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ボードゲーマーの動機付けプロフィール

このnoteは、Quantic Foundry社のboard gameタグで投稿された、Board Game Motivation Profileに関するいくつかの記事について、その内容をまとめたものです。画像の出典先は都度URLを提示しますので、元の記事もよければご覧ください。

ボードゲームをプレイする人、あるいはボードゲームを作る人の双方にとって、「どんな理由でプレイしているのか?」「ボードゲームに何を求めているか?」は色々な問題の中心にあります。
このnoteがそうした問題の理解や、解決に少しでも繋がれば幸いです。

はじめに

数ヶ月前に、サイコロ塾のnoteにて、「ゲームプレイヤーのパーソナリティについて〜バートルの4分類を超えて〜」という記事を書きました。

このnoteを書こうと思ったきっかけは、学術的な裏付けなしに「バートルの4分類」があまりにも色々な領域に使われていることに警鐘を鳴らすためのものでした。
ここでは最終的に、バートルの4分類に代替するものとして、Five-Factor Player Traits Modelというものを紹介しています。
また、今回のnoteで紹介することになるNick Yeeらの、Gamer Motivation Profileにも触れています。Gamer Motivation Profileについては、

最近の原著論文が見当たらず、どのような質問群(質問に関してはQuantic Foundryのページで実際に実施すればわかる)に対して因子分析がなされ、尺度化のプロセスが実施されているかが不明です。

「ゲームプレイヤーのパーソナリティについて〜バートルの4分類を超えて〜」より

と書いたように、学術論文としては公に発表されたのは2012年のOnline gaming motivations scale: Development and validationが最後でその経過が追えなくなっています。
しかし、Yeeらはその後も「ゲームプレイヤーのプレイに対する動機付け」の研究を続けており、その集大成たるレポート(Gamer Motivation Insight Report)が2021年に公表されています。(お値段は日本円でなんと約30万円!)

今回紹介するBoard Game Motivation ProfileもYeeらのこうした調査・研究の一環として作成されたものです。
先にあげたnoteでも、「類型論によらない特性論に依拠したボードゲーマーの動機付け分類」を探していたのですが、実はここにすでにあった!というわけです。(note内で紹介したFive-Factor Player Traits Modelもデジタルゲームの文脈ですので、「今のところベター」と書いていました)

今回はBoard Game Motivation Profileの質問項目に実際に答えてみました。その上でYeeらが2016〜2017年にQuantic Foundry社のホームページにあげているその制作過程や調査報告に関する記事を読みましたので、それらをまとめてみたいと思います。(リンク先が実際の質問項目になっています。そこまで難しい英語は使われていませんので、よければぜひやってみてください)


Board Game Motivation Profileに答えてみた

さて、Board Game Motivation Profileがどんなものか知るためにも、ともあれまずは取り組んでみよう、ということで先のリンク先にある質問群に答えてみました。

現在のバージョンはv2となっています。このあたりの事情はあとで書きたいと思います。質問はいわゆる「フェースシート」と呼ばれる部分と、「普段のボードゲームとの関わり」を尋ねる部分、それからこの質問群の中心となる「ボードゲームのプレイへの動機付け」を尋ねる部分からなっていました。
また、全体の最後にあくまでOptional(自由回答)な部分にはなるのですが、Board Game Geekのユーザーネームを尋ねられました。今回のProfileとBGGに登録してある情報を紐づけることが可能になっているようです。

フェースシート

フェースシートは、人口統計学的な質問をする部分です。Board Game Motivation Profileでは、「性別(gender)」「年齢(age)」が尋ねられます。「性別」では、male・Femaleの他に「Other」という項目があり、記述欄が設けてありました。

普段のボードゲームとの関わり

ここでは、ボードゲーマーとしての普段のボードゲームのプレイの様子について尋ねられます。お気づきかと思いますが、このBoard Game Motivation Profileは、全くのノンゲーマーのプレイの動機付けを明らかにする目的ではなく、ある程度ボードゲームをプレイする人の動機付けについて明らかにする目的のようです。ここでの質問群は、いくつかの選択肢から1つを選ぶ形式や、複数回答が可能なものがありました。

  • 過去6ヶ月で、どのくらい頻繁にボードゲームをしましたか?(選択択一)

  • 普段、どのような人たちとボードゲームをプレイしますか?(複数選択可)

