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私がサカナだったころ

頭の中はいつも想像の世界で出来ていた
俺はサカナで広い海の中を掛け泳ぐ
時には青い空を泳ぎ
そしてある時は森の中を泳いだ
昨日は海の中を自由に泳いだなー

 退屈な話を聞いている時
現実から離れたい時
俺はどこでだってサカナになって泳いでいた

 俺のクラスの学級委員長は、真面目でどんな時もクールで皆から頼られている。
そんな委員長を羨ましくも思い、ふわふわ生きている俺とは別の世界の人間だと思っていた。
ある時俺は担任に呼ばれた。
毎回白紙で出す進路希望調査に担任のほうが困り果てていたからだ。
夢はないのか、やりたいことはないのか。
あれば書くのだけれど特に何もない。だから書かないのだ。
なんとなく生きて何となく入った高校で今をかろうじて生きている俺にやりたいことなどはない。
あまりにも進まない話に嫌気がさして
「サカナになりたい」
って言ったら、担任呆れてた。
なんとか解放された俺は一人図書館へ向かう。

ここはいつだって静かで誰にも邪魔されない。
一番奥の窓際は特等席。
窓から入る柔らかい風が頬を撫でる。
水族館の写真を見るのが好きでいつも同じ本を何度も見てきた。
今も眺めている。魚たちが泳ぐ本をぼんやりと眺める。
そこに学級委員長がやってきた。
俺の前に座るなりため息をつく。
これは担任が委員長から俺に話をしてやれと言われたのか。
少し困った顔をしている委員長がゆっくり瞬きをしてまっすぐ俺の目を見る

「私がサカナだったころ」委員長が言った。
頭の中はハテナばかりの俺をおいて話し続ける。
「色鮮やかな仲間たちと太陽の光を吸収したような海の中でのんびり泳いでいた。サンゴに挨拶したり、カニとじゃんけんしたり。自由で美しくて離れたくない世界だった。」
昨日の俺の頭の中を見られたのかと思う話に息をのむ
「その日は亀と泳いでいた、光を反射した海の中はキラキラと輝き亀の甲羅は神秘的に映った。だが突然視界が暗くなった。空を見上げると、巨大な影が海の上にかかっていた。それは、船だ。魚を捕まえるための網が海に投げ込まれ、仲間たちを次々と捕らえていった。亀も網に引っかかってしまった。亀を助けようとしたが私も網に引っかかってしまい、私たちは船に引き上げられた。恐怖に震え死を覚悟した。」
一通り話した委員長はまたゆっくりと瞬きをして
「それが、私がサカナだったころの最後の記憶だ」と言った 
学級委員長が真顔で言うものだから笑わずにはいられなかった。

クールな委員長が続ける
「サカナも大変ってことだ」
俺がサカナになりたいなんて言うから彼なりのアドバイスなのだろうか。
冗談なのか、例え話しなのかわからなかったけど
「サカナはやめときますw」とだけ答えた。 

「委員長は何になるの?警察官?官僚とかだったりして?!」
「パン屋さんになりたい。サカナやカニとかのパンを作って子供たちが喜んでくれるようなパン屋さんになりたい」
 委員長の意外な返答に戸惑った成績もよくて運動もできる委員長はてっきり、お堅い仕事に就くんだと思っていたから。
俺は少し考えて
「水族館で働きたい!たくさんのサカナと一緒に、誰かを元気にできるように。そしたらさ、委員長が作ったパンを並べて名物にしよ」
いつも無表情な委員長の口角が上がって
「すげぇ楽しそうじゃん」って笑ってくれた
夢なんてなくて、ただ退屈な日々をどう過ごすのかを考えていた
自分の意見を言うこともなく、ただ穏やかに日々を過ごせればいいって。

 だけどこの日委員長の突拍子のない話しで俺はやりたいことが見つかった
いつもは想像した世界で生きていた俺が、リアルを生きる瞬間。
俺はサカナとして生きるのではなく、サカナと生きる人生を見つけた。


解説

はじめに

この物語をつくるきっかけは
「サカナになりたい」という言葉が浮かんだからです

猫になりたい人
くらげになりたい人

いつものように私の頭の中はお花畑で、脳内でいろんなことを考えては消えてを繰り返します

その中で、〇〇になりたい人シリーズを試していた時
サカナはないな・・・
という結果に至りました

ただ、ふわふわした子が
「サカナになりたい」って言ってきたら
アホっぽいけど可愛いなって(笑)

