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エストニアの美しく儚い愛のおとぎ話『November』

⚠️本稿はネタバレを含みませんが、場面写真を掲載しています。ご注意ください。⚠️


 バルト三国のうちの一国、エストニア。ヨーロッパ北東部に位置しており、バルト海に面した美しい国である。

今回は、エストニアの映画『November』を紹介する。

エストニア出身の映画監督、ライナル・サルネによって2017年に作られた本作は、アカデミー賞外国語映画賞の候補作にも選ばれた。

 見始めてからすぐに、振り落とされそうになるほど独特なオープニングが幕を開ける。イタリア映画なども、個性的なカットが多い印象があるが、本作の冒頭シーンには一種の異常性を感じた。

「見たことのない何かが始まった。」

そう感じさせられるオープニングであった。

私は、今までに見たことのない異様さを前にすると、ニヤニヤが止まらなくなってしまうため、同じ性質を持つ方には、1人で鑑賞することを勧めたい。


???が続くオープニングを抜けると、またも混乱させられる本編が始まる。

本作の特徴は大きく分けて2点ある。
・モノクロである
・セリフが少ない

まず、モノクロであるが故にイメージを掴みにくい。近年だと、ケネス・ブラナー監督の『ベルファスト』(2021)が全編モノクロで作られ、アカデミー賞脚本賞やゴールデングローブ賞脚本賞などを受賞したことが記憶に新しい。

色彩がない、というのは、無条件に“古いもの”であるイメージを我々に植え付ける。そのため、本稿のタイトルにもつけた“おとぎ話”のような印象を受けたのではないか、と考えている。

そもそも“おとぎ話”と言い出したのは私であるが、本作はキャッチコピーにもあるように、“ダーク・ファンタジー”の要素が強いのだ。

モノクロ × ダークファンタジーというのは、なんと言っても相性が良い。鮮やかなカラーで描かれるのがファンタジーであるとすれば、ダーク・ファンタジーがテーマの本作でモノクロが使われるのは必然なのかもしれない。

本作はモノクロであるが故に少し見ずらいと感じる方もいるかもしれないが、それが一層ダーク・ファンタジーとしての世界観を魅力的なものにしているのだ。


 次に、本作はセリフがかなり少ない。最近の作品はセリフや文字を用いた説明が多く、情報量の多い作品が増えているように思うが、本作はその対極を目指している。

セリフを使わずに、映像で物語を伝える技術というのは、映画の本質であって、最も大切にされるべきものだ。

かつて川端康成ら新感覚派が純粋な映画表現を求め、衣笠貞之助監督の元に作られた『狂った一頁』(1926)は、サイレント映画でありながら字幕やセリフが一切ない。結局、あまりの難解さに当時は活弁を付けて上映したようではあるが、彼らは映画の本質を映像表現に見出していたのである。

そういった点において、本作は“映画”としての純粋性を担っていると言えるだろう。

特に、中盤での教会のシーンや村民が集っているシーンでは、独特な画角から撮影されたショットの数々が印象的であった。

個人的には、『グランド・ブタペスト・ホテル』(2014)のウェス・アンダーソン監督を彷彿とさせる表現だなと感じた。オマージュと言える程のものではないが、引きの画にシンメトリーの画角が多用されていた部分は、通じるものがある。

しかし、前半とは打って代わり、後半ではセリフが多く用いられるのも、本作の面白い部分である。

人知を超えた異様な存在と対話する姿は、本作の“ファンタジー”の要素を際立たせ、不思議な世界観へと導いていた。

セリフが多いと言っても、詩的な言葉が多く、決して説明部が増えている訳ではない。むしろ、謎が深まっているとすら感じた。

本作は、セリフが少ないために、理解し難い表現が多い。しかし、映像表現で物語を進めることこそが映画の本質であり、本作は純粋な映画表現を追求しているとも言える部分が魅力的である。


 本作は、率直な意見としては、「初心者には勧められない作品である。」と言える。しかし、私個人の意見としては、こういった前衛的な作品こそ、最近の映画をつまらないと感じている方に見て欲しい、と思っている。

私は、エストニアにこんなにも豊かな映画文化が存在していたことに、これまで気づくことが出来なかった。映画ヲタクとしては、とても悔やまれることである。

しかし、どれだけ様々な作品に触れていても、全く知らない新しい世界の扉を開けるチャンスがある、世界共通の娯楽である“映画”は、やはり面白い。

この徒然なるままに書かれた稚拙な文を読んで、もし『November』を見てくださる方が1人でも居たら、喜ばしく思う。

ここまで読んで下さり、ありがとうございました。




【作品】
・『ノベンバー』(2017)

Filmarksより


【参考】
・『ベルファスト』(2021)

Filmarksより

・『狂った一頁』(1926)

Filmarksより

・『グランド・ブタペスト・ホテル』(2014)

Filmarksより



【著者紹介】
sai¦女子大生による映画紹介🎞

映画ヲタク歴10年。
大学で映画を研究している女子大生。
最も好きな作品は、『STAR WARS ep.2』。
1940年代〜様々な国の作品を鑑賞しています。

Instagramにて、毎日映画を紹介中です。
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