  • 大体どのくらいのボードゲームを所持していますか?(拡張を0.5個分として換算)

  • 何人でプレイするのが好きですか?(選択択一)

  • どれくらいの時間プレイするのが好きですか?(選択択一)

  • KickstarterやIndiegogoなどでボードゲームのプロジェクトに貢献した経験がありますか?(選択択一)

  • お気に入りのボードゲームを書いてください(3個まで)
    *BGGのリストと連携していて、ゲームの名前が候補として出てくる
    *BGGに登録がないものも書くことはできる

  • 最近プレイして面白かったボードゲームを書いてください(3個まで)
    *同じくBGGのリストから

ボードゲームのプレイへの動機付け

さて、ここからがBoard Game Motivation Profileの核となる部分かと思います。この部分は大きく5つのセクションに分かれていて、すべて5件法のリッカート尺度(選択肢が5つあり、それらの選択肢が同一の尺度上における程度や頻度の差を示している)の質問で構成されています。

  1. ボードゲームをプレイする際、次のゲームの要素はあなたにとってどれくらい重要ですか?(「全く重要でない(Not At All Important)」から「とても重要(Extremely Important)」の5件法)
    ー高い技術を持つプレイヤーとして知られること
    ー緻密な世界観や舞台が設計されていること
    など20項目

  2. 次のゲームやゲームの要素について、あなたはどれくらい好み(あるいは好みではない)ですか?(「嫌い(Hate)」から「とても好き(Love)」の5件法)
    ーアクションの結果を運に委ねるメカニクス(例:戦闘を解決するためにサイコロを振るなど)
    ーブラフや騙し合いを行うゲーム性
    ー思考と計画性が必要なゲーム性
    など18項目

  3. 次の事柄についてどのくらい頻繁に行いますか?(「全くしない(Never)」から「Always(いつもする)」の5件法)
    ー新しいゲームシステムやメカニクスについて学習する時間をとる
    ーゲームデザイナーやゲームパブリッシャーについて学習する時間をとる
    の2項目

  4. 次のゲームやゲームの要素について、あなたはどれくらい楽しみますか?(「全く楽しまない(Not At All Enjoyable)」から「とても楽しむ(Enjoy A Great Deal)」の5件法)
    ー共通の目標を達成するために協力し合うゲーム
    ー他のプレーヤーとチームとして協力する
    ープレイヤー同士のくだらない、面白いやりとりがたくさんあるゲーム
    の3項目

  5. 次のゲームのテーマや設定について、あなたはどれくらい好み(あるいは好みではない)ですか?(「嫌い(Hate)」から「とても好き(Love)」の5件法)
    ー現代都市/インフラ
    ーハイ・ファンタジー
    ー中世/ルネッサンス
    など10項目

自分のBoard Game Motivation Profile

大体10分程度あればここまでの質問全てに回答することが可能です。
上記の質問群全てに回答すると、自分のボードゲームに対する動機付けプロフィールが、チャート形式で図示されて示される画面に遷移します。

自分のボードゲームに対する動機付けプロフィール(2022年4月)

上記が今回試しに作ってみた、僕のボードゲームに対する動機付けプロフィールです。ちなみにこちらは、各種SNSでシェアができるようになっていました。
4つの動機付けクラスター(Conflict、Social Fun、Immersion、Strategy)が菱形の4つの頂点にそれぞれ置かれていて、各パラメータ(%)はパーセンタイル(他の人たちとの相対的な順位)を示しています。外側にある緑の四角形は二次的な要素(副次的な要素)を表しています。
次の章では、Board Game Motivation Profileがどのように作られていったかということと、各動機付けクラスターの説明などをしていきます。


Board Game Motivation Profileの開発経緯

Board Game Motivation Profile初版

それではまず初めに、2016年8月にポストされた「How We Developed the Board Game Motivation Profile」を概説しながら、Board Game Motivation Profileの開発経緯などを書いていきたいと思います。

Board Game Motivation Profileは、因子分析という心理学における標準的な統計手法を経て作成されました。
初めにパイロット版として質問群が準備されました。先行する文献から、ボードゲーマーの動機付けに関する文言を探したり、BGGでプレイヤーと交流することでこの質問群が作成されました。この時の質問項目は59項目です。
この59項目に、後に分析の視点となるような「フェースシート」や「普段のボードゲームとの関わり」といった変数が準備されました。
はじめに準備された質問群は、広義の「ボードゲーム」を示していて、CCG(Collecting Card Game)やミニチュアウォーゲームなども含んでいました。

