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上西充子教授は裁量労働制拡大は批判しても官僚の裁量勤務制拡充は見逃す?

まず最初に書いておかないといけないが、民間企業などの社員や職員の「裁量労働制」にあたる制度は、国家公務員(官僚)では「裁量勤務制」と呼ばれている。

上西充子教授が日経記事をリツイート

上西充子・法政大学教授は岩波書店『世界』2018年5月号に「裁量労働制を問い直せ」との記事を書いており、安倍政権の裁量労働制(適用)拡大を批判した方として知られている。

今年(2023年)、厚生労働大臣諮問機関・労働政策審議会分科会で裁量労働制拡大について議論された時も、上西充子教授は裁量労働制拡大を批判する東京新聞の記事は(ご自身のツイッターアカウントで)リツイートするなどして、民間企業の社員などに適用される「裁量労働制」の適用拡大には反対していた。しかし、人事院の有識者会議で行われていた国家公務員の「裁量勤務制」の適用拡大には関心がないように見受けられる。

上西充子教授は3月27日(ご自身のツイッターアカウントで)日本経済新聞電子版の「国家公務員に勤務間インターバル11時間 研究会提言」とのツイート(3月27日配信の記事「官僚の勤務間インターバル11時間提言 国会改革急務」をリンクしたツイート)をリツイートしただけで、研究会提言に記載されていた「裁量勤務制」拡充(拡大)については残念ながら何のコメントもしていなかった。

なお、日本経済新聞の記事見出し「研究会提言」とは、人事院有識者会議「テレワーク等の柔軟な働き方に対応した勤務時間制度等の在り方に関する研究会」最終報告のこと。

テレワーク等の柔軟な働き方に対応した勤務時間制度等の在り方に関する研究会 最終報告案

人事院「テレワーク等の柔軟な働き方に対応した勤務時間制度等の在り方に関する研究会」第13回研究会が、今週の月曜日(2023年2月20日)に開催されたが、「最終報告骨子(案)について」議論された。

その第13回研究会の資料2は「テレワーク等の柔軟な働き方に対応した勤務時間制度等の在り方に関する研究会~最終報告骨子(案)~【概要】」となっているが、人事院公式サイトには「後日掲載」と書かれている。その後も何度か確認したが、最終骨子(案)は未掲載のまま。

テレワーク等の柔軟な働き方に対応した勤務時間制度等の在り方に関する研究会 最終報告

(1)最終報告(案)

2023年3月27日、人事院は「テレワーク等の柔軟な働き方に対応した勤務時間制度等の在り方に関する研究会」 最終報告を公表したので、あらためて人事院サイトの「テレワーク等の柔軟な働き方に対応した勤務時間制度等の在り方に関する研究会」ページを確認すると、「テレワーク等の柔軟な働き方に対応した勤務時間制度等の在り方に関する研究会(案)が(ようやく)掲載されていた。

テレワーク等の柔軟な働き方に対応した勤務時間制度等の在り方に関する研究会 最終報告(案)(PDF)

(2)最終報告

(くりかえしになるが)2023年3月27日、人事院は「テレワーク等の柔軟な働き方に対応した勤務時間制度等の在り方に関する研究会 最終報告」を公表。

テレワーク等の柔軟な働き方に対応した勤務時間制度等の在り方に関する研究会 最終報告の概要(事務局作成)(PDF)

テレワーク等の柔軟な働き方に対応した勤務時間制度等の在り方に関する研究会 最終報告

(3)最終報告のポイント

「テレワーク等の柔軟な働き方に対応した勤務時間制度等の在り方に関する研究会」最終報告のポイント
○質の高い公務の持続的な提供に向けて、
・第一に、ディーセント・ワークを推進するため、職員の業務負荷を軽減し、勤務環境を向上させる施策を実施
・第二に、個人の尊重の観点から、公務においてより柔軟な働き方を推進
○見解で示された主な施策の内容は以下のとおり
より柔軟な働き方
・フレックスタイム制について、選択的週休3日の対象職員の拡大、勤務開始後の勤務時間の変更、非常勤職員の1日の勤務時間の上限見直し。
・夏季休暇の使用可能期間、年次休暇の使用単位の見直し。
テレワーク
・業務上支障がない限り、基本的に職員が希望する場合には、テレワーク勤務をすることができるよう基準を明確化。
・テレワーク時の勤務管理、長時間労働対策、健康管理等について考え方を整理。テレワークの円滑な運用のためマネジメント支援やシステム整備が必要。
勤務間インターバル
・勤務間インターバル確保について各省各庁の長の責務を早期に法令上明記。
・最終的には、全職員を対象に、原則11時間のインターバル確保を目指す。
・現行制度下で運用改善等を推進し、現状・課題を把握。課題解消に向けた取組を試行として段階的に実施した上で、本格的実施のための制度的措置を検討。

