Day 5: 神様のボート / 7-Day Book Cover Challenge
Day 5: 神様のボート / 7-Day Book Cover Challenge
5冊目は江國香織の神様のボート。江國香織の作品もたくさん読んできたけど、この作品が特に気に入っている。江國香織は作品もよいけど、あとがきも秀逸で、こんなことが書いてある。
小さな、静かな物語ですが、これは狂気の物語です。そして、いままでに私の書いたもののうち、いちばん危険な小説だと思っています。
こういった静かな狂気が好きで、村上春樹の国境の南、太陽の西にある至高体験と似ている気がする。
まずまずの素晴らしいものを求めて何かにのめり込む人間はいない。九の外れがあっても、一の至高体験を求めて人間は何かに向かっていくんだ。それが世界を動かしていくんだ。それが芸術というものじゃないかと僕は思う
これは母娘の物語で、いろいろな土地を転々とする。母親は葉子、娘は草子で、草子が成長していくにつれ文体が変わっていくのがおもしろい。最後は逗子に住んでいるのも、愛着のある理由のひとつだと思う。江國香織はいろいろな作品で家族を描いていて、どの家族もけっこう大変そうだけど、あたたかみがある。
江國香織の文章は、空気感や雰囲気をさらっと切り取っているのがすごい。例えばこんな感じ。
「みて!」
あたしは言い、歴史博物館につづく細い道をあごで示した。真黒な猫がゆうゆうと歩いている。猫の背中の毛にも、西日があたっていた。
「きれい」
この街の夕方が、あたしはとても好きだ。
夕方に歩いていて、猫もゆうゆうと歩いていてきれいだなと感じたことのあるひとはそこそこいるだろうけど、それをこんなふうに文章にできるひとはなかなかいない。こんな夕方なら僕も好きになる。神様のボートは、こんな静かな文章がたくさん詰まった狂気の物語で、日本語っていいなと読むたびに思う。
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