これらの質問群を用いて、予備調査が行われました。予備調査は、BGGのスレッドとして公開したり、SNS上で回答を募るなどして集められ、最終的に1,549件の有効回答を得ています。

ここでいくつか問題が起こります。
1つは、先にも述べたように「ボードゲーム」の中に様々な形態のゲームが含まれていたことでした。この段階では、とりあえずYeeらのチームは初めは包括的にボードゲームを捉えることとしたようです。
もう1つは、複数のジャンルを定期的にプレイしているゲーマーから、異なるジャンルにおいては重視することが違う、という指摘が入ったことでした。これに対しては、基本的に1つのジャンルに絞って回答をするようにすることや、母集団を別々にすることなど種々の解決策を講じたものの、先にあげた問題も含めて分析を進める中で課題が生じることになりました。

そこで、Yeeらは「ボードゲーム」に絞って分析をしていくことにしました。分析する段階で、TRPGのみをプレイしているプレイヤーを除外しました。残りは、ボードゲームのみをプレイしているプレイヤー、ボードゲーム+TRPGをプレイしているプレイヤーになるのですが、この2つの群それぞれで分析を行なったところ、因子解(因子分析を行なった際に得られるクラスター)に実質的な差異がなかったことから、最終的には2つの群を合わせた1,468名のデータを使用することにしたのです。

因子分析の結果、ボードゲームをプレイする動機が中心的な要素と副次的な要素で構成されていることがわかりました。
中心的な要素は、副次的な要素と相関が高いですが完全に一致はしておらず、中心的な要素同士では相関が低くなっています。

それぞれの要素について、「クラスター」という用語を用いて以下では説明をしていきます。この初期段階の分析では、4つの中心的な要素、それに付随する4つの副次的な要素が見出されました。

  • コンフリクト(Conflict)
    副次的な要素:ソーシャル・マニピュレーション(Social Manipulation)

  • 戦略(Strategy)
    副次的な要素:システム探究(System Discovery)

  • ファンタジー(Fantasy)
    副次的な要素:美的感覚、美意識(Aesthetics)

  • ソーシャルファン(Social Fun)
    副次的な要素:アクセシビリティ(Accessibility)

お気づきのように、先にあげた僕自身が行ったボードゲームに対する動機付けプロフィールにあった項目と異なる部分があります。
この後、改定があってBoard Game Motivation Profileはv2(第二版)となりますので、そうなっていった経緯を説明したのち、各クラスターに関する詳細な説明を書いていこうと思います。


Board Game Motivation Profile v2

さて、ここからは前段から約1ヶ月後にポストがあった「The Board Game Motivation Profile (v2): Based on Data From Over 40,000 Gamers」という記事を概説しながら、Board Game Motivation Profileがどのように改定されていったのかを書いていきます。

前回のポストから、この記事の投稿までに約40,000人以上からデータを収集したということです。この豊富なデータをもとに、Board Game Motivation Profileの改定が行われたというのがこの記事の主旨になります。
それではどのような部分が異なるのかを詳しく述べていきます。

まず、今回のデータは、男性(75%)、女性(24%)、そのほか(1%)からデータを得ています。また、年齢は13歳から78歳まででその中央値は31歳、平均値は32.66歳、標準偏差は8.41歳で、四分位範囲は27-31ということでした。

ゲームプレイ頻度は、「非常に少ない」が10%、「月に1回程度」が29%、「週に1回程度」が38%、「週に複数回」が23%でした。
また、一緒に遊ぶ相手については、「友人と遊ぶ」が91%、「家族と遊ぶ」が48%、「知らない人と遊ぶ(例:地域の集まりや大会)」でした。

そのほかに、Kickstarter/Indiegogoへの出資の経験なども尋ねていました。

このデータセットを用いて、前段で行ったのと同様の因子分析が行われました。結果は、中心的な要素が4つ、そこに付随する副次的な要素が見つかるという点で以前と同じになりましたが、副次的な要素が1つ以上見られるクラスターが発見されました。太字にしてあるところが変更点です。

  • コンフリクト(Conflict)
    副次的な要素:ソーシャル・マニュピレーション(Social Manipulation)

