佐賀かおり

kindleで全く本が売れず、幸か不幸か、舞い戻って参りました。トホホ・・

佐賀かおり

kindleで全く本が売れず、幸か不幸か、舞い戻って参りました。トホホ・・

最近の記事

短編小説 失われた文化ミュージアム

 西暦2536年、失われた文化ミュージアムでは月例会議が始まろうとしていた。  来月、ミュージアムの広場で行う催し物を決めなければいけない大事な会議だった。  四人の研究員と主任は会議室のイスに座りながら談話していた。 研究員B「来月の催し物は何に決まりますかね。」 研究員Ⅾ「私としてはゲートボールあたりがお勧めなんですが・・」 主任「しかし文献によるとあれは昔、お年寄りの娯楽として広まっていたようだ。復活させて果たして若者にも受け入れられるだろうか」 研究員A「そこが難し

    • 短編小説 後妻業の女

       三十畳はあるリビングに置かれたソファーに身を沈めながら倉林孝は真向いに座っている義理の母を睨みつけていた。  五十半ばの孝の頭にはチラホラ白い物が目立っている。普段ならば行きつけの美容室で染めてそのような姿を人目にさらす事はないのだが、このあわただしい三週間がそうさせたのである。  三週間前、父が倒れた。  脳梗塞で病院に運ばれた時にすでに意識はなく結局、翌日に亡くなるまで意識が戻る事はなかった。  父、倉林昌夫は街の小さい弁当屋を一代で店舗数五十のチェーン店にしたやり

      • 短編小説 『勉強なんて大嫌い』

         マコはアホだ。  彼女の家は父が中古車販売会社を手広く営んでいて裕福だった。  母は有名私立大学の付属幼稚園にマコを入れようとして幼児教室に通ったがクラス一のアホだったマコはことごとく受験に失敗して、普通の幼稚園、公立の小学校に進んだ。  彼女は小学校低学年の頃はまだ授業を理解出来た。  でも徐々にわからなくなって成績表は二と一だらけになった。ちなみに二がついたのは体育と音楽で他は全て一なので実質オール一のようなものだ。  母はマコのバツだらけのテストの答案用紙を見ると

        • 横崎警察署事件簿⑥おわり

          「白石さん、怖くないですか? 例の噂」  脇田刑事は警察署のデスクで言った。 「例の噂?」 「だから地下の資料室に幽霊が出るって噂ですよ」 「脇田、そんなのホラ話だ、信じるな」 「でも火のない所に煙はたたない、って言うじゃないですか。ひょっとすると・・」 「・・」 「どうしたんですか? 白石さん」 「煙か・・そう言えば前に脇田からその噂を聞いた時にちょうど沢口が禁煙を始めていたな」 「確かにそうでした」 「うーん」  白石刑事はこめかみをグリグリ親指で押しながら考え始めた。

          横崎警察署事件簿⑤かけがえのないもの

          「あーあ、もう三十六か」美佐江はケーキを頬張りながらぼやいた。 「ほんと、四捨五入すると四十よ。それなのに未だに二人でバースデーケーキ食べてるなんてね」典江は肩をすくめながら言った。 「ノリちゃんはいいわよ。手に職をつけて自分のお店を持って一国一城の主じゃない。それに比べてアタシは、しがない事務員よ」 「でもね、うまくいってればいいけど・・そうじゃないと大変なのよ」  美佐江は急に真顔になると「例の店のせいで大変なの?」と訊いた。 「うん」典江はワインが少しだけ残っているグラ

          横崎警察署事件簿⑤かけがえのないもの

          横崎警察署事件簿④長い坂

           横崎警察署の四階のデスクで脇田刑事は書類の作成に四苦八苦していた。  管轄内で二か月前から起きているバイクの窃盗事件の捜査で一日中、足を棒にして歩き通しだったのに署に戻ればデスク仕事である。  捜査は足で稼ぐ、というがこれほど聞き込みをしているのに犯人逮捕につながる重要な情報を得られないのは犯行の時間帯が深夜であるためだった。  更に中々抜け目のない犯人で防犯カメラのない民家やアパートに停められたバイクが被害にあっている事も捜査を難しくしていた。  そんなお疲れの脇田にと

          横崎警察署事件簿④長い坂

          横崎警察署事件簿③薄給の男

           横崎警察署の刑事課、一班のメンバーは白石、沢口、木戸、脇田の四名である。  捜査は主に一番年長で犯罪心理学を学んだ経験のある白石の主導の下、行われている。  その白石刑事が一目置く人物がいる。  交通課の長峰である。 『アイツの女の勘には太刀打ちできない』そう白石に言わしめる彼女は今日も朝から免許更新の受付窓口に座り黙々と仕事をこなす。  彼女は笑顔を絶やすことなく窓口に座り続ける。  その表情は優しげだが決して動く事がない。 『あの千里眼の女の笑顔ほど怖いものはない、

          横崎警察署事件簿③薄給の男

          横崎警察署事件簿②奪う女と奪われる女

          「ゆき、ゆきじゃない?」  ビル街で呼び止められたゆきは振り返ろうか、それとも気付かないふりをして立ち去ろうか、考えた。  声の主が誰であるかは分かっていた。  そしてその人物はゆきに考える時間を与えてはくれなかった。  足早に近づいて来て肩を軽く叩かれてはもう、気付かないふりは出来ない。 「真理」  振り返ると高校を卒業して以来八年ぶりに会う真理がいた。  圧倒的なその存在感に萎縮したゆきの笑顔は引きつれた。  中学二年の春休みに真理はマンションの隣の部屋に引っ越し

