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御徒町エレジー第28話【珍満のやきそば】
Xで前回の投稿の告知をしたところ以下のコメントがついた。
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ヤリ手実業家
【ブラボー先生】
「珍満(ちんまん)」か…
その店を俺は知っている。
たまに仕事の帰りに行く「立ち飲み釧路」のほど近くにあり、居酒屋「釧路」の真ん前にある大人気の町中華。
休日は開店前から長蛇の列が出来るところだ。
しかもだ、続いてこのコメント。
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焼きそば…
中華麺を油で炒め、肉や野菜を絡めたものである。
俺が町中華で絶対頼まないヤツ。
改めて言うが俺は偏屈な男だ。
ご存知だろうか?
家系ラーメンのスープは信じられない程の手間とコストがかかる。
1,000円のラーメンなら300〜350円のコストに加え「酒井製麺」から麺を仕入れたら、その分更に50円は上乗せになるだろう。
それをただ中華鍋でサッと炒めただけの麺、というか「そば 」
そんなん比べるまでもない。
以上を踏まえて考えると、俺の焼きそばに対する評価は麺類の中でも限りなく低い。
だが、例外もあるにはある。
懇意にしている、埼玉県浦和市にある立ち飲み「ひとりあじ」
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ここの社長が作る「究極の焼きそば」
具材は刻んだニンニクのみ。
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これに青海苔をぶっかけて食うと意識が飛んじゃうほど美味い。
一切の無駄を省いたハイブリッド焼きそばである。
(確か値段は300円)
俺が金を払って食べる焼きそばはこの店のものくらいである。
まあでも、普段絶対に頼まないものにチャレンジしてみるのも、たまにはいいだろう。
ただ厄介なのが、並ばないと食べられないという点だ。
いっそ午後休んじまうか。。。
今日は金曜日。
店は絶対に混んでるだろうし、どれだけ待つかも分からない。
どうせなら、腕時計をチラチラ気にしながら急いでメシをかき込むリーマンを横目に、優雅に瓶ビールを傾けるのも悪くない。
悪くないどころか、最高の華金じゃないか。
いや、むしろ至高。
「至高の華金プラン」
キャッチコピーで出したらいい値段で売れそうだ。
早速、出勤と同時に上長へ早退する為の虚偽の申請を速やかにおこなう。
と…いきたいところだが寸前で踏み止まる。
限られた時間の中でいかに満足するメシを喰らえるか。
それが一番の醍醐味のはず。
本質を見失ってしまえば、それはただの妥協に変わる。
そんな訳で御徒町タイム14:13。
フローレンス・ジョイナーのような助走をつけて、御徒町駅前へスプリントする。
14:20に店前に到着。
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良かった、誰も並んでいない。
しかし中に入るとカウンターはギチギチの満員だった。
「相席で良ければテーブルどうぞ」
そんなん全く気にしないZ E 。
空いてるテーブルに座る。
そしてメニューを眺める。
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あった、やきそば。
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餃子2個付のセットにしよう。
前のテーブルも後ろのテーブルも瓶ビールやら紹興酒やらをあおっている客ばかりだ。
チクショウ!やっぱり休んどきゃ良かった。
そんな事を考えてたら…
「ヘイ、お待ちどぉ!」
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ファッ!!
思っていたのと違う。
ソースをたっぷり吸ったちぢれた焦げ茶色の焼きそばを想像していたが明らかに違う。
まず麺が太い、そしてやや汁気を帯びている。
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ズズズゥゥ〜
ひと口すすってみる。
こ、これは!
「チャーメン!」
ウワサは聞いたことがある。
横浜界隈のご当地メニューで色が薄い汁なし麺があると。
まさにこれがそうじゃないか?
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麺は柔らかくやや平べったくストレートだ。
もちっとしていて、すすり応えがある。
味も濃すぎず、薄すぎず絶妙な塩梅である。
バカ舌でよく分からないが醤油味な気がする。
完全にあなどっていた。
だから「焼きそば」ではなく「やきそば」なのか!
「メェェェー!ウメェ!」
俺の中のヤギが鳴く。
そして、モッチャモッチャと咀嚼していると、名物の餃子が「トーン」とテーブルに置かれた。
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これは食べなくても分かる。
むしろ食べなくてもいい。
絶対に美味いからだ。
まあ食べない理由もないのでタレを作る。
今日は酢胡椒に辣油を一滴。
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ニラとキャベツだろうか。
野菜多めで好みの味だ。
俺は、ラーメンと餃子を食べる過程において確固たる流儀がある。
それは熱を冷まさないこと
あるがままを口内で受け止める。
当然ながらベロと口内は火傷でベロベロだ。
その時だ。
「相席よろしいかしら?」
70代くらいの貴婦人がテーブルの向かいに腰かける。
「ええ。どうぞ、どうぞ。」
そして、貴婦人がオーダーする。
「やきそばセットね!」
被ったぁぁーーー!
丸被りだ…
急に妙なプレッシャーが襲う。
俺の嗜みを…
吸引力を披露しなくては…
今回ばかりは、新型ダイソンばりの吸引力で、やきそばをすする。
ブボボボボォォォ〜
ム、ム、ム …
ゴ、ゴホッォォ〜〜〜
欠片と言う名の思い出たちが口の中から眼前のテーブルへと飛び立っていく…
すかさず俺は席を立つ。
「ごっそさん。」
素早く店外へと飛び出した。
「すまねぇな、ご婦人」
俺は沼にハマっただけなんだ。
町中華という名の沼に。
第二十九話へ続く