  • 戦略(Strategy)
    副次的な要素:システム探究(System Discovery)
    副次的要素:勝つことの重要性(Need to Win)

  • ファンタジー(Fantasy)没入(Immersion)
    副次的な要素:美的感覚、美意識(Aesthetics)

  • ソーシャルファン(Social Fun)
    副次的な要素:協力(Cooperation)
    副次的な要素:チャンス(Chance)
    副次的な要素:アクセシビリティ(Accessibility)

初版との差異として、中心的な要素クラスターである「ソーシャルファン」に、2つの副次的な要素「協力(Cooperation)」「チャンス(Chance)」が加えられました。

また、初版にあったファンタジー(Fantasy)の語が没入(Immersion)に置き換えられています。これは、ファンタジーという用語が、ボードゲームのテーマを表す用語として使われていて混同を避けるためであると説明されていました。

さらに、このタイミングで僕のボードゲームに対する動機付けプロフィールの図のように(下図)、中心的な要素と副次的な要素のクラスターを重ねて表示できるように視覚化するようにしたそうです。

自分のボードゲームに対する動機付けプロフィール(2022年4月)(上のものと同じ)

今回のv2では質問項目のワーディング(言葉遣い)も見直され、より堅牢なものになったということでした。


Board Game Motivation Profileの各クラスターの説明

というわけで、パイロット版から初版が作成され、v2に至ってBoard Game Motivation Profileは整備されました。この段では、2017年1月に投稿された「Board Game Motivation Model: Handy Reference Chart & Slides」という記事に埋め込まれていたスライドを元に、Board Game Motivation Profileの各動機付け要素(クラスター)の説明を行っていきたいと思います。

すでに述べたように、Board Game Motivation Profileでは、4つの中心的な要素(クラスター)とそこに付随する7つの副次的な要素(クラスター)が見出されました。中心的な要素と副次的な要素の関係性については、すでに述べていますが、付随している要素間では相関が高く、中心的な要素間の相関は低くなっています。

Board Game Motivational Model
https://quanticfoundry.com/2017/01/12/board-game-handy-reference/より引用

以下では、Board Game Motivational Modelのスライドから、4つの中心的な要素(クラスター)とそこに付随する7つの副次的な要素(クラスター)の詳細な説明を記述します。

中心的な要素:コンフリクト(Conflict)

Board Game Motivational Modelの1つ目の中心的要素(クラスター)はコンフリクトです。
コンフリクトのスコアが高いゲーマーは、競争心が強く、プレイヤー同士が直接敵対行動を取れるようなゲームを好む傾向があります。例えばこれは、他のプレイヤーのリソースを盗んだり、廃棄を強要したり、相手の動きを封じたり、あるいは相手のユニットや建物を直接攻撃して破壊したりすることです。
一方、コンフリクトのスコアが低いプレイヤーは、直接的で敵対的な対立を最小限に抑えたゲームを好みます。

副次的な要素:ソーシャル・マニュピレーション(Social Manipulation)

コンフリクトに含まれる副次的要素として、ソーシャル・マニピュレーションがあります。
ソーシャル・マニピュレーションのスコアが高いゲーマーは、ハッタリや騙し合い、説得の能力で結果が決まる心理ゲームを楽みます。信頼と交渉という社会的な場が、彼らの好む戦場です。他のプレイヤーに何か(特にそれが嘘であった場合)を納得させなければならないゲームを楽しみます。
一方、ソーシャル・マニピュレーションのスコアが低いゲーマーは、ごまかしが効かない、より透明性が高く具体的なゲームを好みます。

中心的な要素:戦略(Strategy)

2つ目の中心的な要素は、戦略です。
ストラテジーのスコアが高いゲーマーは、認知的なチャレンジを楽しみます。彼らにとって、ゲームは自分の知的能力を磨き、試すための手段なのです。そのため、多くの思考と計画を必要とし、適切な判断が要求され、運よりも戦略的な熟練とスキルがゲームの結果を左右するようなゲームを好みます。また、複雑なルールセットや、短期的・長期的なトレードオフが存在するようなメカニックが重なり合うような、複雑なゲームを好みます。じっくりと考える時間があり、緻密な戦略が立てられ、実行できるようなスローペースなゲームを好みます。
一方、戦略のスコアが低いゲーマーは、決断が長期的にあまり影響を及ぼさない、よりリラックスしたゲームプレイを望んでいます。

