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つながらない権利 法制化(立法化)要望を日本の厚生労働省は

勤務外の深夜や休日に上司などのメール等を(緊急連絡を除いて)拒否したとしても罰せられることのない権利「つながらない権利」は欧米を中心に法制化(立法化)が進んでいますが、日本政府や厚生労働省の反応は極めて鈍いし、遅いと言わざるを得ません。


つながらない権利 法制化は日本では進まない

東京新聞(デジタル版)は先週の水曜日(2024月7月17日)に『「つながらない権利」あなたの会社は認めてる? 欧州を中心に法制化進が、なぜ日本は反応が鈍いのか』(「法制化進が」の意味が不明ですが「法制化進むが」の「む」が抜けているのかもしれません)と題する記事を配信しています。

その記事の中に「国内でつながらない権利の法制化が進んでいない理由について、厚労省の担当者は取材に『分析できていない』と説明。連合の法制化の要望については『今まさに研究会で議論されており、いつまでにという時期は決まっていないが、今後方向性をまとめていく』と述べるにとどめた」と書かれた個所があります。

まず、東京新聞が何故日本では「つながらない権利の法制化が進んでいない理由」を厚生労働省の担当者(つまり厚生労働省労働基準局)に質問されたようですが、私も可能なら同様のことをたずねてみたいと思っていました。まさにタイムリーな質問ではないでしょうか。

その質問に対して厚生労働省の担当者は「分析できていない」と、はぐらかしたような回答をしていますが、ただし、連合(日本労働組合総連合会)の「つながらない権利」法制化の要望については「今まさに研究会(労働基準関係法制研究会)で議論されており、いつまでにという時期は決まっていないが、今後方向性をまとめていく」と述べているそうです。

「つながらない権利」あなたの会社は認めてる? 欧州を中心に法制化進が、なぜ日本は反応が鈍いのか(東京新聞サイト)

つながらない権利 法制化(立法化)要望とは

厚生労働省「労働基準関係法制研究会」(第7回)は今年(2024年)5月10日に開催されましたが、議題は労使団体ヒアリングとされて経団連(日本経済団体連合会)鈴木重也・労働法制本部長と連合(日本労働組合総連合会)冨髙裕子・総合政策推進局長から厚生労働省会議室でヒアリングが実施されました。

第7回 労働基準関係法制研究会 議事録(厚生労働省サイト)

なお、連合は労働基準関係法制研究会(第7回)資料として『労働基準関係法制のあり方に関する連合の考え方』と題して文書を提出していますが、『労働基準関係法制のあり方に関する連合の考え方』(10頁)に「労働者は勤務時間外であれば仕事に関わる義務は当然にないが、連合調査によれば、『勤務時間外に部下・同僚・上司から業務上の連絡がくることがある』と回答した者が7割に及んでいる」と記載されいます。

また、『労働基準関係法制のあり方に関する連合の考え方』(10頁)には「労働者の休息の確保のために使用者からの連絡の遮断を『権利』として認め、そのための権利行使の方法を労使において具体化したり、使用者に一定の対応を義務づける、いわゆる『つながらない権利』の立法化を検討すべきである」と連合の要望が明記されています。

第7回研究会の議事録によると、連合の冨髙裕子・総合政策推進局長は資料『労働基準関係法制のあり方に関する連合の考え方』を示しながら「つながらない権利」の立法化(法制化)について「本来的には、労働者は、勤務時間外であれば仕事に関わる義務はございません。しかし、(資料『労働基準関係法制のあり方に関する連合の考え方』)左下に載せてある連合の調査を見ていただきますと、『勤務時間外に部下・同僚・上司から業務上の連絡が来ることがある』と回答した方が7割程度にのぼります」と説明。

そして連合の冨髙裕子・総合政策推進局長は「こうした状況を防止するためにも、使用者からの連絡を遮断する権利を認め、その権利行使の方法を労使において具体化したり、使用者に一定の対応を義務づけるような立法化というものを検討すべきではないかと考えます」と発言しています。

さらに連合の冨髙裕子・総合政策推進局長は「『つながらない権利」が立法化されれば、(資料『労働基準関係法制のあり方に関する連合の考え方』)連合調査の右側のグラフにもありますけれども、時間外の業務指示など断りやすくなるという結果も出ております。こういったエビデンスも踏まえ、ぜひ検討いただければと思います」と、「つながらない権利」立法化(法制化)を要望しています。

この「つながらない権利」立法化(法制化)要望に関して、議事録を読む限りでは厚生労働省「労働基準関係法制研究会」メンバー(構成員)からは一切、質問も意見もありませんでした。「つながらない権利」法制化に何の関心もなかったのでしょうか、残念に思います。

労働基準関係法制のあり方に関する連合の考え方(PDF)

つながらない権利 法制化を厚生労働省は?

