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神へ捧げるソネット  #71

佐佐木 政治

森の頂きに輝くひとつ星から こよいはしきりと言葉が届く
こんな辺境の谷間の枝枝をかきわけて 無縁をかこつわたしの小さな窓辺にさえも
どんなにはるかな距離が その奥に痺れてあるというのだろう
ほとんど虚構としか思えない幻の 夜毎の言葉をたずさえて

言葉は星の実体を残してたえず出発するが たとえその星が消滅したとしても何の責任をも転化されることはない
むしろ神よ あなたの壮大な沈黙がおびきよせるヴェクトルの道筋に導かれるばかりだ
ぼくらがまだ影や形どころか その存在すら 論理の埒外に放り出されていた頃 言葉はすでに永い旅のさなかであった
そして 小宵はからずも言葉は可憐なサインとなって わたしの意識の壁を突きぬけたのだ

おゝ ずっと遠いむかしこの世を去った幼い妹が いま確かな言葉を持ち
寝静まった夜空の辻に 一途な眸をかかげるように
死者のみが持つ真向正面の神話として ひとつの言葉が輝くように

あゝ小宵もまた窓辺にもたれて だれにも明かさない秘密の扉がひらく
永遠が衣を着せて偶然の輝きにはじけわたる 夜空の花畑から
さ迷いくるひとすじの星の言葉を こよなくひそやかな薫りのなかで受けとめるのだ


父・佐佐木政治
昭和6年長野県飯田市に生まれる。飯田高松高校卒業後、大学で仏文学を学ぶことを断念、木曽にて印刷業を営む。生涯、詩を詠み、本を作る。亡くなる二年前に脳梗塞で麻痺や認識障害を患うものの、動かない手を駆使して最後の詩集「神へ捧げるソネット」を手作りした。


>>>>>>>>>いつもフォトギャラリーから素敵な写真を使用させていただいています。感謝してます。ありがとうございます。<<<<<<<<




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彩美 saimi
亡父の詩集を改めて本にしてあげたいと思って色々やっています。楽しみながら、でも、私の活動が誰かの役に立つものでありたいと願って日々、奮闘しています。