副次的な要素:探究(Discovery)

戦略に含まれる副次的要素の1つは、探究です。
探究のスコアが高いゲーマーは、ルールセットやゲームメカニズム、さまざまなゲームシステムで実現される遊びの空間などに幅広い興味を持ちます。このため、新しいゲームのリリースを追いかけ、メタ情報(出版社や作者など)を把握することを楽しみます。また、新しいゲームメカニクスを発見し、試すことに時間をかけます。そのため、ゲームデザイナーやパブリッシャーの歴史や特異性にも精通している傾向があります。より幅広いゲームに興味を持つ一方で、より革新的なゲームメカニクスを好む傾向があります。
探究のスコアが低いゲーマーは、より伝統的で、慣れ親しんだ、既成のゲームの仕組みを好みます。

副次的な要素:勝つことの重要性(Need to Win)

戦略に含まれる副次的要素のもう1つは、勝つことの重要性です。
このスコアが高いゲーマーは、勝利にこだわりがあり、特に圧倒的な差で勝利したときに喜びを感じます。相手を打ち負かすことに喜びを感じます。彼らにとって、ゲームは目的(できれば勝利)のための手段であり、勝つことがゲームの最も重要な部分なのです。勝つことの重要性が高いゲーマーは、勝者が相手を完全に支配できるようなゲームを好みます。
一方、勝ちにこだわらないゲーマーは、ゲームの結果を気にせず、ゲームをプレイする過程を重視します。そのため、共同作業やソリティアなど、対戦相手とのゼロサムでないゲームを好みます。

中心的な要素:没入(Immersion)

3つ目の中心的な要素は、没入です。
没入のスコアが高いゲーマーは、独自の伝承、歴史、文化、興味深いキャラクターを持つ、もっともらしい異世界で役割を担うことを楽しみます。また、キャラクターや都市を選択・カスタマイズすることで、異世界の一員になったような感覚を味わうことができます。また、ゲームをプレイすることで展開される物語の一部になることができるという暗黙の物語性を好みます。彼らにとって、ゲームはプレイしながら生きていくファンタジーの世界なのです。
逆に没入のスコアが低い人は、ゲームのメカニクスに集中したいので、テーマが重くなったり押しつけがましくなったりするのを嫌がります。

副次的な要素:美的感覚、美意識(Aesthetics)

没入に含まれる副次的要素は、美的感覚・美意識です。
このスコアが高いゲーマーは、ゲームのテーマや設定を強く反映した高品質のコンポーネントを好みます。特に、アートワークの素晴らしさやコンポーネントのイラストの美しさが重要視されます。また、ゲームのキャラクターや建物を表現した精巧なミニチュアなど、ゲームが創り出すファンタジーの世界を捉え、高め、表現する手触りの良い部品を楽しみます。
美的感覚のスコアが低いゲーマーは、ゲームのアートワークや製品としての価値にほとんど関心がありません。ゲームプレイとメカニクスを重視し、抽象的なコンポーネントで満足します。

中心的な要素:ソーシャルファン(Social Fun)

最後の中心的な要素は、ソーシャルファンです。
ソーシャルファンのスコアが高いゲーマーにとって、ボードゲームをプレイすることは、何よりもまず、他の人と楽しい時間を過ごすことなのです。ボードゲーム自体は、友人や家族が集まって一緒に楽しむための便利な小道具にすぎません。ゲーム(特にパーティーゲーム)が引き起こす、おしゃべりや社会的な交流、そして特に笑いや面白いやりとりを楽しみます。彼らにとって、ボードゲームは楽しい社交の場への大きなきっかけとなるのです。
一方で、ソーシャルファンのスコアが低いゲーマーは、「余計な」社会的交流を奨励したり報酬を与えたりしないゲームを好み、ゲーム中シリアス(真剣)なトーンでプレイします。

副次的な要素:協力(Cooperation)

ソーシャルファンに含まれる副次的要素の1つは、協力です。
このスコアが高いゲーマーは、他のプレイヤーと共通の目標に向かって協力できるボードゲームを楽しみます。他のプレイヤーを打ち負かすよりも、一緒にチームを組む方が好きなようです。これはソーシャルファンとも一致します。なぜなら、人々が互いに攻撃し合ったり、個人の勝利にこだわらない方が、楽しい時間を過ごすことができるからです。
一方、協力のスコアが低いゲーマーは、個人の意思決定や成果、結果を重視するゲームを好みます。