人事院公式サイト

(4)裁量勤務制(裁量労働制)の拡充(拡大)

国家公務員の裁量勤務制(民間では「裁量労働制」)の拡充については、事務局(人事院)が作成した「最終報告の概要」や人事院サイトにある「最終報告のポイント」には全く記載されていないが、最終報告の本文24~25ページには次のとおり記載されている。

⑹ 裁量勤務制の拡充
【現状と課題】
公務においては、専門分野において研究業績等により特に優れた研究者として認め られている者を招へいすることを目的として裁量勤務制が導入されている。
すなわち、 いわゆる招へい型任期付研究員は、「一般職の任期付研究員の採用、給与及び勤務時間 の特例に関する法律」(平成9年法律第65号)第8条の適用を受けると、実勤務時間に かかわらず1日につき7時間45分勤務したものとみなされ、職員の裁量によって柔軟 に勤務することが可能とされている。 制度導入後の国立の研究機関や大学の法人化等により、国家公務員の研究職員が大 幅に減少し、現在、裁量勤務制を利用する職員はいない状況となっている。
また、民間労働法制においては、裁量労働制に複数の類型があり(労働基準法第38条の3、第38条の4)、一定の活用が行われているのに対し、国家公務員の勤務時間制 度においては、招へい型任期付研究員のみに認められているところ、例えば、研究職 や専門スタッフ職など業務の裁量性がある職員がいることから、柔軟な働き方の一類型である裁量勤務制の適用範囲が狭すぎるのではないかという課題もある。

【本研究会の見解】
本研究会においては、超過勤務の上限規制の制度における他律的業務の比重が高い 部署(他律部署)の指定が多い状況等を踏まえて、現状の国家公務員の業務にどの程度裁量性があるかを検証しつつ、ニーズを把握する必要があるとの意見があった一方で、今後、公務において外部専門人材を活用していくとすると、時間管理の厳格さが働き方の自由度を制約していると受け止められ、外部専門人材の確保や活用に影響を及ぼすおそれがあるとの意見もあった。
裁量勤務制の適用範囲の拡大については、現在適用されている招へい型任期付研究員と業務の裁量性の点で類似する調査研究等に従事する職員や今後公務において活用が期待されている外部からの専門人材から検討する余地も考えられるところである。 一方で、超過勤務の上限規制の制度における他律部署の指定が多い状況等を踏まえれ ば、現状の国家公務員の業務にどの程度の裁量性があるかを見極めることが重要である。 したがって、まずは、中間報告を踏まえて柔軟化された申告割振制によるフレック スタイム制の運用の定着を進めた上で、裁量勤務制による柔軟な働き方へのニーズについて検証することが必要である。その際、民間労働者の裁量労働制においては、働く時間に基づき健康管理を行う方策に加えて、心とからだの健康相談窓口の設置など、 働く時間によらない健康確保措置も選択できるところであるが、現行の国家公務員の裁量勤務制においては、このような健康確保措置や苦情処理措置の在り方が必ずしも 明確に定められていないことに留意する必要がある。
なお、本研究会の中間報告を踏まえたフレックスタイム制の柔軟化によって、相当 程度自由度の高い働き方が可能となるが、その場合も給与は働く時間に応じて決定さ れる仕組みである点は変わらない。これに対して、国家公務員の裁量勤務制や民間労働者の裁量労働制を含めた実労働時間規制によらない働き方は、働く時間と給与とが 連関しない仕組みである。
国家公務員法において、給与の根本基準として、「職員の給 与は、その官職の職務と責任に応じてこれをなす。」と定められているところ(同法第 62条)、働く時間と給与との関係性も踏まえて、裁量勤務制の在り方について、今後更に検討されることが望まれる。

テレワーク等の柔軟な働き方に対応した勤務時間制度等の在り方に関する研究会 最終報告
(本文24~25ページ)

裁量勤務制拡充をスルーした日経と上西教授

裁量勤務制拡充をスルーした日本経済新聞。人事院サイトの当該ページには「テレワーク等の柔軟な働き方に対応した勤務時間制度等の在り方に関する研究会」最終報告の概要と本文(全文)がリンクされていたが、概要だけで本文(全文)まで読まなかったのだろうか。

そして日経新聞の記事をリツイートしただけで、人事院の研究会(有識者会議)の最終報告(本文)までよもうとしなかった上西充子教授も国家公務員も「裁量勤務制の拡充(拡大)」の記載をスルーしてしまった。上西充子教授のツイートなどの発信力に期待していたので、残念………。

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