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細胞の囁き魔女の一撃
椅子から立てない。テーブルへ手をつく。体重を支える。どうにか立ち上がれた。
けれども、次の一歩を躊躇う。ちょっとした角度の違いで痛みが走るからだ──
☆☆☆
こんにちは。フジミドリです。突然ですが、ギックリ腰になりました。まぁギックリ腰って、大抵が突然なんですけどね。
ギックリ腰の語源は何だろう。調べてみましたら、びっくりが訛ってギックリなんて説もあるそうですから。
ご経験ある方、おわかりでしょう。そりゃぁもう痛いのですよ。座ってダメ立ってダメ。横になっても、寝返り一つ打てません──
☆☆☆
なんでこんな目に合うかなぁ。全くやってらんねぇよ。中学入試が終わって一息ついて、でも大学入試はまだ残ってるんだ。
確かにムリしたよ。年末年始、頑張りどころだからね。生徒達が一生懸命取り組んでるのに、セーブしてられないからさ。
いやいや~こんな生活、30年も続けてきたんだぜ。力の入れ具合なんて、わかっちゃいるはずだ。ムリなんかしてないよ──
☆☆☆
うーん。やっぱ、油断したかなぁ。
気持ちの問題はあるねぇ。なかなか思うように結果が出なかったり。不安材料も重なってくるとか。なんかスッキリしないんだよ。
達成感があると、疲れは一気に解れたりするんだけどさ。このところ閉塞感っていうか。世の中、不穏な空気だもんね。
☆☆☆
当たり前にできた動作が、一つずつ滞ってしまう。不便なだけではない。根底から、存在を脅かされる印象がつきまとう。
根底から存在を脅かされる──大袈裟な表現だけど、いやいやいや~この心細さ、消えてしまいそうになる。
腰の真ん中、仙骨の辺りから、虚無の空間へ吸い込まれるような感じがしてくるよ。
☆☆☆
疲れが溜まった。30年を超えるベテラン。ベテランだからこそ、わかってるつもりでもいつの間にかムリを重ねてしまう。
還暦過ぎて、スタミナは切れてきた。若い頃のようにできない。あちこちガタが来てる。
もちろん、道術を学び、仙骨の調整をしてきたオレ。世間的な還暦よりは元気だろう。
特に持病もない。例のウイルスだって、世間の騒ぎと関係なく暮らしている。
☆☆☆
冷えはある。元気だから大丈夫と油断する。細心の注意を払う生活には程遠い。
いつの間にか積もり重なって、ある時突然、ダムが決壊するってわけさ。
ドイツ語で、魔女の一撃なんて言うらしい。言い得て妙だ。やれやれ。ドイツ人も、ギックリ腰になるってことだよな。
☆☆☆
対処法がない。現代医学で腰痛は治せない。抑々、医学で治せる病気なんてない。治すのは、細胞に備わる自然治癒力だ。
な~んて話すと、生徒は驚いた顔する。薬や手術で病気が治ると信じ込んでいるのかね。
生まれて死ぬ。オレらはどうすることもできない。細胞の力、大自然の驚異に任すだけ。
病気にするのは細胞だ。いや。病気と言うより細胞の反応。生き延びるための最善策。
☆☆☆
予防はできない。気をつけてね。お大事に。決まり文句のご挨拶。何を気をつければいいのか。どう大事にすれば避けられる。
誰にもわからない。オレだって、誰かを気遣う時、他に言いようがない。けど、気をつけたってなる。どうしようもないんだ。
健康管理──できるわけない。自然に逆らう無謀な幻想。病気にならない人いる?
