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ちよこさんの笑えない誤解

軽度から中程度の認知症の義母のちよこさんは、話を断片的に覚えていて、それをつなぎ合わせて理解するところがある。元々「思い込みが激しい」(息子たち談)のだが、さらにがひどくなって、しばしばおかしなことになる。

私ががん治療中の義弟を、家に見舞いに行った話をした後、ちよこさんが義弟に電話したが出なかった。すると、

冴子が会いに行った → 義弟がいない → 私が家に見舞いに行ったことを忘れて入院していると思う → 病気が悪くなったのか?

ということになり、心配して電話がかかってくる。

これはいい方で、夫(やはりがん治療中)が長期入院していた間にホームに行ったら、事務室のケアマネさんに呼び止められた。

「ご主人,大丈夫ですか?」

「はい,まあぼちぼちです」

「ちよこさんが,昨日から長男が亡くなったと言ってめそめそしているのだけど」

そう言って小さなメモ用紙を渡された。そこには

”お世話になりました。きちんとご挨拶ができず,申し訳ありません。このことは人には話さないでください”と書かれている。

ケアマネさんから、ちよこさんに説明してほしいと言われ,部屋に向かった。

ドアを開けるなり,べそをかいたちよこさんが

「冴子さん,もうすっかり終わったの? 〇〇はお骨になったの?」

と私にすがりついてきた。

えー,お義母さん,殺さないでくださいよ! 少し前まで本当にそうなりそうだったんだから冗談にならないんだけど。

まだ入院して治療を続けていることを説明して,ようやく納得してもらうことができた。誤解の元は,入院が長かったことと、本人が面倒がって電話に出なかったことらしい。

加えて、数週間前に病院へ面会に連れて行ったときの衝撃があったのだろう。ちよこさんがICUに入っていた夫の面会にきたとき,重病人を真近で見たことがなかったちよこさんには,たくさんのチューブにつながれた息子の姿がショックだったに違いない。確かにあのとき,ちよこさんはこわばった表情で,一言も発さなかった。そのときの思いが根底にあって,縁起でもない誤解を生んだのだ。

今では笑い話にできるけれど,夫の入院中にホームに顔を出して,本当は大丈夫ではないのだけど「大丈夫だから」となだめるのはなかなかしんどかった。

お骨はいきすぎだけれど,こういう方向に誤解してしまうのはいつも子どもたちを心配しているからなのだと思うと,それも切ない。

今のところ,認知症だからと言って嘘やごまかしはせず,ほとんどのことは正直に話している。だから,たまにびっくりするような反応が返ってきて,こちらも本気で驚いたり,怒ったりしてしまう。うまく受け流せるようになった方が楽なのだろうけれど,今のまま認知症のちよこさんではなく,そのままのちよこさんとして向き合っていたい気持ちが,私にも夫にもあるのだ。


◆(ちよこさんが面会に来たときのことはこちら)



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冴子
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