          横崎警察署事件簿②奪う女と奪われる女

          エッセイ『セカンドオピニオンが大切』

           セカンドオピニオンが大切  と言うとそんなのあたりまえの事と思われることでしょう。  でも私は身内に起きた一連の出来事でその重要性を痛感する事となりましたのでそれを記したいと思います。  コロナで緊急事態宣言が初めて出され街から人の姿は消えました。趣味が多く年がら年中、外出していた私の母もさすがにこの時は出歩く事を控えていました。  ようやく宣言が解除され彼女は喜び勇んで外出したのですが、どうも体の調子がすぐれない。  しばらく歩くと足がしびれて歩けない、仕方なく少し

          エッセイ『セカンドオピニオンが大切』

          横崎警察署事件簿①はじまり

          あらすじ  物語は横崎警察署管轄内で起きた事件とそれに関わった刑事達の奮闘を描く。 【奪う女と奪われる女】婚約中のゆきは八年ぶりに真理と再会する。真理は他人のものを奪う事が好きな女性だった・・ 【薄給の男】ラーメン店の社員、小坂の給料は雀の涙だ。最低時給に満たない事に腹を立て、売上金を盗む計画をたてるが・・ 【長い坂】脇田刑事は子供の頃に家を出たきり会う事の無かった母の死を知る。母は死ぬ間際、ウソをついていた。彼は隠された真相にせまる・・ 【かけがえのないもの】典江は経営する

          横崎警察署事件簿①はじまり

          ショートショート『その時』

           ドクン、ドクン、ドクン    真矢の鼓動がうるさいほどに大きく頭の中に響いてソファーで雑誌を見ていた佳代は思わず苦笑して独り言をもらした。 「こんなに大きい音は初めて・・もしかして・・プロポーズでもされたのかしら?」  三時間後。 「ただいま」真矢の明るい声と階段を駆け上がってくる足音が聞こえるとすぐに佳代の部屋のドアが勢いよく開いた。 「もう、ノックぐらいしてよ」 「聞いて、聞いて」 「ハイ、ハイ、分かってるわよ。和田さんにプロポーズされたんでしょ」 「え?なんで知っ

          ショートショート『その時』

          ショートショート 『夜空の朝顔』

           別に住む家を探していた訳じゃない、ましてや古い一軒家なんて。  だが何故か家の前を立ち去れないでいた。  もう何年も人が住んでいないのだろう、フェンスに貼られた『貸家』の張り紙は剥がれかかっている。  「その家が気になるのかい」  翔はいきなり話しかけられた。声の主は隣家の庭先にいた中年の女性だった、どうやら隣人のようだ。 「随分と古いようですね」 「築九十年だって・・その家を借りるつもりかい?」 「ウーン、どうしようかな」 「やめておいた方がいいよ。幽霊が出るんだから」

          ショートショート 『夜空の朝顔』

          【短編小説】 無かった事に

          「おっ、今朝はどっちかな?」父がおどけて訊く。 「だし巻きの方よ」文香は答えた。  父は卵料理が好きなので朝食には必ず厚焼き玉子か、だし巻き玉子、どちらかを出す事にしている。  今朝は魚の干物、ほうれん草の白和、だし巻き玉子、味噌汁に白飯である。  働いている文香にとって毎朝の食事作りが負担になっているのは確かだ。だが皆、忙しく夕食を一緒にとる事が難しいので、無理してでも朝はみんなで食卓を囲めるように努力している。 「このだし巻き玉子、美味いな」 「でも、まだまだお母さんの味

          【短編小説】 無かった事に

          ショートショート 『うちのタマコ』

            「拓郎、お前、明日バイトあるの?」放課後、親友の足立が訊いて来た。  横には女子の森下さんと古川さんがいる。 「明日はバイト、無いよ」 「じゃあ、市立図書館で皆で勉強しねぇ」 「ああ、いいよ」 「なら、九時な。九時に図書館前に集合」 「あー、俺、午前中は駄目だ。タマコを病院に連れて行くから」 「猫、どこか悪いの?」森下さんが訊いた。 「猫?ああ、タマコっていうのは猫じゃなくて俺のばあちゃん」 「あっ、ごめんなさい」 「いいよ、気にしなくて。それに実際、猫も飼ってるから」

          ショートショート 『うちのタマコ』

          ショートショート 『目立ちたがり屋』

           元子は学食でお昼をとりながら横に座っている葉子に言った。  「午後の講義、菜々子来るよね?」  「・・うん」  木曜日の午後の講義は菜々子と一緒だ。  「どんなに泣き付かれようと絶対にお金は貸さないようにしよう」  「うん」  食堂を出て歩いていると菜々子が目ざとく二人を見つけ走り寄って来た。  「元気?」  葉子はつい身構えて真一文字に口を結んだ。  講義が終わりキャンパスを出て最寄り駅に歩いていると菜々子が言った。  「ねぇ、お茶しよ」  「私達これから本屋に行く予定

          ショートショート 『目立ちたがり屋』

          ショートショート 『むしばむ』

          夜中、正明は寝苦しさに目を覚ました。 シーツは寝汗でぐっしょりと濡れている。 もう何日ちゃんと眠れていないだろう・・眠りたい・・眠りたい・・彼はまどろんだ。 そして三十分後にまた、目を覚ました。   手入れの行き届いた広い庭に面した部屋で真太郎は真琴の話に耳を傾けていた。  真太郎はお寺の住職の息子で霊感が強い。 そしてそれを活かして『占いの館 クリスタル』でアルバイトをしている。今日は仕事の依頼で来ていた。  地元で知られた宮代家のお屋敷とあって、上質な調度品に囲まれ

          ショートショート 『むしばむ』