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【読書感想】脳の闇

看護学で興味深いのは、『脳科学と心理学領域』だと答えるだろう。
この2つの違いは一つの出来事が起きたときに「脳」か「心」で捉えるのか、ということだと思う。今回は脳科学に精通している中野信子さんの新刊である『脳の闇』について書きたい。

「迷わない人」は信用できない
人間は迷い、戸惑い、誰かに合わせ、人の言葉を聞かなければ選択も決断もできない。そういう生き物だ。迷いも戸惑いもせず、誰に合わせることもせず(ブレない、などと称賛されることが多いだろう)、人の言葉を聞かず、決断力があり、我が道を行く「迷わない人」がいたら、真っ先に私はその人のことを疑う。

中野信子、『脳の闇』、新潮社、2023,p47

「リスクを取れ」「他人と違うことをしろ」と煽り文句が次から次と出てくる。人と合わせて生きることを軽蔑するような傾向すらある。確かに迷わない人に憧れてしまう気持ちも分からなくもない。だけど私はやっぱり悩んだりする人が人間らしくて好き。中野信子さんも“本当は悩むことのほうがずっと高度で、美しい機能なのに”と言っている。

「解は不定」の居心地の悪さ
選択する、ということは、選択した以外の選択肢をすべて捨て去る、ということだ。つまり、選択肢が多ければ多いほど、後悔も大きくなるという帰結が待っているのである。しかし、選択肢を誰かに選んでもらえれば、この後悔を負わずに済む。選択した誰かのせいにすることができる。

中野信子、『脳の闇』、新潮社、2023,p51

最近youtubeの悩み相談の動画、占いが流行り、キャリア相談を行うコーチング風なもの(もちろんクライアントが主体のちゃんとしたコーチングもある)が人気になっている。また就活では選ばれる側ではなく、選ぶ側と言われることが増え、悩む人が増えたように感じる。

自由であることがむしろ、自分で考えて選択することに繋がり、それを負担や面倒に感じる人が多くいるだろう。そして誰かに決めてほしいと願う。その気持ちもめちゃくちゃ分かる。自由が欲しいと言うけれども、本当は自由を避けたいという矛盾を抱えている。

ポジティブ心理学が台頭してしばらくたつが、ポジティブになれないのは自分に非があるからだと自責的になるのを助長して、かえってうつになる例が増加していると訴える学者もいる。

中野信子、『脳の闇』、新潮社、2023,p149

ポジティブで楽観的であることが良いとされる世の中でそのような言葉が毎日心に入ってくるわけではない。ときにはポジティブすぎる言葉が苦しめることもある。

もちろん物事には良いことも悪いこともあって、バランスがどちらに傾いているか、という問題であるとは思うけども、とことん落ちるところまで落ちてみるというのも手だと思う。

私の場合はなんでも自分が納得するまで自分の感情に付き添う。だから苦しい。だけども、そうやって悩んだり、苦しかったりしたからこそ、見えてくる景色があるということと、そしてその感情の幅が人としての深みが出るのではないかと思う。

うつに関してもこのように書いている。


うつなどの気分障害は人生における諸問題を効果的に分析し、対処可能にするという目的のために生まれた、脳に備え付けられた仕組みの一つなのかもしれない。抑うつ状態が存在せず、ストレスもトラウマもなく、自身の問題について深く長く反芻的に思考するという習慣がなければ、人間は、ひとたび自分が困難な状況に置かれたとき、その苦境を脱することが難しくなってしまうのではないか。

中野信子、『脳の闇』、新潮社、2023,p155

私は人より悩む。だけども考えることで毎回解決策を探し、立ち直る回数も人より多い。そのためどこかで自分は落ち込んで挫折しても、必ず立ち直られるだろうという自己効力感がある気がする。そしてある意味その自己効力感のおかげで今では最終的にはなんとかなるでしょっていう楽観的思考まで身につけられるようになった。

だから人生の中で起きる小さいことから大きい悩みに、苦しいけども向き合うということは自分を知るきっかけでもあり、あるいみ自分が次のステップにいけるための材料でもあり、最終的には楽観的になれる方法の一つなのかもしれないと思う。

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