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デザイナーノート:PULL BACK!!

「PULL BACK!!」は自分としてはルールの細部にこだわった作品です。
ゲームマーケット2024秋が終わったタイミング(2024年11月18日)で出すのはなんだかなとか、デザイナーの意図はゲームをプレイしてくれた方が感じれば良くて(最悪感じなくとも楽しんでくれれば良くて)、わざわざこだわりを解説するのも小っ恥ずかしいことだなとは思いつつ、これからプレイしてくれる方が増えたらいいなと思って、デザイナーノートを書いてみようと思います。主に、「このルールはこんなところにこだわった」「こんな意図がある」というネタばらしです。ご笑覧ください。
PULL BACK!!のルールはこちら

制作のきっかけとフレーバー

制作のきっかけは、奥さんが「大きく賭けて、大きなリターンをねらうようなゲーム」(いわゆる、「プッシュ(プル)・ユア・ラック」)が好きなこと。
キャントストップであったり、トュットであったり、「まだまだいける、もっといける」と運に身を任せるようなプレイ感のゲームを作って楽しんで欲しいなと思っていました。
最初に考えた時から、「2つのフェーズで進行する」ゲームにするということは決めていて、前半のフェーズは「どれだけ突っ込んで賭けに出ることができるか?」、後半のフェーズはその答え合わせで運を天に任せる、というゲームにしようとしていました。
余談ですが、システムを考えた当時、フレーバーは「鳩レース」でした。
(実際の鳩レースは、「どの鳩が一番早く帰って来れるか?」ですが、折り返し地点をどれだけ遠くに設定できるか、それでもなお無事で帰って来れるか、みたいなチキンレースに仕立てようと思っていました)
とはいえ、このままだとあまりにニッチかなと思っていたときに、天啓があって「ゼンマイカー」(ゼンマイを巻いて進む機構のあるおもちゃ)を経て、「プルバックカー」になりました。
もっともフレーバーを「プルバックカー」にしたことで、奥さんのフレーバー的な好みから外れてしまいましたが笑

前半フェーズについて

「PULL BACK!!」の前半フェーズでは、後半のレースフェーズに向けて、自分の車をカスタムします。
ゲームシステム的な話をすると、自分の手札に新たなカードを加えていきデッキを構築するフェーズになります。
自分のスタート地点をマイナス方向に動かすことを原資として、強化パーツを得るアイデアは、先の「折り返し地点をどれだけ遠くに設定できるか」の名残です。
初めの方の試作品では、この部分は最終的なルールとして採用した「裏向き一斉公開による獲得順競り」ではありませんでした。全員がインカの黄金のように、強化パーツを得るか得ないかを同時に選んで公開し、強化パーツを得ることにしたプレイヤーだけが山札から順にカードを得て、得た強化パーツカードに書かれた数字分だけ、自分の車をマイナス側に動かすルールでした。この試作品では、そもそもどの強化パーツを得たとしても、「バースト」のリスクが非常に高くて、カードを得るか得ないかの選択自体がかなり大きなものになりがちでした(プレイヤーの心的負担が大きい)。
後述する「バースト」の仕様が大きく変更されることで、現在のように、公開された強化パーツの中から「どれを?」選んでとるか、という競りに変わりました。
合わせて自分の車の下げ方も、「競りで使用したカードに書かれた距離数分マイナス側に車を動かす」仕様に変わりました。実は、このアイデアは仲良くさせていただいている、天空薙さんとテストプレイ会で話していたときに出てきたアイデアです。「競り」はモダンなメカニクスではないと言われることもありますが、ファーナスやファラウェイなどが好きな自分にとって、これが入れられたことはとても嬉しく思いました。何気に、「競りにもレースと共通のカードを使用する」というのも気に入っています。複数の役割を1つの物で兼ねる、っていうのが好きなんです笑

タイブレイクどうするか問題

前半フェーズが現在のルールになるまでに何度か大きめの変更があったのですが、その1つは「競りにおけるタイブレークをどうするか?」ということでした。
初期の試作では、プレイヤーごとにスタート地点が異なって(傾斜がかかって)いて、レース場ボードで下に位置する車のプレイヤーほど、競りで同値を示した(タイブレーク)ときに有利になるといった感じでした。
しかし、これがなんとも直感的でない。(テスト時に彼葉さんに指摘されました。彼葉さんにはこの段階でも高評価をいただいて、励みになりました。)
それに、プレイヤーがゲーム開始時にスタート位置を選ぶ合理的な方法もない。(ジャンケンで勝ったプレイヤーから時計回りはなんとなくスマートではない)
すごく悩んでいたのですが、「いっそカード1枚1枚に競りのタイブレークにだけ使う数字を入れたら良いのでは?」と、これまた仲良くさせていただいている月並いおりさんにアドバイスをいただきました。
各カードにタイブレークにだけ使うオールユニークな数字を付すということは、拡張性がかなり制限されてしまうことに繋がります。異なるプレイヤー間で共通の汎用カードを使い回すことができなくなり、完全に各プレイヤー専用の初期デッキを用意しなければならなくなるからです。それでも、タイブレークの処理の煩わしさからかなり解放されて、とてもルールがスッキリしました。(ここの変更も細かいですが、とても気に入っています)