副次的な要素:チャンス(Chance)

ソーシャルファンに含まれる副次的要素の2つめは、チャンスです。
チャンスのスコアが高いゲーマーは、カード引きやサイコロを振るなど、ボードゲームに運の要素があることを好みます。このようなゲーマーは、自らのゲーム内アクションの可能性に影響を与えるメカニクス(例:『アグリコラ』のスタート時の手札を引く)や、行動の結果を決定するメカニクス(例:攻撃が成功したかどうかをサイコロを振って決定する)を楽しみます。チャンスとソーシャルファンの魅力は、ゲームへの参入障壁を低くし、初心者とベテランの間のプレイにおける差異をいくらか平準化し、予期せぬ楽しい結果を生み出すことで皆が楽しむ可能性を高める点で似通っています。
チャンスのスコアが低いゲーマーは、自分の行動に対して明確で具体的な結果を好み、運は最小限であることを好みます。

副次的な要素:アクセシビリティ(Accessibility)

ソーシャルファンに含まれる副次的要素の最後の1つは、アクセシビリティです。
アクセシビリティのスコアが高いゲーマーは、幅広い人々が手に取って楽しめるゲームを好みます。他の人と一緒にボードゲームをするのが好きなら、多くの人が夢中になれるゲームがあると便利ですからね。そのため、「教えやすい」「覚えやすい」「ボードゲームの経験が浅くても遊べる」ゲームが好まれます。また、家族でボードゲームを楽しむのであれば、家族で楽しめるテーマであることもプラスに働きます。
一方、アクセシビリティのスコアが低いゲーマーは、重厚で複雑なゲームを好みます。


Board Game Motivation Profileはどのように使えるか?

これまで、Board Game Motivation Profileが開発された経緯や、その内容について、開発元であるQuantic Foundryのブログポストを参照しながら書いてきました。
この章では、それではBoard Game Motivation Profileをどのように使えば良いかについて、ボードゲームにまつわる3つの立場から考えて書いていこうと思います。

1、ボードゲームプレイヤーとして

ボードゲームプレイヤーとしては、1番大きいのは自分がどういったプレイヤーであるかということが可視化できることです。
可視化されたプロフィールを参考にすることで、ボードゲームとプレイヤーのミスマッチを未然に防ぐことができます。
この辺りはなんとなく以前のnoteでも書いたように思います。

それに加えて、今回はいま一歩進んだ使い方ができます。それは公式に推奨されている使い方でもあるのですが、ボードゲームのリコメンドです。
Board Game Motivation Profileの特徴として、BGGのユーザーネームを収集しているということがあります。データを入力した人が、BGGでアカウントを持っていれば、その人がプレイしているゲームの傾向なども一緒に収集することができるというわけです。
そこから、逆算して「こういったプロフィールにはこういったボードゲームがおすすめ」というリストが作成されています。
(例えば、「中心的な要素:戦略」のスコアが高いプレイヤーには、『アークライト』『1830』など)プロフィールをあらかじめ登録していれば、おすすめゲームが何か?ということが自動で提案されるというわけです。

新しいゲームを求める、ということは「副次的な要素:探究」などのスコアが高いゲーマーに限られるような気もしますが、それにしても自分のプレイに対する動機付けを元にゲームを選べるというのは役に立ちそうです。

2、ボードゲームデザイナーとして

ボードゲームを供給する側=作ったり、販売したりする側にはどういったメリットが考えられるでしょうか。
それは、制作にあたっての視点を提供することです。

ボードゲームを制作していく際には、複数の視点からゲーム制作を行っていきます。「メカニクス」から作っていく、「フレーバー/テーマ」から作っていくなど、その作り方は様々ではありますが、その視点の1つに「プレイヤーの体験」からというものがあります。
ボードゲームを通してプレイヤーがどんな体験をするのか?もっと言えば、どんなプレイヤーに向けたゲームを作るのか?といったところからゲームをデザインしていこうとする場合、このBoard Game Motivation Profileを有効活用できそうです。