もしも魚になったらどうなるだろう

想像の中なので、エラ呼吸とかはおいといて
どこでも泳げるんだろうな

それは授業中に見上げる空の上
または暑い夏のプールの中
小腹が減ってコンビニへ行った帰りの夜空の中
犬の散歩中の森の中

どこでも泳ぐことができるなと思いました

主人公

そこで考えたのは
ふわふわした男子高校生です
進路について悩む高校3年生の春
だいたいの人は進路はきまっているのでしょう

そんな中素行が悪いわけではないけど進路希望を出せない彼は
生きることの楽しみがない
だからなんとなく選んだ高校を時間が流れるままただ生きている状態。
子供ではないし、かといって大人でもない難しい時期ですね。
周りは進路が決まりそれに向けて頑張っているのに、彼は気力がないのでふわふわ生きてます

委員長の存在

そこで登場するのがクラスの委員長
高校3年目にして初めて同じクラスになった委員長とは話したことはあまりありません。
勉強もスポーツもできて、クールなうえに頼られる存在
真逆の存在です
だから交わることもないし共通点もない
嫌っているのではなくて
関わることがない存在でした。

きっと委員長は生徒会もしちゃうようなできる男ですねw
陸上部のやり投げとかしててほしい(笑)

そんなにさせちゃうと身が持たないので委員長像は想像の中で終わらせます。

丸投げ

担任は30歳くらいの細身のメガネでお願いします( *´艸`)
効率重視なドライな先生。
一応担任なので親身に世話を焼きますが埒が明かないとおもい委員長に任せます
「後は任せた」的な

委員長は彼を探す間、何を考えていたのでしょうか
担任がそんなことまで委員長に任せていいのか
まだ白紙で進路希望を出す人がいるんだな
サカナになりたいことについての考察

説得?!


委員長が座ってすぐ出るため息さえも
パフォーマンスなのか自然と出たのか?!

第一声は「わたしがサカナだったころ」
説教をされるのか、アドバイスをくれるのか
うまくやれよと助言されるのか
何を言われるんだろうと思っていた彼への第一声がこれですw
きょとんとしますよね
何を言っているんだろうと理解が追い付かないです
ここで少し、委員長への偏見が崩れてくるのです。いい意味で。

委員長の変な話のおかげで、あまり話したことがない相手へ気軽に声をかけることが出来ました。
それも委員長の計算なのか?!

うまく誘導される

自分の想像の世界のことを口に出していたのか態度に出ていたのか
なんで知っているんだという恐怖に似た感情と
同じようなことを考えている人がいるんだという嬉しさと
でも相手は委員長なんだよなという複雑な思いで話を聞きます

あの真面目な委員長がらしくない話しをするけど
ちょっと安心する彼もいます

委員長はパン屋さんになりたいと言いますが
これも本心なのか、彼の為のやさしい嘘なのか
定かではありません

こういえば、きっとこう言ってくるだろうという推測というよりも
委員長の進路は周りも認めるしっかりしたものかもしれません
だけど、小さい頃はパン屋さんに憧れていたのかもしれませんね。

決して進路にはできないけれど、願望はそうだったかも。
結果、うまいこと彼を乗せることができました
彼を乗せるための手段の一つだったのかもですが、一人の男子高校生をやる気に満ちさせたことは事実!!

一つの歯車

誰かの一言や
何気ない会話
急に行きたくなった場所
街で見かけた通りすがった人

なんでもない人や物も実は自分の人生に大きくかかわることってありますよね

キレイな人が靴のかかとを踏んでいたり
がさつそうな男子が物を大切に扱っていたり
客観的に見て私はこうしようとか、あの行動素敵だからマネしたいとか。

そんな小さなことから
動物の死から獣医師を目指す人
レトロな空間が好きで喫茶店を開いたり

きっかけはどこにでもあって
それとどう向き合えるのか
どう感じ取れるのか

一つ歯車がかみ合うと
不思議と良い連鎖が起きたりして^^

どこでどうつながっているのかわからないからこそ
人にはいろんなところにやる気スイッチがあるんだと思います

そこにあることにちゃんと目を向けると
あなたの生活も少し違った視点になるかもしれない
ってね。

そういうお話でした^^

最後に

私はハンドメイドアクセサリー作家です
物語×アクセサリーをつなげて
見ても
飾っても
身に着けても
楽しめるものを制作しています

天然石になぞって作るのですが
今回は、クリソコラという鮮やかな青緑色の石をイメージしています
私には、亀の甲羅や太陽の光が反射した美しい海のように見えました

制作できましたらご報告したいと思います^^
絶対可愛いはず( *´艸`)

3500文字を超える長文を最後まで読んだあなた
心から感謝申し上げます

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