み割れてゆくものを
凍える死の舞台で焔の 煙のようなはかないひれをふるものを
あれは過去へなのか未来へなのか めぐりめぐってやってくるものの名付けるべきヴェクトルの位置は
しかも永遠がすでに手を挙げている 二度と交わることもあるまい星雲の彼方で
もっと巨大な絶望にくれる峰々のなかで
父・佐佐木政治
昭和6年長野県飯田市に生まれる。飯田高松高校卒業後、大学で仏文学を学ぶことを断念、木曽にて印刷業を営む。生涯、詩を詠み、本を作る。亡くなる二年前に脳梗塞で麻痺や認識障害を患うものの、動かない手を駆使して最後の詩集「神へ捧げるソネット」を手作りした。
>>>>>>>>>いつもフォトギャラリーから素敵な写真を使用させていただいています。感謝してます。ありがとうございます。<<<<<<<<
いいなと思ったら応援しよう!
亡父の詩集を改めて本にしてあげたいと思って色々やっています。楽しみながら、でも、私の活動が誰かの役に立つものでありたいと願って日々、奮闘しています。