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孤独の勇者:第1章 孤独な狼ルーク

『僕がもしうさぎなら、みんなはもっと優しくなるかな』
 
孤独な狼、ルーク。彼は森の中で他の動物たちに罵られ、友達がいなかった
「ただ友達が欲しかったんだ」
孤独な狼ルークの奇跡と友情の物語り
 
***

第1章:孤独な狼ルーク

「や、や、やぁ、うさぎさん。一緒に遊ばない?」
勇気を振り絞り、どもりながらも話しかけるルークは、友達になりたくて声をかけた。気分が高揚し、目がらんらんとしている。いつも遠目からうさぎたちを見ていた。いつだって楽しそうに森を翔け、わいわいしている中にずっと入りたいと思っていた。期待と希望にあふれる美しい瞳に、森の澄んだ空気が夕日に反射してオレンジ色の粒子がキラキラ見えた。
「卑しい狼!とっとと帰りな!」
さっきまで楽しそうに話していたうさぎたちは、狼の姿を見るや否や乱暴な言葉でルークを傷つけた。母ウサギの怒りの言葉と狼の姿を見ようと、騒ぎを聞いた動物たちが集まってきた。突然の言葉に動けないでいたルークに、母ウサギは石を投げつけた。母ウサギと変わらない大きさの子供の狼でさえも、ウサギの力なんて非力だなと感じるほどの弱い力で。動物とあまり接したことがないルークでも、嫌われていることは理解できた。ただ、なぜ自分だけが怖い言葉とともに石を投げつけられるのか、その意味はわからなかった。勇気を出して話しかけたけど、彼の期待を裏切る返事と、哀れな目で見てくるウサギの赤い目が脳裏に焼き付いた。全く動かないルークを見て、キツネや鹿やリスたちが冷めた目で見てあざ笑っている。ルークは恥ずかしさと悔しさでひどく傷つき、心には深い傷が刻まれた。

「僕が何したっていうんだ!」と心の中で叫んでみたものの、自慢の真っ白でふわふわのしっぽは、完全に敗北宣言をしていた。恐怖から逃げる為、目に溜まった涙を見られないように走って逃げた。帰る家も家族もいないルークは、ただひたすら森の中を走り抜けた。どこまでも澄んだ空気が彼の喉と涙を乾かしていく。どれだけ走っただろうか、夕日は沈み不気味なほど暗い夜空のした、誰もいない丘の上で月を見上げ泣いた。泣き方すらわからないルークは声にもならないかすかな声をあげるが、その声は誰にも届かず夜の闇へと滲んでいった。親のぬくもりを思い出すように、木陰に落ち葉を集めてその上に体を丸め、遠い日のことを夢見る。

***

「ルーク、こっちへおいで」軽やかなステップを踏んでルークを誘い出す。
「母ちゃん!」
「ルーク、上手じゃないか」ルークの頭を大きくてあったかい手が優しくなでてくれる。
「父ちゃん!」
すごく柔らかくて太陽のにおいがした。
「お前は強い子だ、だからこそ優しくなくちゃいけないよ」優しく微笑むその瞳の美しい光が、心を穏やかにした。「強いだけじゃダメなの?」ルークが聞き返すと、「強いだけでは誰も守れないんだぞ」そう言って後ろを振り返った。その背中はとてつもなく大きくて頼りたくなる、あたたかな光を感じた。視線の先には家族や兄弟たちがこちらを見つめている姿があった。リーダーだと認めているその熱い視線は、信頼の証のようでそれをリークは誇らしく感じた。そしてその背中は走り出し、ルークは慌てて声を上げた。
「母ちゃん!父ちゃん!」目が覚めたルークの前には、大きな月が微笑み敷き詰めた落ち葉が音を鳴らした。美しい光景を誰とも共有することができないことと、夢から覚めてしまったことへ盛大なため息をついた。それは寂しさ残る夢だった。
「ねぇお月さま。僕は一体何をやったっていうんだ?僕はただ友達になりたいだけだったのに」傷ついた心に蓋をするように身を丸めた。
『僕がもしうさぎなら、みんなはもっと優しくなるかな』
ルークの心の叫びは再度深い眠りへと消えていった。

***

疲れて眠っていたルークは、がしっと何かに体をつかまれた。ルークはまだ夢の中にいるようにふわふわしていたが、「痛い」横腹の痛みで目が覚めた。ルークは鷲の鋭い爪に体をつかまれて空を飛んでいた。手足をばたつかせるが余計に爪が体に食い込んでくる。到底敵わないと悟ったルークは鷲に話しかけた。「僕をどうする気だ!僕は強いんだぞ」精一杯の虚勢を張る。鷲は「うるさいガキだね、まったく」と呆れていたが、鷲はそんなルークを誰かと重ねるように優しく笑っていた。鷲の羽はとても大きく、翼を広げると2メートルにもなる。頭と尾が白く鋭いくちばしと大きな羽は空の王者にふさわしい。鷲は上空で止まりそのまま一直線に羽を動かすこともなく地上へ猛スピードで降りていく。ルークを足でつかんでいるので嘴で遡上する鮭を捕まえる。そのまま川の近くの高い木の上にルークを落とし、すぐそばの枝につかまった。お前も食べるかと鷲がルークに振りかえると、ルークも小ぶりだがいきのいい鮭を咥えていた。「やるじゃないか、小僧」鷲は大きな翼で頭を撫でてやった。ルークは大きな瞳をキラキラさせながら「えへへ」と笑っている。
「小僧、名前は?」
「僕はルーク」太陽の光が後光のようにルークを輝かせていた。
「ルーク・・・光か、、、いい名だね」
「おじさんの名前は?」
「ウィンダム、ウィンって呼んでくれ」また大きな翼を広げて見せた。
「ウィンおじさん!」
「おじさんは余計だろ」
野うさぎくらいの大きさのルークはまだまだ子供だった。
「昨日は大変だったみたいだな、なんでやり返さなかったんだ?狼は強いんだろ?」
さっきまで輝いていたルークの目から色が抜け、そのままうつむいた。
「僕は強いから、だから優しくしなくちゃいけないんだ」こぼれ落ちそうなくらい溜めた大粒の涙を流さないように目を見開くルーク。ウィンは空を見上げた。
「お前の父さんは群れを率いる立派なリーダーだったよ。お前はよく似ている。」
「父さんのこと知ってるの?」
ウィンは翼を広げ力強く地上をけり飛び立つ。
「勇敢で優しい狼だったよ」そう言いながら空高くへ飛んで行った。
「ウィン!また会えるよね」
「また会えるさ」ウィンは空高くへ消えていった。
ルークは小さくなるウィンを眺める。僕は孤独じゃないんだと思うと勇気がわいた。
「だって、僕は父さんの子供だからね」まん丸の目から涙は消えていた。



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