連合の「労働者の休息の確保のために使用者からの連絡の遮断を『権利』として認め、そのための権利行使の方法を労使において具体化したり、使用者に一定の対応を義務づける、いわゆる『つながらない権利』の立法化(法制化)を検討すべきである」との要望について、東京新聞の記事によると厚生労働省(労働基準局)担当者は「今まさに研究会で議論されており、いつまでにという時期は決まっていないが、今後方向性をまとめていく」と話したそうですが、「研究会」とは厚生労働省(労働基準局)有識者会議「労働基準関係法制研究会」のことになります。

連合の要望が行われた第7回研究会(2024年5月10日)後は、第8回研究会が6月27日に開催されて労働基準法における労働者について議論され、また第9回研究会が先週金曜日(7月19日)に開催されて労働基準法における事業と労使コミュニケーションが議論されました。

次回(第10回)研究会の開催日は現在(7月21日)公表されていませんが、多分「労働時間」などが議論されると推定されますが、その「労働時間」などの中で「つながらない権利」法制化が議論されるかどうか、注目すべきだと思います。

もし次回の労働基準関係法制研究会で議論されないとすれば、「いつまでにという時期は決まっていないが、今後方向性をまとめていく」という厚生労働省担当者の話は遠い未来のことになっているかもしれません。日本の厚生労働省は、また政府は「つながらない権利」法制化を、これ以上、延ばしつづけ、放置したままにするようなことはしないでほしいと願っています。

追記:厚労省 労働基準関係法制研究会 第13回

厚生労働省サイトによると厚生労働省(労働基準局)有識者会議「労働基準関係法制研究会」の第13回研究会は明日(2024年9月11日)に開催されます。議題は「労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇について」。

『資料1 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇について』には「最長労働時間規制」「労働からの解放の規制」「割増賃金規制」について記載されています。

資料1 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇について(PDF)

この資料1の7ページ(「労働からの解放の規制」の項目)には第10回・第11回研究会のメンバー(構成員)の意見として「つながらない権利」について「つながらない権利について、労働のON/OFFをはっきりさせた上で、OFFについては基本的に使用者が介入しないものであるのが本来なので、つながらない権利を労働者の権利として構成することには違和感がある」と「つながらない権利」法制化に対して否定的なコメントが書かれています。

また「つながらない権利について、フランス等で先進的な事例があるものの、会社が違えばつながらない権利の具体的な形もそれぞれ違うというくらいに、非常に多様。このため、労使できちんと協議することを義務付けている。基本的には労使で、労働実態を踏まえてきち んと協議をし、ルールを定めて具体的に実現するようにすることとするしかないのではないか」とも記載されています。

追記:労働基準関係法制研究会 報告書(案)

労働基準法などの見直しを議論している厚生労働省・有識者会議「労働基準関係法制研究会」の第15回研究会が本日(2024年12月10日)開催されましたが、議題は「労働基準関係法制について」ですが、資料は「労働基準関係法制研究会 報告書(案)」となっています。

この「労働基準関係法制研究会 報告書(案)」に記載された「つながらない権利」に関する記述は次のとおりです。

つながらない権利
本来、労働契約上、労働時間ではない時間に、使用者が労働者の生活に介入する権利はない。しかし現実には、突発的な状況への対応や、顧客からの要求等によって、勤務時間外に対応を求められる状況は容易に発生し得る。このような場合に、実際にはなし崩しに対応を余儀なくされている場合もある。私生活と業務との切り分けが曖昧になり、仕事が私生活に介入してしまうことになる。

欧州等では、「つながらない権利」を行使したことや行使しようとしたことに対する不利益取扱いの禁止、使用者が労働者にアクセス可能な時間帯の明確化や制限、「つながらない」状態を確保するための措置の実施(より具体的には労使交渉の義務付け)等を内容とした、「つながらない権利」が提唱されている。例えば、「つながらない権利」を法制化しているフランスの例を見ると、具体的な内容の設定の仕方・範囲は労使で協議して決めており、その内容は企業によって様々であるが、労使交渉で合意に至らない場合には、つながらない権利の行使方法等を定めた憲章を作成することが使用者に義務付けられている。

また、実際に勤務時間外に労働者に連絡をとる必要が生じる際は、労働者と使用者の関係だけでなく、顧客と担当者の関係等も含めた複合的な要因が生じていることが多いと考えられ、当該連絡の内容についても、具体的な仕事が発生して出勤等をしなければならないこともあれば、電話等での対話を行わなければならないもの、メール等が送られてくるだけといったような、様々な段階のものが存在し得る。

こうした点を整理し、勤務時間外に、どのような連絡までが許容でき、どのようなものは拒否することができることとするのか、業務方法や事業展開等を含めた総合的な社内ルールを労使で検討していくことが必要となる。このような話し合いを促進していくための積極的な方策(ガイドラインの策定等)を検討することが必要と考えられる。(労働基準関係法制研究会 報告書 案より抜粋)

労働基準関係法制研究会 報告書(案)(PDF形式)

労働基準関係法制研究会(厚生労働省サイト)

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