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イングリッシュマン・イン・トーキョー
イギリス人はよほどのことがない限り傘をささないといいますが、その実例を初めて見せてくれたのが、ときどきご近所を歩いているその白人男性でした。
「イングリッシュマン・イン・トーキョー」と私が名づけたその人は、歳の頃は40くらい、やせた長身にストライプ柄のスーツ、アンティーク風のロイド眼鏡をかけ、胸元にはポケットチーフ、先の尖った靴はピカピカ、そしてどういうわけかいつも手ぶらで、その日も雨のバス通りを傘もささず、金髪をおでこにべったりはりつかせながら颯爽と歩いていました。
そしてなにより注目すべきはおそろしいほどの姿勢の良さでした。
イギリスにはパブリックスクールという名門校があるそうですが、中高一貫のそこに入るとまず姿勢を徹底的にただされるといいます。その紳士もパブリックスクール御出身なのか、背中に定規でも入れているのかと思うほどの姿勢の良さで、そのオールドファッションなスタイルもあいまり、まさに英国紳士の鑑というか、見本といった感じでした。
どこでどういう暮らしをしている人なのかさっぱり見当がつきません。ただ東京にはそんな人が大勢いるのでふだんは気にならないのですが、その英国紳士の場合、外国人、変な格好、手ぶら、まっすぐすぎる姿勢とあまりにも謎コンテンツが多すぎて、それゆえ私の内部記憶装置に長いこととどまっていたのでした。
そんなある日(昨日です)、その彼が近所の交差点で信号待ちをしているのを見かけました。そしてそのとき、私は彼が不思議な行動をしているのを見たのです。
青になった信号をわたった彼がそのまま駅方向に行きかけてふときびすを返し、くるりと何もない交差点横の空き地に向かって深々とお辞儀をしました。
私は目をこらしましたが、空き地には誰もいません。想像力のたくましい私の頭をいろんな可能性がよぎりました。スピリチュアルか、メンタルか、それともホラーか、いや、あるいは。
私はそのとき急いでいたのですが、やはり好奇心には勝てません。そうです、私は信号脇の空き地へ向かい、彼がいったい何に向かってお辞儀をしていたのか、その相手を見つけたのです。
それが冒頭の写真です。
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