29冊の仕事から見えたもの③ライターに必要なのは「訊く力」
29冊の仕事を通して、気づいた。
AI時代を生き抜くライターに必要なのは、『訊く力』だ。
当たり前、何をいまさら……って感じだけど、AI時代になって重要さがさらに増したと思う。
著者が話してくれたことをまとめるのは、AIにもできる。
試しに、自分が書いたものが掲載された雑誌が出版されたあとに、AIに文章化させたことがある。
そこそこまとまった原稿が、ものの1分でできあがった。
そのとき、ライターの仕事は「書く」ことではなく「訊く」ことになる、と悟った。
ライターとしてのセールスポイントは?
ブックライターとして、「佐伯さんの文章は読みやすい」「わかりやすい」と言っていただくことが多い。
しかし、それはライターのセールスポイントではなくなった。
AIを使えば、誰でもそういう文章がつくれる。
文章をつくるだけなら、わざわざライターに仕事を依頼する必要はない。
つまり、ライターは「読者に伝わる文章が書ける」だけでは、AIとの競争に負けてしまうのだ。
では、人間にしかできないことは何か。
それは、「訊く力」だ。「何を訊くか」と「どう訊くか」は、今のところAIにはできない。
著者の考えや理論を理解したうえで、まだ開いていない引き出しを引っぱり出してもらって、開けてもらう。
それくらいの取材ができないと、読者にお金を払ってもらえる本にはならない。
29冊の仕事を振り返ってみて、ふと思い出した。
著者の方々にこんなふうに言われることが多かったな、と。
「取材を受けたことで自分の頭にあったことが整理できた」
「自分の引き出しに入っていたものが引っ張り出せた」
ということは、「訊き出す力」が僕のセールスポイントになる。
今のままで十分とは思わない。
自分の軸として強く意識して、さらに磨いていこうと思う。
キーワードは「リアリティ」
僕は、細部のリアリティにこだわってきた。
特に、堀井哲也監督の『エンジョイベースボールの真実』あたりから、原稿の解像度が上がっているように思う。
自分で言うのも何だけど。
リアリティへのこだわりは、飯塚智広さん著『観察眼』で詳しく解説している鳥栖工業対富山商の試合の各シーン、中野泰造さん著『シン・ノーサイン野球の授業』での指導の紙上再現などでも生きていると思う。
ノンフィクションはもちろん、堀井監督の著書のように人生を綴る本の場合は、5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、どのようにしたか。それはなぜか)を欠かせない。
これは、文章を書くときの基本中の基本だ。
そこを、さらに細かく突きつめている。
「リアリティ」は、これから先のキーワードだ。
ネットに無料の情報があふれている時代に、お金を払って本を買ってもらう。
しかも、動画でも音声でもなく、文字で読んでもらうわけだ。
動画や音声と異なり、本は自分で読むスピードをコントロールできる。
読者は、自分のペースでページをめくり、考えながら、想像しながら、読書を楽しむ。
頭のなかに高い解像度で映像を浮かべてもらうには、「5W1H」では足りない。
その奥の、細かいところまで訊き出す力が不可欠になる。
なぜ「仕事まとめ」をしたのか?
今回、「仕事まとめ」をしようと思い立ったのは、なぜか?
「自分を知ってもらうには、つくったものを見せろ」という考えたからだ。
今夏、ある出版社からSNS経由で連絡をいただいた。
仕事の依頼だったのだが、担当者さんと面談した際、「佐伯さんはブックライトの経験はありますか?」と訊かれた。
「25冊くらい実績があります」と答えたら、「すみません、佐伯さんのSNSやホームページを見たんですけど、わからなかったので」と言われた。
そうか、知られていないんだ……とわかった。
結局、スケジュールの都合でその仕事は受けられなかったんだけど、このやり取りがきっかけとなって、「実績をまとめておこう」と思った。
仕事まとめは、自分のライター人生を振り返る時間でもあった。
ライターになって、15年。
始めた年齢が38歳と遅いので、もしかしたら、ライター人生はとっくに折り返し地点を迎えているのかもしれない。
自分を見つめ直す時間が必要だったんだと思う。
過去から学んだことを、未来に生かしていこうと思う。
好きで得意だから始めたライターの仕事を、少しでも長く続けられるように。