感情の起伏、ダイナミックな展開の演出をどうするか問題

晴れて競りのタイブレークの解決ができたのですが、それにしても前半の競りが思ったよりも盛り上がらない、なぜだ??
「競り」というメカニクスは、プレイヤーの誰もが「良い」と思う1つのものを競るときに大いに盛り上がります。このとき、競りによって得られるのが1人のプレイヤーだけだとさらに盛り上がりますよね。
一方で、競る対象が複数あってどれかは少なくとも得られる場合や、プレイヤーによって見積もる価値が違うものがある場合、第一希望とはならずとも結局なんらかのものは得られるので、そこまで感情の起伏(「取れた!嬉しい!」「取れなかった!悔しい!」)は大きくなりません。
また、「スタート地点をマイナス方向に動かすことを原資」にしてはいましたが、そこまで大きくプレイヤー間で差がつきづらくなっていたこともこの原因として考えられました。
そこで、この解決のために前半の競りフェーズに採用しているルールを解説します。
1つ目は、「競りから1人で降りる」ことへの対価を設定したことです。
後半のレースフェーズでは、自分のカードの山札が尽きてしまうとゲーム終了になってしまいます。そのため、カードの枚数を増やすことは基本的に良いことです(後述の「バースト」があるので、あくまで基本的には)。
よって、競りから降りることでカードを得られないことは単純にマイナスな行動ですが、それを1人で降りることによってレース中に役立つ「修理トークン」を得られるようにしました。
「修理トークン」は、後半フェーズそのものが運による揺らぎが大きいためその価値を正確に見積もることはできませんが、持っていて損になることはないものです。
このトークンをめぐって、「今降りるべきか?」「タイミングが被るのではないか?」という駆け引きが発生することになります。前半フェーズは3ラウンド×3ステージの合計9ラウンドで構成されていますが、ステージ内の3ラウンドにおいて、「いつ降りるか?」という視点が加わったことで、競りに起伏がもたらされました。
2つ目は、第2ステージ、第3ステージで競りで1位になったプレイヤーに追加で後退する距離を設定したことです。
第1ステージでは、競りで示した距離数分、全プレイヤーが車をマイナス側に動かしますが、第2ステージ・第3ステージで競りで1位になったプレイヤーはさらに、1m・2mだけ車をマイナス側に動かさなければなりません。
これによって、各プレイヤーが競りに勝つ意味やあえて「しゃがむ」意味が大きくなり、最終的なレースフェーズのスタート位置も良い感じにばらつくようになりました。
また、これに合わせて「マイナス11m」「マイナス22m」「マイナス33m」の地点にちょうど止まることで得られる特別な能力(スペシャルパワー)を導入しました。そもそも、競りの状態の可視化はレース場ボードでなされていたのですが、前半ラウンドで使ったカード分だけあとで一気に車を後退させて行くのではなくて、せっかく毎回の競りの後に車を後退させて行くのなら、各プレイヤーが狙って止まろう・止まりたいと思う地点があったら、競りの思惑を読み合うのに一役買うのではないか?と考えました。
実際、予定外のところで第2ステージや第3ステージの競りにおいて1位になってしまって、止まりたいところに止まれなくなったり、逆に棚ぼたで止まれることがあったり、すごろく的な楽しさが加わりました。
この変更は、EJPゲームズ様で実施されているテスト会のときにいただいたアイデアを形にしたものですが、狙い通り、「ちょうど止まる」ことを目指して競りが白熱するようになりましたし、良い追加でした。
このようにして、「競り」がドラマティックになるようなルールが追加されました。後半のレースフェーズが競馬を観覧するような楽しさなら、前半は静かに、でも脳内は熱く燃える心理戦の楽しさになっています。もちろん、好きなように、好きな車をカスタムしていくのもぜひ楽しんでください!

後半フェーズについて

後半フェーズは、基本的なコンセプトは初期の段階から一貫しています。はじめの方に書きましたが、運を天に任せて「答え合わせ」をすることです。カードめくりによる対戦を自動化しているチャレンジャーズがちょうど世に出始めたタイミングで考えていたので、結構焦りました。結局、PULL BACK!!の頒布はだいぶ遅れたので、チャレンジャーズの感じはほとんど皆さんには思い出されないものになっていますが笑
後半のレースフェーズは、大きめの変更を加えた部分でもあります。ちょうど制作の真ん中くらいでの変更ではあったのですが、そこまでは出口が見えず、テストプレイ会での様子も芳しくなく、辛い時間でした。
でも、最終的に変更した部分によってまとまりがすごく良くなりました。

