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雪の日、友人の独特な乗り越え方【エッセイ】
前に大学の友人Tとラーメンを食べに行ったときのこと。
その日は大寒波が直撃しており、雪がはらはらと降っていた。
目当てのラーメン屋に着いたときには、すでに行列ができていたが我慢して並ぶことにした。
前に数組ほど並んでいたのだが、意外に進まず結局一時間ほど待つことになってしまった。
風も出てきて、僕たちは奥歯をガチガチ鳴らし身震いしていた。
ところが、並び始めて50分くらい経ったとき、Tの身体の震えが急に弱まった。
顔を見ると、スンとしていて解脱でもしたのかというくらい無の表情を浮かべている。
僕はどうしたのかと訝しげに様子を見ていたのだが、Tはおもむろにこう言った。
「ああ、寒かった。」
まだ前には何組かいて、恐らくあと15分は並ぶと思われる状況だったが、なぜかTは暖かい店内に入ったような感想を言うのだ。
あまりの寒さに彼は自ら一つの季節を完結させるに至ったようだ。
なんて強引な思考法だろう。
僕は人はあまりに寒いとこうなるのかと戦慄したが、Tの顔は穏やかさが増す一方だ。
彼の脳内はそろそろお花見シーズンにでも突入したかな。
僕にはまだ到達できない領域だったが、できそうな人はこの思考法を是非やってみて欲しい。
来週はまた大寒波が襲来するらしいので、乗り越えて本当の春を拝むのだ!
(終)