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玉章
始発
明け方に枕木叩くこまぎれの
灯りをのせて汽車は過ぎゆき
川霧
すべての牛を黒くする夜があれば
すべての山を白くする朝霧もあり
太陽は白くうかび
三日月
お月さまの斜めうしろに吾はたてり 美しき三日月西の空に浮かべば
蚊
10月末曇り変わらぬ日過ぎ
猫抱けば腹ぬくき蚊叩く音ひびき
籾摺り
鼠らに籾摺りの技術学びたくもなり 袋のわきに積まれた籾殻みえれば
シリウス
寅の刻イヌに呼ばれて外にでれば
オリオンとわたしを照らす星またたき
栗
転がれば真上の空に虹がみえ
よろしきことのしるしたまにあり
sdgs
肥汲みの匂いせぬ思想の蔦が
人のおらぬ家を覆っており
哲学
生きる意味の答はいらぬ
生きていてもいいと言ってほしい
幾千の存在論を゙聞くよりも
存在していることをゆるしてほしい
灸
ゲンキカとカワラヌカと背中の友に熱を打つ 雨もりの家で灸などしており
日傘
ガソリン少なく徒歩にて山をのぼる これは夏でも晩夏でもない新しい季節 皮膚がいたい
盆
ワイパーとめれば 満天の雫夕刻の空にうかび
むかえる火たけば 雨とどくも
銃弾
狙われぬ弾にたおれる人は多い
たおれぬ人にもたおれた人にも神の加護はあり
あきつ
あきつ等は道が恋しか川ぞとおもふか 梅雨の子群れにペダル漕ぎ
瀬音
いく筋もの瀬音いだく山横たわり
そのぬれた道をのぼる血潮よ
ランチ
雨もりのとなりで玉葱と卵いためおる
ざあざあの音窓のそとにきこえ
I Want You she is so heavy
カデンツァ(終止形)のない歌はとめられない なぜならI Want Youに終わりはないから
学校統廃合
ひとりの子に多くの教員を配置するのはおかしいと言う人あり その子多くの老人を負う人になるものを
みみず
道端のミミズ雫のごとくすすめり
蛇行せず
イトトンボ
ひとすじの細きはらなかに
いつわりも後悔もなく
イトトンボ 今 とまり
希望
展望がなくとも 希望はある
計画が立てられなくとも からだを起こすことはできる
やりたいことがわからなくとも
できることはある
白雲
あおそらは山々に割られて余りの雲
白くみゆ
役牛
アラビア産の草くう牛をおしており
従順ならず
咳
ゴっゴっと海鎮まらずしぶき肺を越えゆき
正午
風にゆれる木かげの真中に幹あれば 背をあずけて目を閉じ正午に
鍬
どううごかすかは柄の角度が教えてくれる 母の身の丈に曲がりた鍬もち草けずれば
真夜中
眠れぬ夜ベートーヴェンのピアノソナタ聴く
風邪をひいたまま椅子にすわって
雨
雨粒が壁をたたく
外へ出ろと
夜がお前を呼んでいると
泥濘にたてと
雨粒が壁をたたいている
殻
ツバクロの子等の白殻土間に墜ち
見上ぐる天界は土の要塞
蛙
曇る空に
車道の側溝の暗渠の
暗い天窓からきこえるのは
翠色した雨の歌
わたし
きょうを狂と ひを非と変換する朝は
わたしという語を愚者と変換するだろう
岐路の前で
最後の審判
未来という空地捨てられず 賞味期限きれた豆玉ポケットに入れており
賞味期限という時を地中の種子はもたぬ
だから
地中の種子は絶望しない
ただ忘れて とどまる
空地を空地のままにして
燕
おかえりとくり返しさけぶ
古巣みゆるか大きな燕土間の上を飛び
星
アマガミの痕を残して逝った
きみの薔薇色の星は
まだ
ぼくの指の上でまたたいているよ
雹
雲のなげたツブテトラックの天板でうける 暗い空の街へ突入する夕暮
シーシュポスの神話
シーシュポスという名のジムから出てくる男女等は不条理というものの英雄なのか カミュよ
此岸
片方のつばさ此岸に残した熊蝉の亡骸をひろう 夏が来ぬまえに
希望
昨日の希望がふくらませたのか
そのままに轆轤のうえに壺残っておるを見
左手
生きるものは陽にそまらぬ 冷たきものに触れたくて君の左手この手で包むを夢みる
ルシフェル
暴力をもたぬものに正義などないなら
暴力などもたぬルシフェルになる
私は
自転車
春風に反発する音きこゆ 一対の耳朶ペダルのうえの空を飛び
ムラサキシジミ
片方のはね氷にはりつくシジミに
息吹きかければ青紫の色ひろげてくる
壺の縁
はね
羽がとまれるように
たちあがり うでをひろげ
羽が飛び立つように
峻厳な崖になる
旗振り
ベルトつけ変身をせずたちつづく
進み方知らぬ怪人の車赤い旗で止めて
裸木
夕映のいろ 群れて枝にとまっておる
夜に還るそのまえに
分枝する角度の総和をもとめている
この裸木の大きさ君に告げるため
カラス
クァるる クァるる クァるる
クゥワア クゥワア クゥワア クゥワア くり返すその数には カラスなりに意味があるのかも知れぬと思いたつ朝 メシアンがラジオから流れる
うぐいす
うつくしい吃音で啼くうぐいすの音きこえ朝のみちゆき
星
明るき星ひとつと併走する 車をおりて見上げれば満天の星
命日の空にあり
裸木
葉を落としたくぬぎは
冬のそらを
霞んだ蒼い山を
他なる木の細いうれを
まとう
裸木は季節の色から自由で
それ自身にたいして透明である
バケツ
冬の陽頭皮をてらす温かく バケツの洗い方思いだし外側から洗う
クライ
崖をのぼってゆくなら 採りつくし食い残さず採り残し完食する 高所が怖くて震えている
クレイ
先客ありぬるぬるの土猪にも気持ち良きかそれとも喰うのか 猪の跡辿りて土を採る
松皮刀
真夜中にひとり松皮刀(はがたな)削って
おる 刃をもてばあすはなにか出来るかもしれぬと想いて
怪我
右手で道具持てば左手傷つく
頭に道具持たばからだ傷つき
包装
商品といふ蛹運んでものつくれば人工の殻と履歴しかうまれぬ
虫もくわぬものならべており
畑
草を抱く泥の抵抗を感じておるザグザグと音たててぬけておれば
爪の縁黒く染む
梅
まぶしくて前がみえぬ 窓のそとの西日片手でさえぎる
梅の花さく真冬午後
十字路
さあ 命が欲しけりゃ金をさしだせ
という声は暗闇から
さあ 金が欲しけりゃ命をさしだせ
という声は物陰もない明るみから
ささやかれる
氷
ひとはりの夜をとりだす 冷たく透けて亀裂うかぶも罪なき