☆☆☆
医学でダメなら民間療法。今や動画サイトに溢れている。ギックリ腰で検索する。スマホ片手に、押さえたりストレッチしたり。
一瞬、効いたような気もする。糠喜び。ちょっとした動作で、痛みが脳天へ突き抜ける。息を呑み、仰け反ってしまう(>_<)
もちろん治る人は治る。医学で治る民間療法で治る。治ることまでを、前世の理解で組み込んできたわけだ。シナリオ通りなのさ。
☆☆☆
オレは自然治癒──
こういうシナリオを、選んで生まれてきた。だから安易に治るはずがないのさ。
あはは~わかってる。わかっちゃいるのに、諦め切れず足掻いてる。やっぱバカだね。
☆☆☆
何やってもムダ。
論理的思考も培った知識もまるで役立たず。友情も愛情も吹っ飛ぶ。神も仏も、痛みで霞んでいく。世界は痛みで染まるのだ。
細胞の修復に任すしかない。
☆☆☆
起き上がれない。仰向けの態勢から、手で腿を抱えつつ、じりじり横向きに。ベッド脇へ掴まって体重を支え、ようやく立ち上がる。
家を出るまで迷う。仕事に行くかどうか。休むなら早く連絡しなきゃ。入試の真っ只中。個別で見てきた生徒達。代わりはいない。
電車でまた苦労。座れる時間帯なのが救い。手摺りに掴まって、ゆっくり座る。立ち上がる時、吊り革をぎゅっと握る手は震えた。
☆☆☆
ミドリの介護を思い出す。この痛みが、何ヶ月も続いたのだ。 あの時のオレは、丸っきりわかってやれなかった。
もちろん、わかるほどの余裕をもって、介護なんてできやしない。とにかく、オレが必死にならなければ、支えてやれなかった。
それはそうだけど。あの時、ミドリがどんな思いでいたか。背骨の底から、もどかしさがこみ上げる。オレは今、自分を罰している。
☆☆☆
何か理解しなければ。それはわかる。でも、痛みで理解するなんてヤダな。何を理解すればいい。痛む前に教えてくれよ。
ムリしなくて済むよう、誘導してほしいね。結局は欲──うまく仕上げたい、人の目を気にする、ムリを推してもやり遂げたい。
全て欲だ。欲を捨てないと、痛い思いが待っている。そういう法則なんだろう。
☆☆☆
オレは神や守護霊に愚痴る。
頼むよ。痛くなる前に教えてくれ。微かな囁きじゃなく、怒鳴ってもいいからさ。
好き勝手やらせて、その結果として痛みの罰なんて、まるでイジメじゃないか──
☆☆☆
或る時、オレは突然に悟る。あれれ。オレが痛むってことは、霊界に住む魂は、まるで痛みがないんだよな。
何の脈絡もない。非論理的な閃き。けれど、 圧倒的な強さで湧き起こる。肉体が痛むってことは、魂は痛まないんだよ!
おいおい。どういう論理だか。いやいや論理なんてない。とにかく悟っちまった。肉体のオレが痛む時、魂は快適なんだ♪
☆☆☆
やったね。嬉しいよ。喜びが身体中を駆け巡る。今この瞬間、魂は心地よいのか。
いててててててて。いたい痛いイタい。体に力が入っちまったぜ。ふうぅぅぅ。
笑った顔が苦痛に歪み、叫んで呻いて、ベッドの上で固まるオレ。命懸けの喜劇だな。
☆☆☆
やれやれ。
でもなんか、わかった気がする。
自分が、肉体の中に閉じこもっている限り、痛みから逃れることはできない。でも、自分の枠を広げたら、痛みは部分になる。
無限に広がる、自由自在で快適な自分を見出せる。この肉体は一カケラに過ぎない。
☆☆☆
痛みに苛まれる今この瞬間、魂のオレは、心地よい光の中に浮かんでいるんだよ。
この世は映像。どんな痛みで苦しんだとしても、消えていく幻影に過ぎないのさ。
本体である魂は、何一つ苦しむこともなく、体験から得られる理解を深めていく。
☆☆☆
そして、治ってみれば──
どうしても、思い出せない。臨場感は薄れていく。あの痛みが何処かへ消えている。
何をやっても、痛んだ時の記憶は蘇るのに。実感が浮かばない。何処へ消えたのか。