まずは、4つの中心的な要素をどのようなバランスでゲームに盛り込むのか?副次的な要素としてどこに特徴のあるゲームを作るのか?といったことを考えていくことができそうです。
とはいえ、これがこのままゲームのメカニクスそのものと繋がっているというわけではありません。
以前のnoteでも書きましたが、プレイヤーのボードゲームへの動機付けを把握した上で、メカニクスやダイナミクス、ひいてはゲームのテーマなどと結びつけることができれば、より”面白い”ゲームをデザインできるかもしれません。(しかし、それだけでは面白いゲームを作ることは難しい…)

3、研究者として

さて、そもそもYeeらがどうしてこのBoard Game Motivation Profileを開発したかというと、様々なボードゲームプレイヤーのデータを集め、様々な分析を試みるためでもあります。
人口統計学的なアンケートや、普段のボードゲームプレイにまつわる行動などと合わせて分析することを通して、面白い発見や、プレイヤー・デザイナーの双方に有用な研究ができる可能性があります。
ここでは、「The Primary Motivations of Board Gamers: 7 Takeaways」の中から、いくつかの分析の結果を紹介したいと思います。

①男女の誰かを打ちまかしたいという動機付けを一位にする割合は同じ!
ボードゲーマーの動機付けの中心的な要素の1つである、コンフリクトという動機付けを最も高い動機付けとしている割合は、男女では実にその差が約3.5倍ほどもあります。
ところが、副次的な要素:勝つことの重要性を最も高い動機付けとしてスコアリングした割合は、男性で13%、女性で12%と非常に近い値を示しています。
女性は他のいくつかの動機を重要であると考えていますが、ことNeed to Winの割合を見てみると非常に似通っているのです。
(他プレイヤーのお尻にキックしたいと思う男女の割合は同じ!(原文まま))

https://quanticfoundry.com/2017/04/27/board-gaming-motivations/より引用

②ボードゲームのプレイに対する動機付けに対しては、年齢よりも性別の与える影響が3倍以上ある!
Yeeらは、通常のデジタルゲームでは、性差の効果量が年齢の効果量と比較すると、年齢の方がプレイヤーの分散を2倍以上説明することを知っていました。
しばしば、性差の効果量の方が大きく影響を与えがちであると考えられるデジタルゲームでは、実際は年齢の効果量が大きいということを知っていたのです。

そこで、ボードゲームではどうか、ということを調べてみたというわけです。すると、デジタルゲームと逆のパターンが見えてきました。
ボードゲームに対する動機付けについて、年齢と性差の効果量を比較したところ、性差は年齢の3倍以上、プレイヤーの動機付けの分散を説明することがわかったのです。
これは、若いボードゲーマーと年配のボードゲーマーの違いは、男性と女性のボードゲーマーの違いに比べて相対的に小さいということを示しています。


上記のような、データ分析による発見は、ボードゲーマーコミュニティに対して新鮮な驚きや、洞察を促すきっかけを与えてくれます。
研究者として、Board Game Motivation Profileに提出されたデータを取り扱うことができれば、さらに面白い視点から発見を行える可能性があると期待されます。


終わりに

各ブログ記事のフォーラムでは、Board Game Motivation Profileを開発したYeeと質問者が活発に議論を交わしています。
その中のやりとりの1つに、「ボードゲーマー」をどこから「ボードゲーマー」とするかについての議論がありました。
このBoard Game Motivation Profileは、あくまである一定の頻度でボードゲームを遊ぶプレイヤー(それでも、デジタルゲームのプレイヤーに比べれば「頻度」という点ではかなり緩めに設定されているようです)に向けて開発されたものであることは間違いありません。そのため、これまでボードゲームを遊んでいない人のニーズを掘り起こすことに関しては、無為なものになってしまうことは仕方のないことです。

とはいえ、このような共通言語がボードゲームをプレイする人、あるいはボードゲームを作る人の間で使われるようになることで、さまざまな誤解や問題を解いていく道筋が見えてくるかもしれません。
ボードゲーム界隈は、「初心者/初級者/上級者」問題をはじめ、「インスト」問題、「エンジョイ勢/競技勢」問題などゲームとゲームに関わるプレイヤーにまつわる話題が浮かんでは消えて、再度浮かぶということを繰り返しています。
ボードゲームのプレイヤー理解の一手として、Board Game Motivation Profileが普及し、浸透していけば良いなあと思います。

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