バースト、バースト、バースト・・・

実は現在PULL BACK!!で「スリップ」としている処理は、初め「バースト」と呼んでいました。バーストをしてしまうと、その人はレースから脱落=ゲーム終了、というルールでした。
自分は、「1回きりのレース」ということに強くこだわっていたので、「前半に作ったデッキで後半のレースが終わってしまってもやむなし」という気持ちだったのですが、コロコロ堂さんで開催されたテストプレイで、しまむーさんに「インストコスパが悪い(=インストが長い割に、プレイ時間が短く終わってしまうプレイヤーがいる)」と言われたり、本八幡の仲間たちにテストをしてもらったときに「デッキを構築するんだったら、もうちょっとレースをしたい」と言われたりしていました。
では、カスタム(デッキ構築)→レースを繰り返すようなゲーム性に変えてみる?と思って、実はその方向に舵を切ろうとしたこともありました。いや、これなんてエバーデール、となって結局その方向性はやめました。
光が差したのは、「デッキから山札を減らす」という効果について新たに知識を得たときでした。TCGなどでは割とある効果なのだと思うのですが、自分はそれまでこのような発想はありませんでした。
これをもって、それまで使用していた「バースト」という語ではなくなり、「スリップ」という少しマイルドな語に変更しました。そして、合わせて最終的なゲームからの脱落条件も「山札を最後まで使い切ったら」あるいは「山札からカードをプレイできなくなったら」というように変更になりました。
こうすることで、「せっかく作ったデッキを最後まで運用できずにゲーム終了になる」という不満が解消できました。
また、それまで決めかねていた「修理トークン」の仕様もここにきて一気にまとまりました。
修理トークンは、初めは2通りの使い方があるものでした。1つは、途中での脱落を防ぐ残機としての役割、もう1つはレース途中でプレイした青色のカードを山札に戻すという役割でした。
自分としては後者の役割があることで、「プレイヤーがレースフェーズ中もゲームに関与している感覚」を得られると考えていたのですが、あまり有効ではなかったですね。しかも、「2つの役割がある」ことは複雑さを増すことにつながっていて煩雑だと指摘されていました。
最終的に、「黄色なら1枚、赤色なら2枚を捨て札にすることを防ぐことができる」という効果になり、良い落とし所になったと思います。
修理トークンを「いつ使用するか?」は、この後説明する「ラストスパート」と相まって、当ゲームの主要なジレンマポイントになっています。ぜひ、プレイ時に感じてみてください。

ラストスパートとブースト

制作の最後の方に追加したのが、「ラストスパート」と「ブースト」に関するルールです。
修理トークンはとっても便利なので、持っていれば持っているほど安心材料になります。このために、前半のフェーズでの「競りからの降り」が熱くなるのは間違いないのですが、あまりに便利すぎてもバランスが取れない。そこで、その価値を時限式にしたのが「ラストスパート」のルールです。
展開的には、コース上を大きく先行しているプレイヤーがいる場合、そのプレイヤーは修理トークンをすでに消費している可能性が高く、後続のプレイヤーは未消費になる可能性が高くなります。
未消費の修理トークンを使える機会が、後半にも十分に保障されていれば、後続のプレイヤーは安心してゆっくりと進むことができます(実際には、カードのめくり運のため、「ゆっくり進む」ことにプレイヤーは参与はできません)。
では、安定した(スリップはそこそこにしかしない)車にした方が良いではないか?否、実際にそうさせないために、ラストスパートに入ると、全プレイヤーが修理トークンを使えなくなる、というルールにしました。
一見すると、先行したプレイヤーに一方的に有利に見えますが、代わりに後続のプレイヤーには追加で進む距離である「ブースト」がかかるようになります。
「ブースト」は、ゲームの展開にもよりますが、最大で後続のプレイヤーに30m近いアドバンテージをもたらすこともあります。このブーストをどの地点でどの値にするか?は、複数回のテストで調整しましたが、正解は実際のところ今でも不明です。
とはいえ、このブーストのおかげで劇的な展開や、均衡した展開になりやすくなり、とても気に入っています。

終わりに

ゲームデザイナーみんな思っていると思いますが、「自分の作ったゲーム、超面白い!」です。これまでの数作についてももちろんそう思って作ってきました。
でも、PULL BACK!!は自分の中では特に気に入っているゲームです。それはこれまで書いてきたように、細部にいろいろなアイデアや工夫を入れることができたからです。今でも、すごく遊びたいです!(奥さんが付き合ってくれれば笑)
ゲームマーケット2024秋でお手にとっていただいた皆様、未プレイの方はぜひPULL BACK!!をプレイしてみてください。1度と言わず、2度3度。それだけ、奥深いゲームです。
PULL BACK!!をお持ちでない方、安心してください、在庫あります!近々BASEや各ボードゲームショップ様での通販を予定しています。ぜひぜひお手に取ってみてください(直接的な宣伝)。

ここまで、読んでいただきありがとうございます。PULL BACK!!のルールを知っている方を前提に書いてきたので、読みづらいところがあったかと思います。申し訳ありません。取り留めもない、デザイナーのメモですが、楽しんで読んでいただけたなら幸いです。ありがとうございました。

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