☆☆☆
治るといい気なもんだ。座りっ放しで動かない。横になってだらだらネットを見る。原因になったであろう所業を繰り返す。
わかっちゃいるけどやめられない。自分を責めてもムダ。決まってるんだよ。やれやれ。
あの痛みは本当に消えてしまった。痛かった記憶はあるけれど、痛みの感覚そのものは、どうしても再現できない。
☆☆☆
幽界に逝けば、きっとこんな感じだろうか。肉体がないからね。実感できないんだよ。
それでは、理解が深まらない。幽界で想念を浄化できないと、霊界へ進めないのに。
幽界から、また現象界へ逆戻りってわけ。
☆☆☆
なるほどね。そういうことか。
痛みに苦しんでいたあの時を、この肉体次元に喩えるならば、今こうして治って、痛みが再現できない感覚は幽界というわけか。
もう沢山だよ。
☆☆☆
そろそろ自分を許さないと。ミドリを守ってやれなかった自分を責めていたのだ。
守る。一体、何から守るというのか。
ミドリが、自分で決めた人生だ。過去世の想念を浄化するために組み込んだシナリオ。現に今はもう、自由自在になっている。
☆☆☆
感覚で悟る。懐かしい声が聞こえる。もう大丈夫なの。笑顔が浮かぶ。オレも笑い返す。そうか。大丈夫なのか。よかったな。
守り守られて。後悔と自責。出逢って別れ。あぁもういいや。次の人生では要らない。
残り時間、想念の不自由さを味わい尽くす。現象から目を背けず、魂の理解を深める。
☆☆☆
帰り時、夜空を見上げ、駅からの道を歩く。普通に足を進める。これができなかった。今は簡単にできてしまう。
いやいや。簡単ではないんだ。痛みの最中、本当につらかった。あの負荷が、今も掛かっている。細胞は悲鳴をあげているんだよ。
交差点の手前。信号が変わり始め、つい小走りに渡り切った。暗澹とした心持ち。理解してない。喉元過ぎて熱さを忘れている。
☆☆☆
そう。オレは細胞の声を聴いて来なかった。聞こえても想念を優先させた。
中真ではなく、外にある何かを優先させた。この腰痛は最後通牒かもしれない。
中真を覚ませ。心を澄ませ。命がある。永遠の命があるのだ。他は消えていく──
☆☆☆
細胞は連動する。一繋がり。腰が痛めば他に響く。全て関わる。37兆2千億の細胞が、通じ合っているのだ。
ふと意識は広がる。待ってくれ。これって、オレたち地球人そのものじゃないか。
ウィルス騒動に大騒ぎ。影響を受け廃業する人がいれば、大儲けする人だっている。
戦争で国を追われる人がいれば、武器を売って大喜びの人もいる。全部一つ繋がり。
☆☆☆
ウイルスに怯える。予防接種を非難する。決めかね流される。そのどれも自分の姿。
我欲が現れている。想念の現象化。理解することだ。理解の深さだけが決まってない。
細胞の隅々まで、魂の奥深く、理解することだ。オレにはそれだけが残されている。
☆☆☆
戦争を仕掛ける。戦火に追われて逃げ惑う。武器を供給し大儲け。情報に呑まれ、心が揺れ動く。我関せずゲームに興じる。
その全て自分の姿。過去生で積み重ねた不自由な想念が、今オレの目前に顕われている。よく観ろ。よく聴け。感覚を磨ぎ澄ませ。
ただ不自由であると思い知ればよい。言葉を超えた世界で理解。魂が悟るこの理解こそ、死後のオレを導いてくれる──
☆☆☆
魂は既に、救われている。
☆☆☆
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☆☆☆
如何でしたか。
一晩眠って明日の午後6時、西遊記に揺さんとのお喋りで創作秘話を纏めます。
次回、4月3日の午後3時、お会いできれば嬉しくなります。
ではまた💚
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