御徒町エレジー第12話【すれ違う魯肉飯】
「カーンチ!」
鈴木保奈美が後ろから声をかけ、織田裕二が振り返る。
柴門ふみ原作の月9ドラマの名作
「東京ラブストーリー」
そして、クライマックスに小田和正の「ラブストーリーは突然に」が流れ…
ふたりはすれ違う。
そう、いつもすれ違う。
携帯電話なんて無かった時代。
黄金期の月9の良い所は、すれ違う恋人たちのもどかしさ。
保奈美がスッとスマホを取り出し
「あ、カンチィ?今どこぉ?」
何て事になったら、興ざめだ。
ただ、この文明が発達した令和の時代にもすれ違いは存在する。
それはメシ屋の営業時間。
いつものように電話番を終えて、遅いランチタイムに入る。
世界一のタンメン「富白」
その角を曲がってすぐの所。
【台湾客家料理 新竹】
時刻は、午後13:30。
またも準備中の札・・・
今日もダメだった。
ランチタイムも営業はしているはずなのだが、いつも準備中で入れた試しがない。
タッチの差で、カンチに会えないすれ違う保奈美のように…
職場の帰り道に必ず店の前を通るのだが、夜は必ずやっている。
営業中の明るい店内を横目に見ながら、舌打ちして帰路につく。
妻が夕食の支度をしているのにここで食べる訳にはいかないのだ。
でもどうせなら、夜に来てビール飲みながらゆっくり台湾料理を味わったほうがいい。
俺のカンチは夜なら会えるのだ。
しかし、台湾料理。
ほとんど馴染みがない。
今まで食した事があるのは魯肉飯(ルーローハン)位しかない。
いったいどんな料理なんだろう。
ある朝、出勤前に妻に正直に行きたい店があるから晩メシはいらないと告げ、仕事に向かう。
そして、終業後。
やっとだ、やっと喰える。
「カーンチ!」
心の中で叫びながらドアを開ける
二人連れの客が四角いテーブルに一人の客が大きい丸テーブルに座っている。
お一人様は、相席で丸テーブルに座らされるようだ。
メニューを渡される。
とりあえずビール。
俺の好きな瓶ビールの大瓶は置いてなかったので生ビールを注文。
そして、1ミリも疲れていない体に一気に流し込む。
プハァ!うめぇ!
疲れていようがいまいがビールは等しく美味い!
さてさて、メニューを。
まずはメイン。
ご飯ものを選ぼう。
が、しかし。
ランチメニューとディナータイムでは頼める品が限定されていた。
気になっていた排骨飯や排骨麺は夜は頼めない。
そして、俺がイメージしていた魯肉飯は、角煮が乗ってそうなヤツだったが、この店はそぼろの様なバージョンだ。
だが、ドンピシャの丼もあった。
「豚バラ煮込み丼」
俺の中の想像のルーローハン。
行くか。。。
しかし、俺の腹の中にまだ消化しきれていないモノがあった。
今日遅めのランチで食べたモノ。
前回第11話で紹介した横浜家系らーめん侍にて、「炎獄」という激辛ラーメンを食べたのだ。
「喰えんの?角煮?」
脳がワーニングを通告している。
ここで逃げる訳にはいかない。
何なら生ビールを頼む時にノリで水餃子も頼んでしまっていた。
そして。。。
ファッ!
スゲェ、RPGの序盤戦の負けイベントのような圧倒的なボス感。
そして続けざまに来る水餃子。
負けイベ決定だ。
飯(ハン)はいい。
肉(ルーロー)だけでも喰らう。
レンゲで切れるほどホロホロの角煮はそんなに脂っこくはない。
水餃子もプリプリでイケる。
だが、口の中がカラカラだ。
中華のようにスープがセットでついて来ない台湾料理。
一瞬で飲み干した生ビール。
仕方ない。
パンパンの腹に生ビールのおかわりする暴挙に出た。
プルプルの食感が似ている角煮と水餃子を交互に食べ、生ビールで流し込む。
「ごっそさん。」
完全にオーバードーズ。
そして、ほぼ職場と同じ距離から歩いて駅に向かう。
強烈な睡魔と膨満感。
ようやく会えたカンチは、優男の織田裕二ではなく、イキった江口洋介であった。
第十三話へ続く