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孤独の勇者:第6章 生ける屍
第6章:生ける屍
ルークの遠吠えは森を超えどこまでも響き渡り、そこにいるもの全てに緊迫感が走った。狼の遠吠えに反応した狩人たちが丘の上を見上げる。そこにはクマかと思うほどの大きさで凛と佇む一匹の狼が、月明かりに照らされ威圧感と圧倒的存在感を放っていた。とても美しく鍛え上げられた若い筋肉に、月光が毛を白銀に光らせている。光を宿したルークの瞳は、確実に狩人を捉えていた。「まさか狼がまだいたとはな。それにしても、こんな大物見たことがないな」狩人はワクワクしていた。冷や汗と興奮で息は荒くなり、目は冴えわたっている。いつでも仕留めてやると言わんばかりに、上空に向けて花火のように銃を一発撃った。
その音を合図にルークはアリアンの元へ走り出した。狩人の位置を目視した時、近くにアリアンを見つけたからだ。狩人と一緒に行動している『狼』と似たような奴らも近くにいるのだろうが、気配を消していて見つけられなかった。アリアンのそばまで行くと、なぜアリアンが狙われたのか理由が分かった。キツネの中で、唯一真っ白な毛をしていたのだ。いつも自分で泥んこをつけては親に飽きられていたのは、色を隠し強がっていたからだったのか、と腑に落ちたルークは全速力で走った。きっとまた家族とケンカして群れとはぐれて居たんだろう。あと少しでアリアンの元だというところで、横から大きな何かが突進してきた。奴らだとわかるのに時間はかからなかった。異様な匂いはこいつらだ。ルークにそっくりな形の動物だ、だが狼ではないことは分かる。「話しが通じそうにない奴らだ」
一定の距離を空け、互いに視線をはずさない。2匹いや反対の木の裏にもう一匹隠れている。バン。また冷たい音が響く、近くにいるせいか焦げた匂いと耳をつんざく音が五感を狂わす。ここを通らないとアリアンまでたどり着けない。焦るルークをあざ笑うかのように奴らが間合いを詰めてくる。3対1では分が悪い、ルークは慎重に動く。奴らを木の影から出させるために、1センチずつ本当に少しずつ。その時、奴らが話しかけてきた。
「お前は狼か、絶滅してなかったのかよ」リーダーらしき存在が話しかける。自分はここに存在しているのに絶滅と言われ、ルークには意味が分からなかった、「お前らは何なんだ、狼ではないな」にらみ合いが続く。
「俺たちは、犬様だ!血統書付きのな!」そう言って前足を思いっきり踏み出し二匹が同時に突進してくる。挟まれた、後ろへかわそうとするが間に合わない。その時、上空から時速150㌔はあろう速さで鷲のウィンが急降下し、鋭い爪とくちばしで犬をけん制する。ウィンが一度上空に上がるときには、サガが集めていた木の実を仲間たちと一斉に落とす。犬たちは少し怯むがすぐに体勢を立て直した。その隙にルークはアリアンの元へ行く。アリアンの怯え切った顔にルークは優しく手を差し伸べた。
「僕は君を助けに来たよ、お姫様」
アリアンのこらえていた涙が滝のように溢れた。
「遅いよ」
「ごめんね、手間取っちゃった」サガが静かにルークのそばに降り立ち、「サガ、お願い」と頼むと、サガは「任せな」と言い、アリアンを掴んで夜の深い森へと音を立てずに消えていった。
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***
狩人が犬笛を吹くと、犬たちは狩人を囲むように陣形を作る。教育の行き届いた犬たちは、狩人を信頼しているようだ。狩人はおもむろに袋から何かを出して、それを被った。月が雲に隠れてよく見えない。ゆっくりと風が東から西へ向きを変え冷えた空気が流れていき、狩人の姿が少しずつ見えてくる。ルークはその姿を見て声を出すことすらできなかった。狩人が被っているのは、紛れもない父の姿だった。
「父、、さん、、、」精一杯の声で呼びかけるが、それはもう死んでいた。ルークの怒りは頂点へと達した。
「アウォォォォォォォォォォォォォォォン」
先ほどとは比べ物にならないほどの怒りと悲しみの混ざった遠吠えが森を震撼させ、ウィンもサガも誰もがただ事ではないことを察した。狩人はこれほどまで人生にしびれたことがないと、銃を持つ手が汗と震えで音を立てた。
ルークの瞳から光は消え、歪なオーラを感じる。犬たちも退きそうになるほどの威圧感が辺りを占めていた。殺気漂う中、狩人の後方から何者かが襲ってくる。たった一撃で後方の犬は飛ばされ、休むことなく巨体が鋭い爪を振り落とす。狩人は咄嗟に右にいた犬の首根っこを掴み犬を使って自分の身を守った。犬の悲鳴が空気に取り残されたように響き、それは奴らの中の何かが壊れる音に聞こえた。大きな傷を負い唸っている犬を見ることもなく、狩人は興奮を抑えられない様子で、その目はルークから巨体へと移された。すかさずサガがルークに伝える「そいつはクマのカズヴァルドだ。機嫌が悪いと暴走するぞ。」冬眠から目覚めたばかりの機嫌の悪いクマのカズヴァルドが狩人の目の前に立ちはだかり、制裁を加えようとしている。銃を構える狩人にルークが噛みつく。残った一匹の犬がそれを阻止しようとルークに飛びつく。だがその目は死んだ魚のように色を成すことなく、生ける屍のようだった。修羅場と化した森の中で、ルークはなんとか精気を取り戻す。そこへ上空からウィンが声を放った
「ルーク!狩人がもう一人いるぞ!」
***
遅かった、ウィンの声が届くと同時に奥に潜んでいた狩人が銃を放った。銃口から飛び出す弾の反動が狩人を後ろへ押し倒す。弾は激しく乱闘する犬の頭上をかすめていった。「どこを狙ってやがる!へたくそ目が!」狩人は銃を持った腕を曲げ、ルークに肘を振り落とす。死んでも放さまいと顎に力を入れる、犬も死に物狂いで何度も噛みつく。だが、ルークの目に映った犬の涙を見て一度後ろの木陰まで下がった。「泣いている?」犬に精気はなかった。そんな様子にも容赦なく、カズヴァルドは狩人に爪を振り落とそうとする、怒りの鉄拳を叩きこまないと気が済まないらしい。狩人はまたも犬を掴み道具のように防御に使う。ルークは叫んだ「カズヴァルド!こっちだ!」ご機嫌ななめの巨大なクマを手なずけるほどの心得を持っていないルークは、初めましての挨拶もなく、カズヴァルドの興味を移すことしかできなかった。こうなったクマはだれにも止められない。クマほど大きいと称えられるほどの大きさに成長した大人のルークとて、この体格差では勝てる見込みはゼロに等しい。それに狩人をほっておくわけにもいかない状況に頭を悩ませた。突進してくるカズヴァルドを俊敏な動きで翻弄するが、全くもって無意味だった。大きく振りかぶった手には鋭い爪が月光で照らされ、よっぽど凶悪に見えた。
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